(6)大発見?
シュレインが目をつけた儀式は、大地母神の力を借りて精霊との契約を行うというものだ。
その書物には、精霊と契約を行った際にどういう結果がもたらされるのかは具体的に書いていない。
結果が詳しく書かれていないのは、術者によってその効果が違っているためだとしている。
ともかく、この儀式を行えば、なにかの効果を得ることができるらしい。
シュレインがこの儀式を気にしたのは、クラーラ神とのつながりを得ることができたためだ。
いまのシュレインであれば、大地母神の力を借りることも容易で、儀式も成功するだろうという目論見があった。
結果がどういうことになるかはわからないが、試す価値はあると考えたのである。
その儀式についての文章をしっかりと読み込んだシュレインは、早速とばかりに準備にとりかかった。
ヴァンパイアが行う儀式は、身一つで行えるものもあるが、小道具を用意しなければならないものもある。
中には、一週間やそれ以上をかけて準備しなければならないような儀式もあるのだ。
今回の儀式は、普段儀式で使うような簡単な道具だけでできることも、シュレインがすぐにやろうと思い立った理由のひとつだ。
魔法陣を地面に書いたりするための道具や、大地母神にささげるための供物を用意したりする必要はあるが、それらは特に貴重なものというわけではない。
そうした下準備を全て終えたシュレインは、ようやく儀式を開始したのである。
錫杖を持って祝詞を唱え始めたシュレインに合わせるように、すぐに儀式に変化が起こった。
シュレインが唱える祝詞に合わせるように、周囲で精霊の光が乱舞し始めたのである。
エルフの一部を除いて、普段は精霊光など見られるものではない。
それが、シュレインがなにもしなくてもみられるようになっているのだから、儀式の影響と言っていいだろう。
もっとも、儀式はまだ終わったわけではない。
シュレインは、内心で驚きつつも儀式を成功させるべく、最後まで祝詞を唱え続けた。
祝詞の終了とともに、乱舞していた精霊光がシュレインの目の前に集まり、用意していた台座の上にゆっくりと降りて行った。
そして、その光が消えたあとに、水晶のような透明な球体のなにかが置かれていた。
儀式を始める前はなかったので、精霊たちが置いて行ったことは間違いない。
危険はないと判断したシュレインは、その球体を手に取ってつぶさに確認した。
「水晶・・・・・・のようにも見えるが、なんじゃろうな?」
手に取ってみたが、水晶であるかどうかまでは特定できなかった。
精霊が置いて行ったものがなにかはわからないが、結果を残せたということで、儀式は成功したと言っていいだろう。
また新しく古い儀式を復活(?)させたということで、シュレインは上機嫌に部屋を出て行った。
勿論、水晶のようななにかを回収することは忘れない。
次のシュレインの仕事(?)は、その水晶もどきがなんであるかを確認することだ。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「コウスケ、これがなんであるか、わかるかの?」
ヴァンパイアの里に戻っていると思っていたシュレインが、そう言いながらいきなり差し出してきた物を見て、考助は首を傾げた。
「ん? 水晶・・・・・・じゃなさそうだね。触っても?」
「ああ、勿論じゃ」
ヴァンパイアにとって重要なものかと考えていちおう確認してきた考助に、シュレインはあっさりと頷いて考助の手に、その水晶もどきを乗せた。
シュレインが渡したのは、儀式で精霊が置いて行ったものだ。
あのあと幾人かのヴァンパイアに確認を取ったのだが、結局なんであるかを答えられるものがいなかったのだ。
当たり前だが、プロスト一族のところにまで出向いてみたが、その返事は芳しくなかった。
結局、水晶のようななにか、という答えしか得ることができずに、シュレインは答えを得られそうな考助のところまで来たのである。
しばらく手の上で水晶のようななにかを転がしていた考助は、うーんとうなったあとにシュレインを見た。
「もしかしたらという候補はいくつかあるけれど、きちんと調べるにはちゃんとした道具を使わないと駄目だね」
「当たりは付いておるのか!?」
考助の答えに、シュレインは驚きの表情になる。
ヴァンパイアからはそれらしい答えが得られなかったのだから、それも当然だろう。
そんなシュレインの内心には気付かずに、考助はあっさりと頷いた。
「うん。まあね。でも、やっぱりちゃんと調べたいな。別に傷をつけたりはしないから・・・・・・駄目?」
考助は、研究者というよりは職人という部類に入るが、道具を作るための材料には、研究者並みに詳しい。
当然、素材を調べるための道具も数多く持っているのだ。
考助の言葉に少しだけ考えるそぶりを見せたシュレインは、やがて小さく頷いた。
「調べるのはいいが、吾も同席するのは構わないか?」
「ああ、それは勿論だよ」
考助としても隠れてこそこそと調べるつもりはない。
そもそもシュレインが、どういうルートで持ってきた物なのかもわかっていないのだ。
もしかしたらヴァンパイアの秘宝だと言われてもおかしくはないと考助は考えているので、作業を見られることくらいは大した問題ではない。
考助(とイスナーニ)の研究室には、なにに使うのかわからないようなものが所狭しと置かれている。
なかには、一度使ったっきりまったく使っていない物や研究者や聖職者に見せればよだれをたらして欲しがるようなものもある。
考助が水晶もどきを調べるために出してきた道具もそのうちのひとつだった。
考助にとっても滅多に使うことのない道具であり、当然のようにシュレインは首を傾げた。
「それを使ってなにを調べるのじゃ?」
「簡単にいえば、魔力の伝導率とか含有量を調べるための物だね」
「ふむ」
と、シュレインは、いちおう頷きをしたもののそれを調べてなにがわかるのかは、わかっていない。
作業を見ている限りでは、水晶もどきを削ったり破壊したりするようなことはなく、棒のようなものをくっつけたりするだけだったので、シュレインはおとなしく考助のやることを見ていた。
考助は、それ以外にもふたつほど道具を使ってなにやら調べていたが、やがて満足した表情でシュレインに水晶もどきを渡してきた。
「わかったのかの?」
「うん。まあね」
「それで? なんだったのじゃ?」
答えを急かしてきたシュレインに、考助は落ち着かせるように宥めてから答えを返した。
「一言でいえば、妖精石とか精霊石とか言われている鉱物の一種だね。正確にどんな名前で呼ばれているのかはわからないけれど」
そもそも名前なんて付いてないのかもしれないねと続けた考助に、シュレインは一瞬目をパチクリとさせたあとに、恐る恐る切り出した。
「それは、もしかしなくても大発見だったりするのかの?」
「どうだろう? あっ、少なくともヴァンパイアにとっては、そうかもしれないね」
にやけながらそう言ってきた考助に、シュレインは悪い予感を覚えながらもここで聞き流すのは駄目だと叱咤しつつ、恐る恐る聞いた。
「・・・・・・どういうことかの?」
一応覚悟を持って聞いたつもりだったシュレインだが、次の考助の返答にその覚悟は木っ端みじんに砕け散った。
「これね。要はヴァミリニア宝玉とかアルキス神殿で使われていた宝玉の加工前の宝玉なんだよ」
考助のその言葉を聞いたシュレインは、三十秒以上その場で呆然と突っ立つことになるのであった。
過去の話を見てあれと思う方もいるかと思いますが、色々な謎は今後の話で語っていくつもりです。
ネタバレになるため、感想で突っ込まれても答えられませんのでご了承くださいw
ちなみに、今話で宝玉と判明した物は、以前の話で登場した物とは別物です。
その辺は次話で語る予定(?)です。




