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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第1章 古い契約と新しい(?)アイテム
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(3)契約の種類

ちょっとした説明回。

 ヴァンパイアが古来より続けている『契約』は、なにもクラーラ神とのものだけではない。

 それこそ家訓レベルのものまで含めれば、とてもではないがシュレインが個人では把握できないほどの数がある。

 さすがにそのすべてが、今回シュレインが見つけたクラーラ神との契約のように有効的なものであるかは疑問形ではある。

 代を重ねるごとに本来の形が失われて、形骸化してしまったものもあるだろう。

 だからといって、シュレインがトップダウンでそれを止めさせるということは考えていない。

 なぜなら、たとえそれが形骸化していたとしても、それを守り伝えるのがヴァンパイアの役目だと考えているためだ。

 そもそも、今回の件のように、目に見える形で結果が示されることのほうが少ないのだ。

 どこにどんな形で、有効的な契約が残っているかなど、誰にもわからないのである。

 

「そもそも今回の契約も、クラーラ神の気紛れということも考えられるからの?」

「そうなのですか?」

 シュレインの言葉に、シルヴィアは目を丸くした。

 契約ということは、条件が満たされれば、それに基づいて結果が履行されるということだ。

 その条件に「神の気紛れ」なんてものが盛り込まれることがあるのかと、シルヴィアは不思議に思ったのだ。

「たとえば、今回の儀式が一回限りのものだった場合は、また新しく次の条件が発生するということになるじゃろう?」

「それは、確かに・・・・・・?」

 シルヴィアは、なんとなく納得がいかない表情になって頷いた。

 

 シュレインが言ったことは、要するに契約の履行内容が、ランダムで変わってしまうこともあり得ると言っているのに等しい。

 一回ごとに契約内容が変わることを、そもそも「契約」と言っていいのか、シルヴィアの感覚では疑問に思えたのだ。

 ちなみに、ふたりの横で話を聞いていた考助も、シルヴィアと同じような表情になっている。

 そんな考助とシルヴィアを見たシュレインは、面白そうな表情になった。

「商人の世界では、あるものに対して対価を払うというきっちりとした取り決めが契約ということになるのじゃが、ヴァンパイアが結ぶ契約には、そんなきっちりとした取り決めなどない場合もあるからの」

 商人同士や国同士では、お互いに相互監視の目的できっちりとした取り決めを決めて契約を結ぶ。

 それはお互いに損がない、あるいは戦などに負けたほうが一方的に搾取されることを防ぐために結ぶようになっているためだ。


 ところが、ヴァンパイアの『契約』には、片方が一方的に有利になるような条件になっていることもある。

 それは、たいてい相手が太刀打ちできないような強大な力を持っているときなどに使われる。

 要するに、まったくなんの力を持たない存在が、強者に対して庇護を求めるときや、もっと言葉悪くいえば、寄生する場合などにも『契約』が使われることがある。

 強者の側になんの利もないのに『契約』を持ち掛けられた場合に、そうした普通の考え方ではありえないような内容で契約を結ぶこともあるということになる。

 相手が神となれば、そうした契約も往々にしてあり得る、というのがシュレインの説明だった。

 

 シュレインの説明を聞いた考助が、ため息をつきながら応じた。

「なんというか、本当にそんな契約が必要なのかと思ってしまうね」

「まあの。じゃが、それはあくまでも強者、あるいは対等な力を持っている者、あるいは種の理論でしかないからの」

「それはわかるのですが、ヴァンパイアはそこまで弱い種だとは思えないのですが?」

 もっともらしいシルヴィアの疑問に、シュレインは胸を張るようにして答えた。

「だからこそヴァンパイアは、契約の守護者と呼ばれておるのじゃ」

 いまこの世界に生き残っている種族は、それこそ厳しい世の中を生き残ってきたという実績がある。

 だからこそ、それぞれが対等に近い契約を結ぶことができているのだ。

 だが、遥か昔はそうではなかった。

 そうした古の契約を守り伝えて来たからこそ、ヴァンパイアは「契約の守護者」たりえるのだというのが、シュレインを始めとしたヴァンパイアの誇りのひとつなのである。

 そうした背景があるからこそのシュレインの態度に、考助とシルヴィアはお互いに顔を見合わせて小さく笑うのであった。

 

 

 シュレインとシルヴィアの契約に関する話はともかくとして、考助には別に気になることがあった。

「ところで、大地母神の抱擁にはどんな効果があるの?」

「さて。クラーラ神は加護と同じようなものと言っておったのじゃが、いまのところはなにもわからないの」

 クラーラ神との契約を結んですぐに、シュレインはくつろぎスペースに来ていた。

 当然(?)、称号の効果を確認する時間などなかった。

 

 称号の効果を気にする考助に、シュレインが首を傾げながら聞いてきた。

「なにかおかしなことでもあるのかの?」

「いやいや、そうじゃなくてね。もし、加護と同じような効果があるのであれば、交神具を作ったほうがいい・・・・・・?」

 いいのかな、と続けようとした考助だったが、中途半端なところで台詞を切った。

 それを見ていたシュレインとシルヴィアは、一瞬だけ疑問に思ったが、すぐに考助に何が起こったのか理解して、ジッと事が終わるのを待った。

 女神のいずれかと交神を行っているとわかったのだ。

 

 考助の交神は、一分もかからずに終わった。

 その短さから、ほんの一言二言だけの言葉を交わしたということがわかる。

 なんの話だったのかと疑問の表情になるシュレインとシルヴィアに、考助は苦笑を返した。

「シュレインにも交神具を作ってほしいってさ」

「それだけ、ですか?」

 わざわざそんなことのために神託をしたのかと疑問の顔になるシルヴィアに、考助はさらに苦笑を深くした。

「まあ、そういうことだね」

 それだけ考助と女神たちとの距離が近いということを示しているのだろうが、わざわざ神託を使ってまで伝えてくる内容なのかと、巫女としては疑問に思えるやり取りだ。


 最近の考助は、女神たちと普通のおしゃべりをするような感覚で、交神でのやり取りを行っている。

 それもこれも、考助の力が上がった証拠ともいえるのだが、シルヴィアとしては、本当にそれでいいのかという疑問もわいてくる。

 考助は、複雑な表情になるシルヴィアの肩を叩いた。

「あまり深く考えない方がいいと思うよ?」

「はあ。そうですね。コウスケ様ですから、ということにしておきましょう」

「あれ? ここでそう結論付けるのか。藪蛇だったかな?」

 おどけながらそう答えた考助に、シュレインとシルヴィアは小さな笑いを返した。

 

 笑いを治めたシュレインが、考助に視線を向けて問い掛けた。

「交神具の相手は、クラーラ神かの?」

「それはね。さすがにつながりが無い相手と交神具を作ることはできないよ」

「それはそうじゃの」

 シュレインにもそれはわかっていたが、念のため確認したかったのだ。

 いきなり直接話をしたことがない神との交神具を渡されても、困ったことになってしまう。

 クラーラ神と初めて一対一で会話したときも、あれほどの緊張を強いられたのだ。

 いくら神からの要望とはいえ、まったく見知らぬ相手から話をしたいと言われても、まともな返事などできるはずもない。

 ホッとした様子を見せるシュレインに、今度は考助が笑いを向けるのであった。

なんとなく回りくどい説明が多くなってしまいました。がっくし。


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