小人族の町《改編版》
賑やかな喧騒。
打てば響くような客と商人の会話も聞こえてくる。
全体的に町にいる人々の身長は小さく、顔も幼い印象を与える。
「ここまで来たな......」
「ほんと道中ヒヤヒヤだったニャ。」
長身の男性が感慨深く呟くのに同調するスレンダーな女性。
ここは、魔性の森を抜けてすぐ近くにある、コンクレントに属する異種族集落のひとつ『小人族の町』。
種族集落では基本的に、その種族が住みやすい作りになっている。また、他種族に対して宿屋や居酒屋、薬屋などがあり、他の場所で得られない物や、特産品を扱ってたりする。ここ小人族の町も例外ではなく、小人族でしか作れない霊薬が存在する。
町の中では、純人や獣人などの人だかりが、薬屋に長い列を作っていた。
列を作る彼、彼女らは、種族はバラバラだが似通った服装をしていた。たぶんほとんどが、魔性の森にある樹海迷宮の攻略メンバーだろう。
現在は太陽が沈み始めた夕刻だというのに、今並ぶと、後2時間は確実に掛かりそうなほど人気のようだ。
そんな大人気の薬屋を抜けて、集落の外れまで行き、人気が無くなった道の先にある宿屋兼居酒屋に、二人組がたどり着いた。
男性の方は、スラッとした長身に、ツンツンした金髪、少しイライラしていそうな雰囲気を纏った青年と、青年に比べたら、少し小さい位の身長に茶色い髪に同色のネコミミと尻尾を持った獣人族の猫型の女性の二人組は、その建物の中に入っていった。
「いらっしゃい!あれ?ダンナとミャオねーさんだけですか。」
そう言って出迎えたのは、子供くらいの見た目の小人族だった。
「そうニャ......その様子じゃあ、みんな来てニャいね?クレーフくん」
「そんなことより、レーゼン深水くれねーか?」
一言目の反応からミャオは、『リストリア』で決めていた集合場所に、まだ誰も来ていないことに気づいた。
そして、ギルフォードはメンバーが居ないことに安堵して、今の内に用件を済ませようと考えていたが......
「ダンナ!?まさかついにレーゼン様の神水に手を......」
「おい、クレーーーーフ!!変に思われるからヤメロテメェ、シャウトすんぞおらぁ!」
「クレーフくん!からかってないで早くするニャ!連れの魔法植物が瀕死なんだニャ。」
目の前で騒ぐギルフォードを無視して、危ない勘違いをするクレーフにミャオはとりあえず説明だけした。
さて、話にある『レーゼン深水』とは、コンクレントの周辺でレーゼン湖に隣接していれば比較的に簡単に手に入れることが可能だ。しかし、ただのレーゼン湖から汲んだ水という簡単な理由ではなく、レーゼン湖の水底にある魔皇城から、魔皇の部下がレーゼン湖周辺の町に頻繁に、売りに回っているからだ。また、その出所は不明という透明な水だったりする。さらには、この水がコンクレントでの普及率一番という謎の統計が存在する。噂では、部下が金策に走っているとか、部下が勝手に魔皇が入った風呂の残り湯をコアなファンに売りさばいていたのが発祥とか、アイドル魔皇のおしょ......神水ではないかとか、さまざまな憶測が飛び交っている。
さらに謎なのが、『レーゼン深水』はミネラル豊富で摩訶不思議の性能を秘めている、それは、解毒に治癒、体力や魔力の回復など効果がある便利アイテムなのだ。薬屋顔負けである。
故にこの水のファンは多く、それ以上に魔皇のファンが多いため噂も絶えないというわけだろう。
そして、ここにも噂を信じている、いや、そうであれと望んでいるファンの一人がいた。
「なんだダンナが目覚めたわけじゃないのか」そう残念そうに言い残して、クレーフと呼ばれたミャオの腰元くらいしかない身長で童顔の青年は店内のカウンター奥へと入っていった。
そして、その場に残されたのは、金髪のギルフォードとミャオ・チャトレの二人だ。
「『レーゼン深水』って実際噂通りのモノなのニャ?」
「ぶはっ!んなわけねーよ?あれはな、レーゼンが氷の自然魔法【アブソリュート・プリズン】で水底の澄んだ水を凍らして魔皇城の冷蔵部屋に持ち込み、そこから長い年月を掛けてレーゼン自らが魔力を当てて魔法威力のコントロール訓練に使っているときに、余波で溶け出た水なだけさ。」
そういったギルに少し考え込んでからミャオは神妙な顔で言った。
その時コアなファンが戻ってきていることには二人とも気づかなかった。
「んニャ?でも結局それって「なんだって!?これにはレーゼンちゃんの魔力(愛)によって溶け出た液体ってことは......」」
「これぞ......あぶぇれそ!???」
「うし、目的のモノは入った......早く戻るぞ。」
「......飛び蹴りは、やりすぎじゃニャいの?」
「ばっか、今トバシとかないと、絶対渡さなかっただろ!」
「......ありえるニャ。」
小さい身長に身の丈を越えるほど大きな愛を語ろうとした小人族の暴走を止め、『レーゼン深水』が入ったビンを右手で上に投げ、クルクル回しながら金髪の青年は言う。
そして、ネコミミの女性は、吹っ飛ばされた小人族の前で手を振り意識を失っていることを確かめ、苦笑いをしつつ気を失っている青年にアイテムの代金より少し多目の金貨を握らせた。
こんな変人でもこの宿の亭主で、話のわかる奴だ。
そして、ここは『リストリア』の一風変わったメンバーのお気に入りの場所でもある。
こういうおふざけもいつものことだ。また厄介事に巻き込んでも、クレーフなんかは後でヘラっとしていそうだった。
意外に心が広い店主は『リストリア』のメンバーに好まれている。
そう思っている二人は、他のメンバーが戻る前に、近くの地面奥深くに埋葬してきた少女を掘り出しに出ていった。
「あの混乱具合からあの子のMP総量って少ないのかニャ?」
「いいや、兄弟はMP総量の上限を何らかの理由で制限されてると思うぞ。封印とかか?」
「やっぱりニャ......【識別眼】で見たとき容量がギルより多かったニャ。」
「知ってるよ......兄弟が生まれるとき、俺の全魔力と魔核の5割と魔獣共が魔素化して送っても、兄弟の魔核を2割回復させるのがやっとさ。」
魔核を持つ生物にとって、魔核とは心臓だ、寿命とも言っていい、これはMPみたいにすぐには回復しない。
ギルフォードで例えるなら、MPが切れたから生命力を使った。
この時、MPの自然回復が終わる頃に生命力、つまり寿命が回復する。そんなことはあり得ない。
しかし、魔核を持っている者は魔核を回復させる手段を持っている、それは、魔力または高密度の魔素を大量に吸収すること、これにより、周りのエネルギーを取り込み回復できる。逆に言えば、魔力が薄いところだと、生活するだけで魔力を失い、いずれは魔核のエネルギーすらなくなって衰弱していくだろう。故にギルフォードの場合、MPを使い切らないように注意し、魔核は消費しないようにして魔核の回復に勤めているのだ。
「......なんでそこまでしたのかは聞かニャいけど、あの子の中にギルの魔力反応があったのは理解したニャ。」
「わりーな、あのときの気持ちをどう言葉にしていいかわかんねーからよ。」
そんなことを話しつつ、ミャオはため息を付き、ギルフォードはオレンジに染まるコンクレント湖上都市を遠い目をして眺めた。
そんな二人は集落北の出入り口を外に抜け、レーゼン湖の湖畔を目指す。
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その頃、生まれて二日で、再び魔核がレッドゾーンに突入している闇は、うとうとしていた。
ゆりかごの中にいるような心地いい空間。周りから感じるぽかぽかした暖かさ。
自分の中に入ってくる濃度が濃い空気みたいなもの。それが胸の奥に到達したときの安心感。
そんな中で、アンは感じることができた。これが魔素でこれが魔核か、と、前世で生きた中で、こんな器官は体には存在しなかった気がするが......何故か当たり前のように違和感無く感じることができた。
少ししてから意識がはっきりしてきたので、今の自分の現状......なんでこうなったのかを考えることにした。今は、魔核が枯渇しそうなので、緊急措置として二人に地面奥深くに埋葬されていた。その時の記憶は余りない。そこで、MP消費について考えを巡らしていた。
「思うんですけど、植物魔法【制限】を掛けておいたのに、戦闘時のMP消費量おかしくないですか?なんですか!ミャオさんと戦った時間は5分くらいなのに、最初にMP:234あったのに終わってみればMP:8って!?」
そして、その後のダッシュで10秒たったら頭に靄がかかって、お酒で酔ってる感じになっていた気がした。そのあとから朦朧としていて気付いたら魔性の森を抜けて、地面に埋められていた。
というわけだ。
こうなれば今度からずっと【重ね掛け】のスキルを掛けておいてみようかな?
そう思って、カードを取り出した。カードはもうすでに、スキル設定画面だったが......
一々操作しなくてラッキーと思い、早速セットした。セット対象は複数選んだ。
『魔力回復量×3』『身体(器用)×2』
の内訳にしてみました。
これで、魔力消費が多い私も釣り合いが取れると思う。
あと、器用をあげたのは、もしかしたら五月さんの技、そして私が唯一使える近接技【相掌】が威力が上がるかもしれないという思いと願いでつけました。
というかですね......【想天花(緋色)】この固有スキル説明文すらないんですけど、チョー不親切です。
分かんないものはパスパス......
あとは、重ね掛けしてみた回復量をチェックして、カードに不備が無いか確かめておいた。
最後に、二人がくるまで待つだけだ。
「この近くの集落ってどの種族なんでしょうか?わくわくします。」
うずうずしながら、二人の帰還を待っていた。




