(3)ちょっとした珍事
最近は神威も安定してきて、日によっては以前のように完全に隠せるようになってきた考助は、久しぶりに外出しようと転移部屋へと移動した。
するとそこには、珍しいことにハクが来ていた。
「あれ? ハク? どうしたの?」
考助がそう声をかけると、なぜかハクは、ばつが悪そうな顔になって視線を逸らした。
そこでなぜそんな顔をと問いかけることは、考助もしなかった。
なぜならハクがこういった表情をするときは、大体理由が決まっているからだ。
「ハッ、ハア。ちなみに、いつごろ来るの?」
「・・・・・・そろそろ来る」
誤魔化すのは無理だと悟ったハクは、考助の問いかけに顔を背けながらポソリと答えた。
「ふーん。そうなんだ。まあ、いいけれど、あまり無茶なところに連れまわすんじゃないよ?」
「違う」
「ん? どゆこと?」
自分の問いに対しての返答がおかしいことに気付いた考助は、首を傾げた。
「私に会いに来るんじゃなくて、お父様に会いに来る」
「あら。そうなんだ」
てっきりハクと遊びに行くために来るのかと思っていた考助は、思っていなかった答えに思わず驚きの表情になった。
誰が会いに来るのかはわざわざ口にしなくても、考助とハクはお互いにわかっている。
そもそもハクがわざわざ直接出向いてまで会いに来る人物など、考助はひとりしか知らない。
ハクとルカの交際(?)は順調に進んでいるのかと理解した考助は、ほほえましい物を見るような顔になってハクを見た。
とはいえ、これ以上つつけばハクが拗ねてしまう可能性もあるので、いまはそれ以上は続けないようにした。
「なにしに来るのかは聞いた?」
その考助の問いかけに、ハクは首を左右に振った。
そこまでは聞いていないという意思表示だ。
「そう。それじゃあ、僕は出かけないで待っていたほうがいいね」
ルカが考助に会いに来るということは、当然なにか用事があるということだ。
変に外に出てしまうと、すれ違いになってしまう可能性がある。
転移部屋でルカを待つハクをそのままに、考助は再びくつろぎスペースへと戻るのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
くつろぎスペースに戻った考助は、シュレインに不思議そうな顔をされた。
「なんじゃ? なにか忘れ物かの?」
階層の様子を見に行くと言って出て行ったのに、すぐに戻ってきたのだからそんな顔をするのは当たり前だろう。
「いや。なんか転移部屋に行ったらハクがいてね。ルカが来るって言っていたから戻ってきた」
「ああ。なるほどの。・・・・・・ん? ハクに会いに来るのではないのか?」
そのシュレインの言葉を聞いた考助は、やっぱり同じことを考えるのかとちょっと笑ってしまった。
「いや、今回は違うみたいだよ? ・・・・・・少し寂しそうな顔をしていたね」
「ほうほう。そうかの」
考助の説明に、シュレインはニヤニヤと笑った。
その様子を他の者が見ていれば、子供の成長を喜ぶ親バカのように見えただろうが、残念ながらこの場には他に誰もいなかった。
それに、たとえ他の誰かがいたとしても、皆同じような反応を返しただろう。
ハクとルカの関係を知らない者は、管理層にはいないのである。
考助とシュレインがどうでもいい会話をしていると、ハクがくつろぎスペースにやってきた。
「あれ? どうしたの?」
ハクがこの部屋に来ることは珍しいので、考助が首を傾げながら聞いたが、ハクは中にまで入って来ないで考助のことを呼んだ。
「ルカが来た。お父様のことを呼んでいる」
「・・・・・・ん? どういうこと?」
ルカもくつろぎスペースに来ればいいのにと考えて考助は再び首を傾げたが、ハクからは答えは返ってこなかった。
これまでの経験とその顔を見れば、ハクは答えを持っていないということはわかる。
「とりあえず、わかったよ。どこに行けばいい?」
「会議室」
短いハクのその答えに、考助はシュレインと一度だけ顔を合わせて疑問を示したが、肩をすくめてから言われた部屋へと向かった。
会議室に入った考助は、なぜわざわざ呼び出されたのかがすぐにわかった。
そこにはルカ以外にもシュミットがいたのだ。
「あれ? どうしたの?」
さっきから同じセリフばかり繰り返しているなあと思いつつ、考助は顔をシュミットに向けて問いかけた。
「少し聞きたいことというか、確認したいことがございましてな」
「それってやっぱり魔法陣関係?」
ルカがいるということはそういうことだろうと察した考助は、ルカとシュミット交互に視線を向ける。
その視線を受けたふたりは、コクリと頷いた。
詳しい話をする前に、まず考助たちは席に落ち着いた。
「それで? ふたり揃ってどうしたの? しかも、ダレスとじゃなく、なぜシュミット?」
ルカとダレスの組み合わせであれば、技術的な問いあわせだということは考えられる。
だが、ルカとシュミットの組み合わせは、いまの考助には思い当たることがなにもなかった。
「実はですね――――」
シュミットは、そう前置きをしてからここしばらくクラウンで持ち上がっている問題について話を始めた。
最近クラウンの間で持ちあがっている問題というのは、考助が神域を作る際に造った自走式馬車のことについてである。
自走式馬車がコウという名の冒険者の持ち物であることはすでに、各所に知られている。
そのコウの家は第五層にあり、いまでは有名になっている屋台の拠点となっていることもだ。
そのこと自体は特に問題がないのだが、続いて推測されたのが、その冒険者の自走式馬車の入手ルートだった。
いかに高額な資金を投入しているとはいえ、冒険者がひとりであれだけの機能を持った物を作り上げるとは思えない。
であれば、所属しているクラウンに頼んで造られたと考えられるのは、当然の流れだろう。
その推測のもとに、クラウンには自走式馬車を作ってくれという依頼(および圧力)が舞い込んでいるのである。
シュミットから話を聞いた考助は首を傾げる。
「あれ? クラウンに話をしても駄目だって噂、流さなかったっけ?」
「流していたのかもしれませんが、都合の悪いことは耳に入らないようになっていますから。それに、いつでも逃げられる個人ではなく、組織を相手にした方が話を通しやすいと考えたのでしょう」
個人では組織に対抗することは難しいという問題点はあるが、身軽に逃げるということができる。
実際、冒険者コウは、一か所にとどまることはせず、滅多に姿を見せないということで有名だった。
実際には管理層に籠っているだけなのだが、人は状況を見て勝手に推測したうえで、色々な噂を流すものなのだ。
その結果として、冒険者コウではなく、自走式馬車を発注したと思われるクラウンに好事家たちの視線が向いたのだ。
考助は、半分呆れ、半分戸惑ったような表情になってからため息をついた。
「あの手この手でいろいろ考えるもんだねえ。ほとんど趣味の世界になるだろうに」
「いや、そうでもありませんよ。もし、クラウンから手に入れることができれば、売りさばくことはいくらでもできます。物好きはどこにでもいますからね」
「だからといって、あんな馬鹿みたいな値段がするような物を・・・・・・ねえ」
考助がそう言うと、シュミットは首を左右に振った。
「ところが、ですね。相手もなかなか考えているようでして・・・・・・今回は現物そのものがほしいと言ってきているわけではないのですよ」
「ん? どういうこと?」
てっきり自走式馬車そのものを欲しがっているのかと考えていた考助は、意味がわからずに首を傾げた。
中途半端になってしまいました。
次話に続きます。




