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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 ソルの変化
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閑話 問題点

 ソルは、襲い掛かってくるモンスターの首を次々と一撃で葬り去っていた。

 そのソルの傍にはナナが控えているが、珍しくモンスターに手を出すようなことはしていない。

 ナナが出るほどの敵ではないというのもあるのだが、いまの自分の役目はソルがやりすぎたときに止めることだと理解しているのだ。

 ナナも別にモンスターを倒すことに快感を覚えるような変質者ではない。

 考助がいるときにナナが張り切るのは、まさしく褒めてもらいたいがために飼い主の前で働く犬と同じ理屈なのだ。

 ただし、本人ナナは犬と同じだと言われれば、怒りだすだろう。

 そんな地雷を踏めるのは、考助くらいしかいないのである。

 

 ソルがモンスターの首を刎ねて行く様を『烈火の狼』の面々は、周囲の警戒をしつつ呆れたような顔で見ていた。

「・・・・・・なあ、リク。あそこのメンバーには、常識はずれの強さが無いとなれないのか?」

 話には聞いていてもここまでとは考えていなかったアンヘルが、げんなりした表情でリクを見た。

 いま彼らがいる場所は、中階層の中でも強いモンスターが出てくる階層になる。

 決して、ソルが彼らの目の前でやっているように、一撃で首ちょんぱができるようなレベルのモンスターではない、はずなのだ。

「そんなわけがないだろう? ただ、結果としてそうなっているだけだ。・・・・・・タブン」

 一応断言したものの多少自信が無くなったリクは、少し視線を逸らしてから小声であとの言葉を付け足していた。

 

 隣にいてばっちりその声を聞いたカーリは、それには触れず別のことでため息をついた。

「戦闘に関してはいろいろと諦めるとして、常識知らずなのは確かなようね」

 景気よく首を飛ばしているソルを見ながら、カーリはそう分析していた。

 冒険者は、一番重要なのが自分の命としても、生活をしていくためには、できるだけ高くなるように素材を得なければならない。

 それを考えれば、確かに首を飛ばせば一撃でモンスターは死ぬが、素材といった意味ではまた話が変わってくる。

 単に肉を得るだけならそれでも構わないのだが、毛皮を得る場合は安くなってしまうこともあるのだ。

「そうだな。まずはその辺から教えるとしようか」

 カーリの言葉に、リクも大きく頷いた。

 とりあえず冒険者としての常識を教えて行けば、そこまでおかしな行動をとることはないだろうと考えてのことだ。

 冒険者は、それこそ様々な人材がいるので、多少奇妙な行動をとったとしても流されることのほうが多いのである。

 

 だが、残念ながらリクのその見積もりが甘かったと知ることになるのは、そんなに時間がかからないことなのであった。

 

 

 戦闘を終えたソルに、リクが得る素材のことを考えて倒すように様々な観点から話をした。

「・・・・・・なるほど。なかなかややこしいのですね」

「最初のうちはそう思うかもしれないが、慣れれば自然にできるようになるさ」

「そうですか。ん? しかし、ナナはどうなのですか?」

 ソルが戦闘する前に、ナナもこれが見本だと言わんばかりに一度だけ戦っていた。

 その際には、リクたちがなにかを言うようなことはなかった。

 

 首を傾げるソルに、リクが苦笑しながら答えを教えた。

「ナナの場合は、父上と一緒の戦闘が長いからな。戦っているうちに、自然に覚えたのかと」

「う~む。なるほど、そういうことですか」

 実はこれは少しだけ誤解があるのだが、もともとナナは素材を得るようにするための狩りが上手かった。

 それは、基本的に牙や爪を使っての戦闘のため、毛皮などの痛みが少ないということがあったためだ。

 ただ、ときには損傷が激しい戦い方もすることがあって、その際にはリクが言う通り、考助からの指導も受けていた。

 そのような流れで、ナナは自然と素材として高く売れるような戦闘方法を身に着けて行ったのである。

 勿論、これらのことは、あくまでもモンスターとの戦いに勝つことが前提で、自分たちの身を守ることが優先であることは言うまでもない。

 いい素材を得ることにこだわり抜いた結果、命を奪われてしまっては意味がないのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんな素材の得方から、冒険者としての他者との付き合い方まで、リクはひとつひとつ細かく教えて行った。

 自由業である冒険者は、過去に様々なものを背負っている者も多いため、基本的に詮索などはご法度とされている。

 そういう意味では、ソルもその暗黙のルールに安堵するところなのだが、悪意が無く聞かれたときの対処方法を知っていなければ意味がない。

 初対面の相手には聞いてくることがないとしても、何度か顔を合わせてある程度慣れてくれば、話題のひとつとして聞いてくる者もいるためだ。

 そのときの対処法を知っているかいないかで、相手が受ける印象も大きく変わってくるのだ。

 

 そんなこまごまとしたことをソルに教えていた『烈火の狼』の面々だったが、ついに後々大問題に発展しそうな悪癖を見つけた。

「はい。ソル、アンヘル、ストップ!」

 すでに同じようなことを繰り返しているので、今回はそばにいたエディの制止が間に合った。

「んだよ」

「そうです。止めないでください」

 ソルとアンヘルが不満げな顔で見て来たが、それに対してエディは小さくため息をつくだけだった。

「いや。いまここには俺とゲレオンしかいないんだから、俺が止めるしかないからな? ソルもアンヘルも何度同じことを繰り返せば済むんだよ」

 エディは呆れた顔でそう言いながらさらに続けた。

「とりあえず、リーダーたちが帰ってきたらふたりとも説教だからな」

 リクたちは、ナナを連れて今夜の食糧を狩ってくると拠点を離れている。

 ソルとアンヘルは、その間に問題を起こしたのだ。

 

 ソルが抱えている問題というのは、ある意味で簡単に予見できたことだった。

 それがなにかといえば、考助に関しての沸点が低すぎるということだ。

 お調子者のアンヘルは、よく神々を引き合いにからかいのネタにしたりすることがあるのだが、ソルにはそれが我慢ならないときがあるらしい。

 アンヘルがからかいの対象にするのは、神々以外にもいるのだが、ソルは考助のときだけ敏感に反応するのである。

 最初のうちは笑って見られていた一同も、本気になって怒るソルを見てさすがに青くなったりしていた。

 そのときはナナがいて事なきを得たが、少しでもアンヘルが考助のことを話題に出そうものなら、ソルは過敏に反応するようになってしまった。

 結果として『烈火の狼』の面々は、アンヘルが余計なことを言わないように神経をとがらせることになったのである。

 ちなみに、今回のことはアンヘルにとっても良いことだと、メンバーはアンヘルにも制裁を科すようになっている。

 アンヘルがお調子者で、パーティに余計な騒動を巻き起こすことは、これまでも何度かあったのだ。

 

 

 エディがふたりを制止してから約二十分後。

 首尾よく狩りを終えて帰ってきたリクたちが人数分の肉を焼いている間、拠点の端から情けない声が響き渡っていた。

「や~め~て~く~だ~さ~い!」

 その声の主はソルで、サッカーボールのように地面を転がされていた。

 勿論、ソルを転がしているのはナナである。

 前足を器用に使ってソルを転がしている様はじゃれ合っているようにしか見えないのだが、やられる方はたまったものではない。

 実際には転がされるスピードも半端なく、ソルの身体能力があっても逃げることが許されないのだから、初めて見たメンバーたちはどんな冗談だとおもったほどだった。

 

 その様子を見ていたリクが、ぽつりと呟いた。

「あれ、いいなあ。やっぱり一度はナナに頼んで、アンヘルにもやってもらったほうがいいか」

「あ、私もそれ考えていたわ」

 リクに同調するように、カーリが乗っかってきた。

「おい! それは勿論冗談だよな!? ・・・・・・お、おい?」

 お仕置きのため地面の上で正座をしながら抗議の声を上げるアンヘルだったが、残りのパーティメンバーはそれには答えずに真剣な表情でナナとソルの様子を見るのであった。

閑話にする必要があったかどうか微妙ですが、敢えて閑話にしました。

特に意味はありませんw


これにてソルの管理者メンバー入りの話は終わりです。

次は・・・・・・どうしましょうかね。(まだ決めてない)

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