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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第6章 塔のあれこれ(その22)
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(6)傑作

 考助は、目の前の男が両目を大きく見開いて自分を見ているのを感じて、内心でため息をついた。

 自分でもいい加減慣れればいいのにと思うのだが、相変わらず初対面の相手から特別扱いされるのは慣れない。

 だからといって、馴れ馴れしく接していいと言えないところが、考助にとってはつらいところだった。

 別に考助は、常々アスラが言っている通り、好きにふるまっていいのだが、空気を読む気質のため、そう言い出すこともできない。

 お陰で、こういうことが起こるたびにいちいち悶々とすることになるのだが、ある意味自業自得といえる。

 

 そんな考助の葛藤はともかくとして、会議室での話し合いは進んでいた。

「――――というわけで、こちらの方が今回の話を持ってきたことになる。どうだ、驚いただろう?」

 いたずらが成功したような顔でダレスが、ダッカを見た。

 対するダッカは、なんとか声を絞りだすようにして反応した。

「驚いたって、おめえ・・・・・・これはないだろう?」

 ダッカは、そう言ったあと気まずそうな視線を考助とフローリアへと向けたあとに、睨むようにしてダレスを見た。

 その表情からは、なぜ前もって言ってくれなかったと言いたいのが見て取れた。

「ハッハッハ! それじゃあ、つまらないだろう?」

 堂々とそう言い放ったダレスに、考助とフローリアは苦笑を返し、ダッカはうめき声を出すことしかできなかった。

 

 

 それでもさほど時間が経たずに落ち着いたのはさすがダレスが選んだ職人と言うべきか、ダッカは五分ほどで落ち着きを見せた。

「はあ、もういい。それよりも、仕事の話をしようか。いや・・・・・・しましょうか」

 ちらりと自分を見て言葉遣いを変えたダッカに、考助はとりあえずとばかりに提案をした。

「ああ。敬語が使いづらかったらいつもの調子でいいですよ。そっちの方が話が早いでしょう?」

「それはあり難いが、本当にいいのか? そっちが使っているのに、立場的に逆のような気がするが・・・・・・?」

 ダッカはそう言いながら視線をフローリアへと向けた。

 考助が現人神だということはダレスから説明を受けているが、フローリアについては、単に考助の相方ということだけで名前も聞いていない。

 考助の隣に座っていることから、お目付け役的な存在だとダッカは理解しているのだ。

 

 そんなダッカに対して、フローリアは口元を手で隠しながら笑った。

「私のことは気にするな。コウスケがいいと言っているのだからいいのだ。それよりも早く例の物についての話をしないか?」

 フローリアが元女王だということは、別に事前に話し合っていたわけではないが、なんとなく隠す流れになっている。

 それに関して特に意味はないのだが、ダッカを除いた全員のいたずら心があるのは否めない。

「そうだね」

 フローリアの言葉に、考助が頷きつつダレスへと視線を向けた。

 その考助の視線を受けて、ダレスはひとつ頷いてからダッカの肩をポンと叩いた。

「ほら。いつまで戸惑っているんだ。それよりも、例の件は可能なのだろう」

「・・・・・・ああ。面倒なのは確かだが、上手くやればいままでにないものが作れるのは確かだな」

「そう。それはよかった」

 ダッカの返答に、考助は満面の笑みを浮かべた。

 

 

 考助がわざわざダレスに頼んでまで鍛冶師であるダッカを呼んでもらったのは、とある武器を作るためだ。

 その武器というのは、通常の剣と魔法陣を合わせて作った、いわゆる魔法剣のような剣である。

 考助がダレスを通じて渡した資料には、魔法剣の作り方を記した手順のようなものを書いてあった。

 それを読んでもらって、作れると判断して信頼できる者を選んでもらうようにダレスには言っておいたのだ。

 そして、ダレスに選ばれて管理層まで来たのがダッカということになる。


 以前シュレインのために同じような製法で錫杖を作ったことがある考助だが、残念ながら鍛冶は専門性が高すぎて素人が手を出せる分野ではない。

 ほとんど寿命を気にしなくていい現人神なのだから、いずれはその技術を身に着けることもあるかもしれないが、今すぐに良い武器を作ることは不可能だ。

 そのため、わざわざ興味を持ってくれる職人を選んでもらったというわけである。

 錫杖の場合と剣の場合は根本の作り方が違っていて、どうしても剣の場合は専門的な技術が必要になるのだ。

 

 技術的な話を始めたからか、ダッカもいくらか考助と話をすることに慣れて、そのあとはスムーズに話が進んだ。

 勿論、スムーズといっても、もともと鍛冶には不慣れな考助が作った資料だったので、いくつかの手直しは必要だった。

 とはいっても、計画自体が中止になるようなものではなく、その場で修正するだけで済んでいた。

 結局、話し合いは二時間ほどで終わることとなり、無事に計画が進むことになるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助とダッカの合作で、剣が作られること半月後。

 管理層の会議室に集まった以前と同じ面々は、机の上に乗った一振りの長剣を前にして驚きの表情になっていた。

 ダッカが驚いているのは、最後の調整を考助がやったため、どんな剣に仕上がっているのかわかっていなかったためだ。

「ある程度完成形がわかっていたとはいえ・・・・・・あれがこうなるのか」

「いやー。あまりにも剣の出来がよかったから、つい張り切っちゃった」

 唸るダッカを前に、考助がやっちゃったという感じの顔になる。

「いやまあ、それに関しては、俺も人のことは言えないが、な」

 思った以上に順調に進んで行ったため、ダッカも興が乗ってついつい張り切って剣を打っていた。

 その結果、ダッカの鍛冶師人生の中でも五本の指に入るようないい出来の剣になっていたのだ。

 

 そんな生産者ふたりを横目に、フローリアがため息をつきながらダレスを見た。

「さて、どうする? どう考えても表に出せるような品じゃないと思うが」

「やはりそう思いますか」

 ダレスは、ため息をつきながら残念そうな表情になった。

 

 いま彼らの目の前にある剣は、これまでの魔道具の剣とは一線を画するような物だ。

 通常の魔道具の武器は、出来合いの物に魔法陣を乗せて、魔法の効果を発揮させるような作りになっている。

 ところが、今回作った剣は最初から魔法陣の効果を乗せているので、特に効率といった点で段違いの効果が出ている。

 魔力などの効率が良くなれば、それだけ使用者の手数も増やすことができる。

 他にも細々とした改良点はあるが、使用者が大きく感じる点はそういったところだろう。

 

 ただし、それだけのことでフローリアとダレスがそんな反応を示したわけではない。

 ただでさえ効率が良くなっているのに、考助が限界まで様々な魔法陣を詰め込んだおかげで、神具の一歩手前といったところまでの性能が上乗せされていた。

 考助が作ったにも関わらず神具になっていないのは、単に神力を使うようにできていないためだ。

 あくまでも魔力だけで使えるような作りになっているのである。

 

 表に出せないというフローリアの言葉を聞いて、ダッカが顔をゆがめた。

「む。それは、売り物にならないということか?」

「いいや、違うな。例えばオークションにでも出せば、それこそ史上最高値の更新は間違いない」

 そう断言するフローリアに、ダッカが不思議そうな顔になる。

「だったらなぜ?」

 ダッカはあくまでも鍛冶師なので、作った武器は使ってほしいというのが根底にある。

 だからこそこうして渋っているのだが、考助がため息をつきながら静めるように答えた。

「一言でいえば、争いの種になるから。それも、下手をすれば国同士の」

「むっ」

 それは考えていなかったという感じで、ダッカは低く呻いた。

 

 たった一本の剣で、国同士のバランスが崩れるほどの力を、ふたりが作った剣は秘めているのだ。

 そのことはダッカも自覚しているので、言葉に詰まったのだ。

 結局、今回作った剣は考助の手で封印されることとなり、次はもっと抑えた物を作ろうと宥めたうえでダッカを納得させたのであった。

合作の剣ができました。

一から魔法陣を乗せることを考えて作る剣と出来合いの剣に魔法陣を乗せることの違いは、既製品とオーダーメイドの服くらいに違いがあります。

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