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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 ソルの変化
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(8)一般常識

 ソルが一般常識を身に着けるのにはどうすればいいのか。

 それを話すのには、いま集まっているメンバーだと力不足なところがあった。

 そもそも今この場に集まっている者たちも、一般常識を知っているかと問われればかなり怪しいところがある。

 シュレインやコレット、ピーチは言わずもがな。

 シルヴィアやフローリアもまた幼少期は箱入り娘な生活を送っていた。

 誰を挙げても一般的とは無縁な生活を送ってきた者たちばかりなのだ。

 敢えて挙げるとすれば、シルヴィアとコレットは何年間か冒険者として旅をしてきたので、ある程度の常識はあると言っていいだろう。

 勿論、ここでいう常識というのは、ごくごく普通の生活を送っている者たちのことを指している。

 

 さてどうするかと頭を悩ませる一同だったが、やがてシュレインが首を左右に振った。

「駄目じゃの。そもそもそういった常識を持っていない吾らが知恵を絞っても、いい案はでないじゃろう」

「それはそうだろうけれど、じゃあどうするの? 今のままのソルだと駄目だと思うわよ?」

 コレットの疑問に、一同はため息をついた。

 管理層を訪問してくる者たちは、基本的にシュレインたちのことを知っているので、多少常識から外れたことを言っても見逃してくれているところがある。

 ところが、今回ソルがそれに加わると、一体誰なんだという詮索から始まるのだ。


 管理層が一般的に知られるようになったのは、クラウンの部門長クラスやフローリアの親であるアレクが訪ねてきたところから始まっている。

 そのときにはすでに、いまのメンバーが固定で生活していた。

 それが、十数年ぶりに新しいメンバーが加わるとなると、注目されないはずがないのである。

 その際に、ソルがゴブリンから進化した種だということを知られることもまずいが、それよりも何よりもアマミヤの塔でゴブリンが集落を作っていることを知られることが一番まずい。

 それは、ゴブリンが一般の者たちに嫌われているモンスターの種であるからだ。


 その理由は簡単で、ゴブリンやオークは人間の女性をさらって苗床にすることがある。

 たとえ考助が現人神として説明を尽くしたとしても、その壁はどうやっても超えることができないし、なによりも壁を壊すつもりはない。

 塔の中でゴブリンが集落を作ることを許しているのは、あくまでも考助の眷属として存在しているためだ。

 眷属だからこそ人を襲ったりしないということは約束できるが、野生種までそれをすることはできない。

 であるならば、最初から存在を隠していたほうがましなのだ。

 

 そういった理由からシュレインたちは、できるだけぼろを出さないようにソルに一般常識を身に付けさせたいのだ。

 誰もが沈黙する中、最初に口を開いたのはシルヴィアだった。

「仕方ありません。私たちではなく、別の方の知恵を借りましょう」

「別の方ですか~?」

 シルヴィアが誰のことを言っているのかわからずに、ピーチが首を傾げた。

 他の者たちも似たり寄ったりな顔をしている。

 

 皆の視線が集まる中、シルヴィアはフローリアへと顔を向けた。

「そろそろエリが屋台の報告に来ますよね?」

「・・・・・・ああ! 確かにそろそろ来る頃だな」

 シルヴィアに言われてフローリアもようやくエリのことを思い出した。

 エリは奴隷であるため普通の民であるとは言い難いが、それでも女性陣よりははるかに一般的な常識を知っている。

 彼女から直接教わることはできなかったとしても、なにかいい知恵がないか知ることができると考えたのだ。

 ちなみに、他にはセシルやアリサもいいのだが、ふたりはいますぐに相談できるようなところにいない。

 タイミング的に、エリに聞くのが一番いいと判断してシルヴィアは、エリを挙げたのだ。

 

 

 フローリアが会議室から出て転移部屋に向かおうとすると、ちょうどそこに第五層から転移してきたエリが姿を現した。

「エリ、ちょうどよかった。聞きたいことがあるのだ!」

 第五層から移動してくるなりフローリアからいきなりそう言われたエリは、目を白黒させた。

「えっ!? は、はい。なんでしょうか?」

「まあ、こんなところではあれだから、とりあえず移動しよう」

 エリはそう言ったフローリアに腕を取られて、会議室まで引っ張られていった。

 

 そして、会議室にフルメンバーが集まっていたことに驚きつつ、ソルについての問題を聞いて納得した表情になった。

「なるほど。それで、ソル様が常識を身に付けるにはどうしたらいいのかというわけですね」

「そうなんだ。なにかいい方法はないか?」

 そう聞いていたフローリアを見ながら、エリはあっさりと答えた。

「ありますよ」

「そうだよな。やはりそう簡単には・・・・・・は? あるのか?」

 驚くフローリアに戸惑いつつ、エリは頷いた。

「え、ええ。というか、なぜ皆様が思いつかなかったのかわからないくらいに、単純な方法ですが・・・・・・」

「どういうことだ?」

「話を聞く限りでは、ソル様はお強いのですよね? でしたら、どこかの冒険者パーティに付ければいいのでは? 理想としてはリク様のパーティあたりでしょうか」

 冒険者としてはセシルやアリサもいるが、ふたりは奴隷なので次点候補ですね、とエリは続けた。

 

 エリのその言葉に、メンバー一同は虚を突かれたような表情になった。

 完全に頭の片隅にも考えていなかったことだった。

「そうか。その手があったか」

 納得した表情になるフローリアに続いて、シルヴィアが頷いた。

「そうですね。それに、戦闘といった面でも常識を知ることができます。いいですね」

「ふむ。たしかにそうじゃの。ソルが誰かに腕前を披露することはまずないじゃろうが、なにがあるかわからないからの」

 シュレインはそう言いながら、考助が寝ているはずのくつろぎスペースのある方向を見る。

 

 シュレインにつられながら同じ方向に視線を向けたコレットが、ため息をついた。

「確かに言うとおりね。それなら、今のうちからそっちについても教えておいた方がいいわ」

「そうですね~。コウスケさんのことだから、色々引っ張り出しそうですし」

 ピーチの台詞に、他の面々は大まじめな顔で頷いた。

 ちなみに、このときソルとエリは微妙な表情になっている。

 エリのほうは普段から考助が女性たちにどういう扱いをされているかわかっているのでまだましだったが、ソルは反論したいがするだけの材料がないといった感じだった。

 

 そんなふたりを見比べて笑みを浮かべたフローリアが、エリに頭を下げた。

「すまないな、エリ。助かった。ありがとう」

「いいえ! 大したことではありませんから!」

 フローリアに頭を下げられて、エリは慌てて両手をパタパタと振った。

「というわけで、ソルの教育係はリクに打診してみるが、反対意見はあるか?」

 一同を代表してフローリアが問いかけたが、反対意見は出てこなかった。

 

 それを確認したフローリアは、ひとつ頷いてから続けた。

「ふむ。では決定だな。それ以外になにか懸念点はあるか?」

「いまのところ無いわね」

「ありません」

 コレットとシルヴィアがそう返答すれば、シュレインとピーチもふたりの言葉に頷いた。

「そうじゃの」

「いいのではないでしょうか~」

 

 こうして一般常識を身に着けさせるべく、ソルは一度リクのパーティに付けることに決まった。

 フローリアは、リクから可否の返答をもらう予定でいるが、依頼という形を取るつもりなので、断られるとは考えていない。

 こと戦闘に関しては、ソルがリクたちの邪魔になることはないので、条件次第では簡単に引き受けるだろうと、フローリアは考えているのであった。

ソルは治世的な知識はフローリアなどから教わっていますが、一般的な常識は持っていないというお話でした。


それにしても、最近のリクは、考助(フローリア?)の便利屋さんと化している気がします。

(もとからか・・・・・・)

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