(6)ソルの影響力
里にある屋敷へと戻ったソルだったが、自室に入って少し落ち着いたところであることに気が付いた。
「これは・・・・・・なに?」
進化してから自分の力が大きくなっていることには気付いていたが、その中に気になるものがあった。
考助と会うため管理層を行き来していたときには気づいていなかった。
だが、いつもの環境に戻って一息ついたところで、不思議な感覚を覚えたのだ。
それは、自分を守ってくれるような強い力のようでもあり、傍にあると安心感を覚えさせてくれるようなものでもあり、それ以外にも様々な感情をソルにもたらした。
いままでになかった感覚だったが、なぜか不快感のようなものはまったく感じない。
なんなのだろうと内心で首をかしげていたソルだったが、不意に月神と会ったときのことを思い出した。
ジャミール神から加護をもらったときに感じた力と、いま感じている不可思議な感情が同じものだと気付けたのだ。
そしてそのことを思い出すと同時に、いま感じているものがなんであるのか、答えがソルの中で浮かび上がってきた。
「これは・・・・・・コウスケ様の?」
一度その名を口にしてしまえば、それ以外の解は出てこなかった。
もともとソルは、考助の加護を与えられていた。
それによってソルに大きな変化をもらたしていたことは、彼女自身がよくわかっている。
だが、はっきりとした加護の存在を身近に感じたことは数えるほどしかなかった。
ところがいまは、その考助の加護の力をずっと感じ取ることができる。
それを思ったとき、ソルは自然とその顔に笑みを浮かべていた。
片時も考助のことを忘れたことのないソルだったが、この加護の力のお陰で、より一層想うことができると考えたのである。
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ソルが自分の中にある考助の加護の力に気付いてからしばらく経ったときのこと。
《月光の裁き》の検証方法について考えていたソルだったが、部屋を訪ねてきた部下を見て彼の変化に気が付いた。
「なにかあったのですか? なにか表情が硬い気がしますが?」
報告を聞く限りでは、さほど悪い報告だというわけでもない。
それにもかかわらず、身を固くして話をしているその部下に、ソルはそう問いかけながら首を傾げた。
いまソルに報告している部下は、早い段階で進化を果たした側近のひとりだ。
彼が、このような態度をソルに取ったことは数えるほどしかない。
不思議そうな顔になったソルに対して、その部下はため息をつきながら答えた。
「やはり、気づかれていなかったのですね」
「? なにがでしょう?」
なんのことだかさっぱりわからないソルは、再度首を傾げる。
「今朝がたから、ソル様から感じられる力が大幅に上がっているように感じられます」
「・・・・・・どの程度?」
部下の言葉に、ソルはピクリと眉を動かして問いかけた。
場合によっては、困ったことになりかねないのだ。
その部下も、ソルの表情の変化に気付いたうえで、聞きたいであろう答えを返した。
「進化種ならともかく、ゴブリンどもでは御前に来ることは叶わないほどかと」
「それは・・・・・・困ったことになりましたね」
部下のその言葉に、ソルは本気で困った表情になった。
ソルは里を運営してく上で、頻繁に里の様子を見に行っている。
その際に、ソルの持つ力に怯えてゴブリンが動けなくなってしまえば、本末転倒になってしまうのだ。
今回の件のことが無くとも、ソルは里の者たちから畏怖の対象として見られることがある。
進化の度合いが大きくなればなるほどその傾向は小さくなるのだが、それは持っている力との差を感じてそうなっているのは間違いない。
このたびソルがさらに進化を果たしたことで、その差がさらに広まっているというのだ。
そのため、いままで以上に委縮されるようになるのは、間違いがないことであった。
里の人口の多くを占めるゴブリンたちが、ソルに委縮してしまっては里の運営が立ち行かなくなる。
勿論、ソルが一か所にいて動かなければその影響も抑えられるのだが、ソルとしてはそれは勘弁してほしいと考えている。
籠の中の鳥になるつもりは毛頭ないのだ。
悩ましい表情になって考え込むソルに、部下が助け舟を出してきた。
「せっかくの機会ですから、以前から計画した件を実行してみてはいかがでしょうか?」
その言葉を聞いたソルは、じっとその部下を見つめた。
部下が言ったその計画は、ソルの側近たちでも意見を二分するようなものだったのだ。
里を割るわけにはいかないと、一度は立ち消えていたのだが、いまになって何故その話を出してきたのか、それを見極めようとしたのだ。
ちなみに、いま目の前にいるその部下は、計画の推進派に属していた者になる。
自らの考えをもとに進言しているのは間違いないことなので、ソルは即答できなかった。
ただ、言っていることに一理あることは、ソルも十分に理解していた。
「そうですね。少し考えてみましょう。・・・・・・夕食の席に、主だった者を集めてください」
「畏まりました」
ソルの返答に、その部下は丁寧に頭を下げるのであった。
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側近たちに方向性を話す前に、ソルは考助のいる管理層へと向かった。
計画を進めるためには、絶対に考助の許可が必要になる。
それを含めての相談があったのだ。
「――――何度も訪ねてきて申し訳ありません」
「いや。それはいいんだけれどね。加護でなにかあった?」
ソルの謝罪に、考助は軽く返事をしながら少し首を傾げつつ問いかけた。
先ほどスキルについての話を聞いてから半日ほどしか経っていない。
そんなにすぐに結果がわかるとは思えなかったが、それでもソルがなんの用事もなく来るとは考助も考えていないのだ。
その考助の問いかけに、ソルは先ほどの件も含めて考助のとあるお願いをした。
「――――――なるほどね。ソルが強くなりすぎてゴブリンに影響が出すぎるから、別の階層に拠点を持ちたいと」
「はい。新しい拠点では、皆の戦闘能力の向上をさせたいので、できれば中階層の中でも上の階層がいいです」
普段は考助に遠慮ばかりしているソルだが、種族全体の命運がかかっているときは、はっきりと伝えるべきことは伝えてくる。
考助もそんなことで怒ったりはせずに、考え込むこむような表情になった。
「うーん。階層をあげること自体は別にいいんだけれど・・・・・・」
「なにか問題でもありましたか?」
不安そうな顔で尋ねてきたソルに、考助は少しだけ間をあけてから続けた。
「いっそのこと、ソルも管理層をメインにして生活したら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
思ってもみなかった考助の提案に、ソルは呆然とした表情で答えを返すことしかできなかった。
そのソルの顔を見て、考助は小さく笑ってからさらに続ける。
「ナナとかワンリのことがあるから一概には言えないけれど、強者すぎる存在が団体の中で過ごしていてもあまり良い影響があるとは思えないんだよね」
勿論、強い存在が進化に影響を与えるということも考えられるが、ナナやワンリも四六時中同じ集団の中で過ごしているわけではない。
それを考えれば、強者の存在が同種族の進化に与える影響は、限定的とさえいえた。
仲間たちに与える進化の影響が限定的となれば、そもそもソルがずっと里で過ごす必要はない。
むしろ、ナナやワンリのように、管理層に来て女性陣とより親交を深めたほうがいいこともある。
それは、ソルにとってもそうだし、ゴブリンという種族全体で考えてもそうなのだ。
考助のその考えを聞いたソルは、しばらくの間その場で考え込んでいた。
考助もゆっくり考えればいいとソルをその場に残して、昼寝のためにくつろぎスペースへと行くのであった。
これでようやくソルの管理者メンバー入りフラグがたちました。
なにを今更という気もしなくはないですがw
どちらかといえば、立ち位置的にはナナやワンリのような感じになるかと思います。
・・・・・・タブン。




