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閉じた瞳とお友だち

作者: 鈴ノ風

これは東方プロジェクトの二次創作です。

作者の妄想、二次設定、キャラ崩壊を多大に含みます。

それらが受け入れられない方は、今すぐブラウザバックしてください。


 ある日、湖のほとりで遊んでいたチルノは、視線を感じた。

 うすぼんやりとした、気まぐれな風みたいな気配。それが気になって、顔を上げる。

 少し離れた木々の陰に、緑色の少女を見た。

 黒い帽子と、フリルのある緑の服。胸のあたりには、青い球体が浮かんでいる。

「どうしたの、チルノちゃん」

 一緒に遊んでいた友人、大妖精が声をかけてくる。

「あれ」

 チルノは指差す。

 緑色の少女。こちらを見ている、なのに視線が合うことのない、不可思議な子。

「こっちを見てるけど、チルノちゃん知り合い?」

「知らない」

 知らないけど、なんだか無性に気になったチルノは、大きく手を振った。

「おーい。あんた、誰?」

 声を聴いて、少女が身じろぐ。チルノはようやく、視線が交わるのを感じた。

 けど、返答はない。謎の少女はしゃべることも、動くこともせず、こちらを見るばかり。

「あたいチルノ。こっちは友達の大ちゃん。あんたは?」

「……」

 声は聞こえない。けど、唇が確かに動いた。

「よく聞こえない。もう一回」

「……古明地、こいし」

「古明地、こいし」

 チルノは少女の名を、古明地こいしという名前を頭の中で反芻する。が、いくらたっても、心当たりはない。

「あんたずっとこっち見てるけど、あたいたち知り合い?」

「違う」

「じゃあ、なんで見てたの」

「知らない。気づいたら見てた」

 そっけない返事には、感情らしいものが何一つ含まれてなかった。

「ねえ、チルノちゃん」

 大妖精はこいしに対して不気味なものを感じたのか、不安げな表情でチルノの服をつかむ。

「あの子なんだかおかしいよ。別の場所にいこう」

「? おかしくないよ」

 チルノには疑問だった。大妖精の言葉にも、抱いている感情にも。

「本人も言ってたじゃん。気づいたら見てたって」

 チルノの記憶に古明地こいしなどという少女はいない。しかし似たような状況で、似たようなことをしてた人間になら心当たりがある。

「きっとあれだよ。私たちが遊んでたのを見て、羨ましくなったとかそういうのだよ」

 チルノの頭をよぎる人間たち。病弱な少年、仕事を失った中年、骨と皮しかなさそうな老人。

 皆こいしのようにこちらを眺めていた。何かを訴えるでもなく、何かを求めるでもなく、ただただ眺めていた。

「ねー、あんたも一緒に遊ぼうよ」

 チルノは、思い浮かべた彼らに言った言葉を、少女に対しても口にした。

「ち、チルノちゃん!」

 大妖精の静止の声は、チルノの耳に届かない。

「遊ぶ……遊ぶ? 何で?」

「だってそのほうが楽しいじゃん。ぼけーっとみてるだけなんて、バカみたいで頭に悪いよ」

「チルノちゃん馬鹿とか人に言えないであいてっ」

 余計なことを口走る大妖精を軽くたたいた。

「だからさ、一緒にあそぼ」

「楽しいって、何?」

 楽しいということ、喜怒哀楽の楽。普通ならば説明するまでもなく知っているはずのことを、少女は初めて聞いたかのように問う。

 その問いに答えることは難しいだろう。チルノには特に。少々例外的とはいえ、あくまで妖精に過ぎない彼女に、そんな哲学じみた問いに答えなど出せない。

 だから。

「なんでもいいじゃん。遊ぼう」

 チルノはこいしに近づいた。腕をつかんで止める大妖精を振り払って。

 かつかつ、かつかつ。こいしの目の前に立って、その無感動で無機質な瞳を前にして、チルノはためらいなく手を伸ばした。

「っさ」

 一緒に行こうと、そう言った。

「……」

 こいしはすぐには動かなかった。しばらく、何かを不思議がるようにのばされた手を見つめている。

「変なの」

 やがてそんなつぶやきとともに、彼女は手を握り返した。

「っもう、チルノちゃんったら」

 大妖精の困ったような、諦めたような、でも少しうれしいような文句を聞きながら、チルノは笑顔でこいしを引っ張った。


          ***


 三人はいろいろなことをした。

 チルノが生み出した氷で、雪だるまならぬ氷だるまを作った。

 テレビに影響されたチルノの提案で釣りをした。

 しかしすぐ飽きたチルノによって、追いかけっこが始まった。

 チルノが騒いで、大妖精がそれをほほえましげに眺めて、こいしは何もしないからチルノに振り回された。

 時間はあっという間に過ぎていった。頭上にあったはずの太陽は、赤く染まって地平線へと沈んでいく。

 三人は地面に座って、それを眺めていた。

「ふー。楽しかった」

「私は疲れたよ、チルノちゃん」

「……」

 こいしは何も言わず、消えていく太陽を見ながら、立ち上がった。

「あれ、帰っちゃうの、こいし? もっといればいいのに」

「チルノちゃん。ダメだよ、古明地さんにも都合があるんだから。家の門限とか、そういう感じだよきっと」

「違う」

 答えは一言だけだった。でも、そこの言葉には確信がない。かといって、疑問があるわけでもない。まるで脊髄反射で声が出ただけかのよう。

 チルノはこれまでの時間で、彼女の性格を何となく感じていた。彼女はなんというか、意識がないのだ。その言葉のすべてが、寝言か何かにしか感じない。

 一見起きて、意思を持って行動しているようで、その実何一つ考えていない。夢遊病のように、頭は眠っていて、体が動くだけ。体が動くから、まるで起きているように感じるだけ。

「家に帰るんじゃないなら、どこ行くの?」

「どこにも行かない。ここからいなくなるだけ」

 目的地なんて一つもなくて、何となく足を動かすだけ。必然的にどこかには着くけど、行きたいからたどり着いたわけではない。

「ねえ、こいし。それって楽しい?」

 そんな死人みたいな生き方は、楽しい?

 チルノの問いに、答えはなかった。

 こいしはただ黙って、沈みゆく太陽を眺めていた。チルノも、大妖精も、それに倣った。

 やがて、太陽が完全に沈んで、西の空が橙から青へと変わっていくとき、こいしが言った。

「楽しいとか、分からなかったけど」

 消え入りそうなほどか細く、けれど確かな芯をのぞかせる声。

「この時間は、今まで以上に夢みたいだった」

「……」

 チルノが振り返ったとき、すでにこいしはこちらに背を向け、歩き去っているところだった。

「こいし!」

 チルノは立ち上がって、その背中に言った。

「また遊ぼうね!」

 返事はない。

 でも、その足取りが一瞬だけ滞ったのを、チルノは確かに見た。



 少女は歩く。

 いつものように、無意識に任せて。

 いつもと違って、胸に宿ったぬくもりを感じて。

 その顔は、とても楽しそうに、笑っていた。


螽斯さんのお題がいまだ消化できないので、適当に短編でも書いて書くことに慣れよう。ということで描いた短編です。

そのためクオリティは度外視で書きました。きっとひどいことになってると思います。

まあでも、『チルこい』とか見かけた記憶がないので、ありかなー、なんて。

いつかさとパルが書きたい

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