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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6章 塔のあれこれ(その22)
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(9)ミクの演奏場所

 ラゼクアマミヤ前女王であるフローリアの舞のすばらしさと一緒に出て来た小さなストリープ演奏家の噂は、一夜にして第五層の街を飛び出して、大陸中に広まることとなった。

 もっとも、そうなることは、ミクが無事に演奏を終えたことで予想できていたので、管理層は平常運転だった。

 勿論、ミクにはお客様の評判が良かったことは教えてあるが、演奏後の劇場での観客の反応をきちんと見ているので、噂話までは突っ込んで話していない。

 管理層での話題は、大陸に広まることとなった噂話よりも、劇場で使われた結界がメインになっていた。

「なかなかうまくいって良かったですね」

 トワが大成功に終わった落成式に、機嫌よく満面の笑みを浮かべながらそう言うと、その隣でシュレインが頷きながら答えた。

「うむ。とりあえず、お客が見れるレベルで収まって良かったかの」

 ミクの演奏は、慣れていない者が聞けば、完全に魅了されてしまって記憶にすら残らなくなってしまう。

 そうならなかっただけで、今回の結界作戦は上手くいったといえるだろう。

 とはいえ、まったく不満が無かったというわけではない。

 

 不満を持っている代表は、やはりというべきか、ミクの教師役であるフェリシアだった。

「ですが、やはりお嬢様自身による魅了のコントロールは上手くいかなかったですね」

 フェリシアの役目は、ミクにストリープと歌の技術を教えると同時に、魅了の力をコントロールすることも含まれている。

 これにはピーチも関わっているのだが、どちらかといえばフェリシアの比重のほうがある。

 なぜなら、ミクの魅了の力は、セイレーンによるものが大きいためである。

 

 フェリシアが反省の色を見せているのは、劇場の演奏でミクがほとんどといっていいほど魅了の力を抑えることができていなかったためだ。

「う~ん。でも、こればかりは、慣れもありますからねえ。場数を踏むしかないのではないでしょうか~」

 もともとサキュバスの里では、魅了の力をコントロールするために、敢えて里の住人たちの前に出して慣れさせるということをしている。

 魅了の力を受けることに慣れている住人であれば、対処することも容易にできる。

「それはそうかもしれないけれど、敢えて言わせてもらえれば、ピーチのときみたいにならないかな?」

 その考助の言葉は、ある意味でピーチの過去を抉るものであった。

 ここでその過去を出したのは、ピーチとミクのことを考えてのことだった。

 ピーチが過去のことを引きずっていて、ミクに触れさせないようにしていたように感じられたため、考助にとっても賭けではあるが敢えて言葉にしたのだ。

 

 案の定、ピーチは顔を小さくひきつらせたが、大きく深呼吸をしてから答えた。

「そうかもしれません」

「いや、ゴメン。別にピーチのことを責めているわけじゃないんだよ。ただ、ふと思ったんだけれど、ピーチはミクの力のことを誤解しているんじゃないかなって」

 その考助の台詞に、ピーチは目をぱちくりさせた。

「どういうことですか~?」

「これはあくまでも予想だけれど、ピーチとミクの魅了の力は、その質が違っているんじゃないかなって・・・・・・思ったんだけれど?」

 言っている途中で自分でも不思議に思ったのか、考助は途中で首を傾げた。

 いま考助が言ったことは、あくまでも感覚的にそう感じただけで、なにか根拠があってのことではない。

 

 そんな考助の言葉を聞いたミツキが、珍しいことに口を挟んできた。

「それはあるかもしれないわね」

「ミツキ?」

「覚えているかしら? ピーチのときはヴァンパイアの影響があったからこそ、里では封印ができなかったこと」

 ミツキのその説明に、考助やシュレインが頷いた。

 それを確認してからさらにミツキが続ける。

「でも、少なくともミクは普通に過ごしている分には、封印がきちんと上手くいっているわ。つまり、その時点でピーチとは質が違うと言えるのではないかしら?」

 ミツキがそう言うと、他の面々はアッという表情になった。

 

 すっかり忘れていたが、ミクの場合はピーチと違って、ストリープを演奏していないときはミツキが言う通り封印が上手くいっている。

 そう考えれば、考助が言っていたピーチとは魅了の質が違うということは間違いではないのである。

「なるほどね。ということは、やっぱり人前で多く弾かせて、場数を踏ませる方がいいということかな?」

「そうかもしれません。少なくとも、毎日のように演奏を聞いている私は、そこまで影響を受けていませんから」

 首を傾げる考助に、教師として毎日ミクのストリープを聞いているフェリシアが同意した。

 フェリシアの感覚としては、ミクが人前で弾くことに慣れてしまえば、魅了の力は上手くコントロール出来ると感じているのである。

 

 これまでの話を聞いていたフローリアが、考え込むような表情で腕を組んだ。

「ふむ。となると、どうやって人前で演奏をしてなれるかが問題だな」

 フェリシアやピーチは勿論のこと、考助たちも何度か演奏をしているので、ミクが慣れるためには意味が薄くなってしまう。

 となれば、ミクが演奏するのにほとんど慣れていない者たちの前で弾いて、慣れていかなくてはならない。

 どこかいい場所はあるのかと頭を悩ます考助に、息子トワが小さく首を傾げつつ聞いてきた。

「それぞれの里で弾かせるのは駄目なのですか?」

 トワにしてみれば、なぜ考助たちがそのことに思いつかないのかという感じだった。

 ところが、トワの言葉を聞いた考助たちは、アッという表情になっていた。

 別に塔の中にある里のことを忘れていたわけではないのだが、ミクのために利用するということまでは思いつかなかった。

 とはいえ、確かにトワが言う通り、それぞれの里はある程度の事情は呑み込んで受け入れてくれるだろう。

 

 トワの提案に、ピーチがすがるような視線をシュレインとコレットへと向けた。

「そんな顔をしなくとも、吾が里の者に頼もう。それに、吾らに無い魅了の力となれば、興味を持つ者もおるじゃろう」

 ヴァンパイアも魅了の力とは無関係とはいえない。

 それの加えて考助の頼みとなれば、協力してくれる者はいるだろうというのがシュレインの考えだった。

 

 そんなシュレインに対して、コレットは難しい顔になる。

「エルフは・・・・・・どうかしら? もともとが他種族と関わらないからね」

「それはそうだな。・・・・・・ああ、そうか」

 これならどうかという顔になったフローリアに、コレットはいぶかし気な表情を向けた。

「いや、精霊という点から攻めたら興味を示す者もいるのではないか?」

 ミクのストリープの演奏には、精霊も大きく関わっている。

 他種族には興味が薄いエルフも、精霊に関しては様々な観点から研究もされている。

「それは、いいかもしれないわね」

 フローリアの思い付きに、コレットもなるほどと頷いた。

 

 興味を示す人がどれくらいいるのかはわからないが、とりあえずミクの演奏を聴かせる相手の目途はついた。

 サキュバスの里の者たちの協力も得ることができれば、それなりの回数をこなすことができるだろう。

 それに、今回の劇場の演奏でも上手くいった結界を使えば、演奏を聞いた者たちへの影響も抑えられることもわかっている。

 あとは、ミクがどのくらいで人前で演奏することに慣れるかどうかにかかってくるわけだ。

 こうして、ミクのストリープの演奏に関しては、また大きな一歩(?)を踏み出すことになるのであった。

人前で弾くことに慣れないとどうしようもないと結論付けられたミクでした。

なにか、以前と同じような話になっていますが、ここの山を越えないとどうすることもできません。

大人たちは、ミクが望む限りはいろいろな手を尽くすことになります。

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