植物の天敵は植物《改編版》
会社の飲み会ウェロウェロ......したお
新しい発見がありました。
どうやら【精神安定】のスキルが発揮されるのは、『戦闘時のみ』みたいですね。
発動の感覚だと思うのですが、命の危機に晒されると一瞬、体にビリって電流が流れたような感覚があって、そのあと意識が『パニックを起こさず対処できるように』切り替わるように感じたので、このビリっとくるやつですね。これが発動の合図だと思えます。
あと、発動している時は、一歩横なら当たらないな......とかの感覚が、短剣が迫ってくる直前まで冷静に考えることが出来るみたいです。まさに、達人の境地に達したように!!
仕組みはよく解りませんが......現状無いと、間違いなく首をかっ捌かれていたでしょう。た、助かりました。
「......弱点を突くニャ!」
(ばっかやろ!兄弟ェが【絶叫】スキルを使うから、ミャオのやつスイッチ入っちまってんだろうが!)
「私のせいじゃありませんよ!?」
さて、左手に短剣を逆手に持ち、逆の手にはポケットから取り出した何かを握り込んで、こちらに向かってきたネコミミのミャオ・チャトレさんを警戒している私ですが、このときは、【精神安定】のスキルが働いているのか、短剣という一度は明らかに致命傷になったであろう位置を通った凶器を見ても、怖じ気づくことはありませんでした。
向かってくるミャオさんから視線は外さず、身構えていると、『暴言を吐く雑草』こと、フリードさんが騒いでいました。
どうやら、私がキレてしまい叫んだ時、【絶叫】スキルの一つ、【嘆きの慟哭】が発動したからアイツが本気で襲ってきた。
と言うことらしいですが、あの......一撃目で既に即死コースだったんですけど......てか、私叫んだだけでスキル発動しちゃうの!?しかも何、その中2チックな固有名は!
いや、そんなことより、あのときはもう【精神安定】のスキルが発動していたんですけど、キレてしまえる私が異常ですか!?それとも、フリードさんが煽りレベル高いの!?
まぁ、【精神安定】のスキルに一定条件て書いてあったから、きっと戦闘時でも雑草の暴言は対象外なだけだよね?
「そこニャ!!」
「っ!あぶ、ない、で、すよ!」
「く、あたらニャイとは......やはり即死誘発型。」
(ちょ、兄弟、俺を盾にするんじゃねーよ。)
ミャオさんが、長身の体を低くして足元すれすれを払い除けるような回し蹴りを放ってきたので、バックステップでかわしたら、今度は蹴りを放った足で、思いきり地面を叩きつけ、その勢いのまま腰元に向かって、銀の残光が弧を描く軌道で左手の逆手持ちの短剣が振り抜かれました。その短剣の軌道では勢いもあり、しゃがんだり地面に潜ったりはする暇もありません、どこまでいけるかわりませんが......ある一定高さに置かれたバーを潜るダンスのように、バーの代わりを、刃渡り15cmくらいの銀の短剣の軌道を見立てかわしました。
本当に紙一重でした。
そして、振るわれる戻しの軌道に、うるさいだけの役に立たないフリードさんを盾がわりにして、短剣の軌道を無理矢理変更させたのです。
さすがのミャオさんもフリードさんには攻撃できないようですね。
軌道がずれた隙にまた、10mくらい距離をとらせて貰いました。
そもそも、私が襲われる謂れはありません!この世界に来て2日ですよ、むしろ変な草に絡まれているんですよ?
く、こうなったら仕方ありません......生まれて2日の私でも、今は達人の境地に到達している気がします。
さらに、転生前の経験記憶にある【星光流基本体術】を使用します。ふっふっふっ......まぁ、実際私の元の体が記憶に無いんで、足運びとか記憶の中の5代目当主の星光 五月さんを真似して動いてみましょうか......
記憶の中の五月さんは、見た目小柄でショートヘアーの黒髪をふわりと揺らし、その場から一歩動き、相手の力の流れに合わせて、相手が向かってくる軌道に手を置いておくだけで、勢いよく手に触れた相手は動きを止めその場で崩れ落ちていました。多分触れた瞬間に相手の動きを利用して威力を倍にしたのでしょうね。これが、基本体術【相掌】か......相手の力を利用する合気道の一種かな?
でも、なぜでしょうか、私の記憶には五月さんの戦闘風景がこれしかないんですけど......てか、五月さんの相手めっちゃ強くて有名だった気がするのですが......瞬殺?
まぁ......大事なのは今の状況で、記憶じゃないのです。
そう結論付けた私は五月さんの動きを模範し、行動に移す覚悟を決める。
イメージは流れるようにしなやかで無駄に力が入らないような状態ーーー。
腰を落として警戒を顕にしている状態を維持するのは辞めて、全身から力が抜けるようにリラックスした。
一見気が抜けたように周りからは見えるかもしれないが、実際はリラックスすることで全体に視野が広がり、相手の動きを正確に読むことが出来る......らしい。
スッーーー。
「?......ッ!?」
そんな私を見ていたミャオさんはネコミミと尻尾をざわざわっとして、怒りを露にしていました。
「なんニャ!それは余裕の態度かニャ!私も嘗められたものニャ......」
ものすごい剣幕で言い、その場で銀の短剣が、風を斬るかのような音が鳴るほど、高速で振り回していて威嚇しているようでした。
あれ?
声には出しませんが、『余裕?ちがうわ、イッパイイッパイよ!そんな怒らなくてもいいじゃない!?』と心の中で言っておきました。
もしミャオさんが怒り任せに攻撃してきたら、【相掌】を楽に決めれると考え、相手が向かってくるのを待ちます。
「容赦はしニャイヨ......ギル、死ニャないように。」
「!来ますか。」
(マジかよ!てか、兄弟......やっぱり同族だな!)
ミャオさんから殺気が最大限に膨れ上がるのを感じました。
そろそろって時に、フリードさんは何を言うんですかね、まったく。
(なにがですか?それは当然同族ですけど......なんか別のことを言っている気がします。)
ミャオさんは腰を落として尻尾を逆立てていました。
(ああ、マンドラゴラにはな、相手をイラッとさせる隠しスキルがな......)
(フンッ!)
(どふぉわッ!何しやがる兄弟っ、土がはみ出て中身がでちまう!?ポロリしちまうだろうがぁぁぁ、シャウト出来ずにポロルだろうがぁぁぁ)
黄色い蛍光色の髪を揺らして、ちょっとした地面の窪みに、変なことを言うファンシーな鉢植えを投げ込みました。
まったく、フリードさんのアホな話に耳を傾けた私がバカでした。こんなときに!!
いま、殺気向けられて膠着状態なのに、変なボケ入れないで下さいよ。
しかし、そうですか、マンドラゴラには相手をイラッとさせる力があると......なんて迷惑な能力じゃないですか!
ああ!フリードさんがバカなこと言っている間に、ミャオさんが四足歩行みたいな体勢になっていました。
ミャオさんは両足に力を溜め、まるで猫が飛びかかる直前の格好のような体勢になっていて、殺気さえなければ可愛いだけなのに、と思ってしまいます。
そして、ミャオさんは左手に短剣を握ったまま地面に置き、右手を開いて前足のように着いていました。右手?
(フリードさん......すごく嫌な予感がするんですけど。)
(はっはっはっ、うまくかわせよ兄弟!!)
笑ってる場合ですか、他人事だと思って!
「即死誘発型でも、マンドラゴラの特性は変わらないニャ!」
「な!?後ろ、いつの間に!」
「それは、強襲すると、シッ!」
声が聞こえると同時に、前に転がるようにかわしました。またしても、当たったら即死コースでした。ミャオさんホントに容赦ないな!!
しかし......そんなばかな、確かにミャオさんは正面に捉えていたのに、いつの間に後ろに来たのでしょうか?くっ、このままでは相手のペースで、【相掌】を合わせようにも、まだ張りぼての技能じゃ、強襲されたら合わせられません!
そして、少しでも距離を稼ごうと地面に潜ろうとしたら、
「ちょっ!潜れな、っ、あぶな!?」
「地面に潜ろうとすることニャ!シャッーーー。」
地面に潜れず戸惑った瞬間に、頭目掛けて振り抜かれた足が迫り、何とかその場で仰け反り、かわした時には、銀の閃光が首に吸い込まれようとしていてーーー。
ヒュッーーー。
「うっ!く、」
「む?今のは欲しかったニャ......ちなみに潜れなくなったのは、この、【ヒビナリネ】の実の効果ニャ!」
ええ、ええ、本当にほしかったですね......首筋に青い線が出来ましたよ。
そして、焼けるような熱さの後の、首筋を伝う液体の感覚。
「マンドラゴラの血って青かったんですね。いや、体液か。」
「?何をいまさらニャ。」
首筋にてを当てたときに、付いた青い液体を見てそう思った。
やはり、地面に回避する手段を奪われてしまったみたいです。
この【ヒビナリネの実】を地面において思いっきり踏みつけるか、衝撃を与えることで、半径3mの地表面に数秒で根を張り、地面を硬質化するのと、毛細血管並みに細かい網目状になることで養分をくまなく吸収できる特性を持つため、網目が細かすぎることと硬質化で潜れなくなっているというわけだ。地面に潜ったり、大地の魔力を利用するタイプの魔法植物にとっては相性が悪い植物である。
結果、地面に潜れず、さっきのスピードで来られたら即座に追い詰められるために、もはや万事急須である。
そんな私に、ミャオさんは不思議に思ったのか、いっこうに止めを差してきません。
「どうして、【絶叫】を使わないニャ?まぁ、対処できるから使われても結果は変わらないニャいけど......」
「スキルのことですか?私生まれて2日でして、使い方なんかわかんないんですよね。」
「ニャ!ニャント!?」
ミャオさんは面白いリアクションを返してくれました。それにしても驚きすぎじゃないですか?
そんなことを思ってましたが、目の前に向けられた命を奪うことが出来る銀の短剣が引っ込められたのを見て、ホッと息を漏らします。
「それじゃぁ、生後2日に攻撃を易々かわされたウチの立場が.....」
「ええぇっと......」
ミャオさんはその場で天を仰ぎ、遠くを見つめていました。
そんな変な空気が流れる中、ファンシーな鉢植えに、自ら土を蔓でせっせと入れていたフリードさんから念話が送られてきました。
(おい、変なのが近づいてきている......ミャオに聞いてくれ、何か知ってるかどうかをな)
(?わかりました......けど、それ気に入ったんですか?)
(聞きたいか?)
(ッッ!ケッコウデス。)
そう言ったフリードさんは、蔓をうねうねさせてこちらに伸ばしてこようとしていました。
NO.触手プレイ!
NO.空中遊泳!!
一歩二歩と距離を取る私ですが、とりあえず、隣で天を向いたまま動かなくなったミャオさんに話しかけました。
「ミャオさん!ふりー......ギルフォードさんが、この森に厄介な奴がいないかって言っています。」
「ギル......ニャ?お前には、ウチ名前教えてニャかったのによくわかったニャ!」
「フリードさんに聞いたんですよ。」
うようよ動く雑草を指差しました。
「だから、ギルだっていってるニャ!」
なんとか、ミャオさんの再起動に成功したみたいです。そして、話を聞いてくれるようになったミャオさんに自分の経緯を説明しました。
当然神様とか言っていませんし、転生のことも伏せました。このことはフリードさんにも内緒です。
説明し終わると、ミャオさんはフリードさんと私を交互に覗きこんでいました。
全部話せることは話したんですが何が疑問なんでしょうか?
「ニャんで魔核の魔「おおっとっと触れちゃいけねーな!シャウトすっぞ。」」
そういう肉声がファンシーな草から聞こえてきてビックリしました。
なんか、声は不良系ってよりは、ほどほどの悪さをしている高校生くらいの声で、でも、見た目は草で......なんていうギャップ
「魔核がどうしたんですか?」
「ああん?兄弟にはカンケイネーヨ」
「うニャ?オマエの中の魔核に「アホ粒子がな!!詰まってるってさぁああ!!」」
「ひっひどい!」
信じないから......絶対に信じないから!!
そのあとも、ミャオさんが意を決して言おうとしましたが、フリードさんにとめられてしまい、そのあと私をハブにして、こそこそしていました。別に寂しくなんか、ないんだから!
というか、フリードさん喋ってんじゃん!?
「フリードさんなんでさっきは植物間ネットワークで念話したんですか!?普通に話せば戦闘すら無かったかもしれないのに!」
「ばっかやろう!無理してんだよ!労れよ!喋るだけでMP減ってくんだよ。」
「私は喋っただけじゃ減りませんよ!!」
「即死誘発型と一緒にすんなや!!」
う、そういえば、フリードさんと私のタイプは違うんでした。
「で、ミャオ、手短に進めてーな。」
「なんニャ?」
「おまえ、知ってんだろ。この森の東側に何が来ている?」
その質問に全身が跳ねるほどのリアクションを取るミャオさん、そして、ピンとした尻尾とネコミミがぺタンとなってしまいました。
「勇者......新たな勇者がこの森に生まれた魔物を探してるニャ......」
そういって、こちらを申し訳なさそうにちらちら見るミャオさん。長身な体型をしょんぼり縮めて上目使いでこっちを見てきます。
「ん?私のことですか?」
「......チッ」
「そうだと思うニャ......」
ミャオさんとお互い顔を見合わせた時、結構な近さで魔法と魔法のぶつかり合う爆音が響いてきました。