(7)大人たちのたくらみ
考助とダッカが作った剣を軽く試し振りしていたリクは、残念そうにため息をついた。
「これは確かに凄いな。・・・・・・お蔵入りになるのが勿体ない」
「そう思うんだったら、ぜひともフローリアを説得して獲得するといいよ」
考助は、笑いながらリクを見た。
「・・・・・・まあ、争いの種になるというのは同感だから、素直にしまっておいたほうがいいか」
考助の視線を微妙に外しながら、リクは大真面目な顔で頷く。
言っている内容はもっともなことだが、要はフローリアを説得するのは無理と言っているのと同じことである。
正論を持っているフローリアを説得することは、このふたりには不可能なことなのだ。
それでも名残惜しそうに剣を振っていたリクだったが、突如割り込んできた言葉に止めさせられることとなった。
「おや。それが噂の剣ですか」
「・・・・・・兄上。できれば、剣を振っているときは、驚かせないようにしてほしいんだが?」
危うく驚きで手を滑らせそうになったリクは、きっちりと振り切ってから、部屋に入ってきたトワを見てそう言った。
「たいした驚きもしていなかったのに、なにを言っているのですか。そういう台詞は、せめて右肩を動かしてから言ってください」
幼い頃からの驚いたときの癖を持ち出されたリクは、かなわないとばかりにため息をついた。
ふたりの息子の親しい様子をニコニコしながら見ていた考助は、トワに向かって問いかけた。
「なにか用事でもあって来たの? それとも休暇?」
「会ってから一言目がそれというのに引っかかるところがありますが、そう言われるのも仕方ありませんね。・・・・・・残念ながらちょっとしたお願いがあってきました」
本音としては子が親に会いに来るのに理由は必要なのかと言いたいトワであったが、残念ながら考助の言葉を否定できるだけの材料を持っていなかった。
本当に考助が言った通りの件でしか、トワは管理層に来ることが無いのだ。
「まあまあ。兄上が忙しいことは皆わかっているんだから、それでいいんじゃないか?」
半分からかうようにそう言ってきたリクを見て、トワは肩を落とした。
そのリクを横目で見たあと、考助が改めてトワへと視線を向けた。
「それで? 用事というのはなに?」
トワが用事と断るということは、ラゼクアマミヤ関係だということはすぐにわかる。
内容によってはきちんと考えないといけないことになるので、考助も真面目な表情になっている。
「それなのですが、一度ミクを貸していただけないでしょうか?」
「・・・・・・ここじゃなくて、きちんと奥で話をしようか」
いまこの場には考助とトワ、リクの三人しかいない。
他にも話を聞かせる必要があると判断した考助は、そう言いながらくつろぎスペースへと視線を向けるのであった。
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珍しいことにくつろぎスペースには、コレット親子、ピーチ親子以外の全員が揃っていた。
「あら。兄上まで揃って、なにかあったのですか?」
トワの顔を見るなりそう言ってきたミアに、当の本人はガクリと肩を落とした。
「ミアまでそういうことを言いますか」
「トワが来たからというのはともかく、揃ってここに来たということは、なにかあったと考えてもおかしいことではないだろう」
クツクツと笑いながらフローリアがそう言って、さらに言葉を続けた。
「それに、考助の顔を見る限り、遊びに来たわけではないのだろ?」
そのフローリアの台詞で、完全に見抜かれていると判断したトワは、素直に先ほど考助に言ったことを繰り返した。
トワの用事というのは、第五層の街にいよいよ本格的な劇場ができたので、その落成式にミクを出したいということだった。
以前から劇場のような建物は作ってあったのだが、それはどちらかといえば流れのパフォーマーに貸し出すようにするつもりらしい。
そして、今回できた劇場で、国や金持ちたちが開くような本格的な演目を披露するようにするということになっている。
当然、その劇場に立てる者たちは、国を代表するような技能の持ち主になる。
その劇場での最初の演目者としてミクの名前が上がっているのは、多分にトワの意向が働いている。
国主導で作られた劇場に、最初に立つことになる演目者なのだ。
その栄誉は、当然のように大きなものになり、その人物を推薦した者もその恩恵を授かることができる。
要するに、一種の権力闘争がそこでも働いているのだ。
誰が選んでも角が立つような状況では、トワが推薦を出すのも当然といえるだろう。
ミク以外にも候補者はいるのだが、その話を持ち掛けられたトワは、まず初めにミクの顔を思い浮かべた。
ミクなら誰かのひも付きになっていないのは確実で、演奏に関しても最初の演奏者としては大いに話題を呼ぶことができる。
問題があるとすれば話題になりすぎることだが、それも含めて考助たちに相談しに来たというわけだ。
トワの話を聞いた一同は、納得の表情で聞いていた。
ミクのストリープの演奏は確かに危険な面もあるので、いつまでも表に出さずに個人的に演奏させるだけならずっと隠し続けてもいいのだが、考助と女性陣はそんな悲しいことにはなってほしくはないと考えている。
ミクが表に出たくないというのであればそれを尊重するが、最初から選択肢をなくしてしまうつもりはまったくない。
それを考えれば一度は外に出さなければならず、その意味で今回トワが持ってきた話は絶好の機会といえる。
問題があるとすれば、いまのミクの演奏がどの程度になっているのか、この場にいる誰も把握をしていないということである。
「一度、ピーチとフェリシアに話を聞いたほうがいいかな?」
そう結論付けた考助に、他の面々は同意大きく頷くのであった。
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ピーチとフェリシアの話を聞くために、シュレインがサキュバスの里に行き、すぐにふたりを連れてとんぼ返りしてきた。
ふたりを管理層に呼ぶために、シュレインは道すがらミクの件を話してある。
「ああ。挨拶はいいから。フェリシアは、今回の話はどう思う?」
顔を合わせるなり頭を下げようとしたフェリシアを止めた考助は、単刀直入にそう切り出した。
その考助の言葉を受けたフェリシアは、ひとつ頷いてからミクの現状について話し出した。
「ストリープの腕という点であれば、大勢の前で演奏しても恥ずかしくないだけの技量はあります。勿論、まだまだ伸ばすべきところはあるので、一流かと言われれば微妙なところでしょう」
フェリシアの言葉は辛口のものに思えるが、そもそもミクの年齢を考えればありえないほどの評価だ。
ただし、ミクの場合は、この場にいる全員が認識している問題が別にある。
その問題というのは、演奏している最中にミクが無差別に発することになる魅了の力である。
魅了はどうなんだと言いたげな考助の視線に、ピーチが相変わらずの表情で答えた。
「正直に言えば、劇場という大舞台で完全に能力を抑えられるかといわれれば、微妙なところですね~」
劇場で演奏するとなれば、当然のように大勢の人の前で弾くことになる。
そんな状態で、気持ちを抑えられるかといえば、どんなに言い聞かせても無理だろうというのがピーチの評価だった。
ピーチの言葉を聞いて、やはりまだ早いかと諦めかけた一同だったが、それまで黙って話を聞いていたシュレインが、ミツキに視線を向けながらとある提案をした。
「だったら――――――してみたらどうかの?」
「・・・・・・なるほど。それは確かにありかもしれないわね」
そのミツキの返答で、ミアの劇場出演の話は具体的に進むことになるのであった。
おまけ
大人たちがこそこそと(?)話し合っている間、当の本人はお目付け役がいないところで、のんびりとストリープを演奏しているのであった。
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というわけで、次話はいよいよミクが本格的にデビュー(?)します。




