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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第7章 塔の仲間と交流しよう
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12話 夢物語

 いきなり正体を晒したミツキに、アレクは多少及び腰になりつつも質問を投げかけた。

「・・・・・・一つ聞いてもよろしいか?」

「何?」

「このことは・・・その、コウスケ殿も知っているのか?」

 その問いかけに、ミツキはニコリと笑った。

「勿論よ」

 その答えに、アレクは今までの考助に対する認識を改めることにした。

 面接の時はともかくとして、フローリアとの対面時は、見た目の年齢相応の若者だと思っていた。

 だが、偶然か必然かはまだ分からないが、起こったことに対する対処はすぐれているらしい、と。

 ミツキの件は、アレクを抑え込むのには最高の一手だったのは確かである。

 それを意識したのかまでは判断できないが、実際にアレク本人がそう思ってしまった以上、それを覆すのは難しいだろう。

 考助本人はともかくとして、ミツキやコウヒを相手にするなど愚かしいにも程があるのだから。

「そうですか・・・」

 表情が表に出ないようにそう言ったつもりだったのだが、ミツキにはそうした思いはあっさり見抜かれたらしい。

 こんなことを言ってきた。

「勘違いしないように言っておくけれど、貴方が実権を握って内乱なりを起こしても、考助様は私達の力を使ったりはしないわよ?」

「・・・・・・は?」

「だってそうでしょう? 何かが起こったとしても転移門を閉じればいいだけなのだから」

「いや、しかしそれでは、せっかく作ったこの町はどうなる?」

 門を閉じれば、当然外部からの物の流入が止まる、ということである。

 生活に必要な物を全て自給自足できればいいのだが、現状自給自足など無理な状況だ。

 そんな状態で門を閉じれば、どんな状況になるのか、考えなくても分かることなのだ。

 アレクの戸惑いに、ミツキは一瞬考えて、すぐに頷いた。

「ああ、そっか。そもそもの町に対する認識が違っているのね。あのね、考助様はこの階層で、何が何でも町を維持しようなんて思っていないわよ?」

 アレクは虚を突かれたような表情になった。

「・・・そうなのか?」

「ええ。そもそもが失敗してもいいつもりで作った村だったしね。予想以上に、急激に大きくなっているから、簡単には手放さないでしょうけど、塔にとって邪魔だとか思えば、無理して維持するつもりはないと思うわ」

 ミツキのその言葉に、アレクは嘘はないと判断した。

 そして、それと同時にため息を吐いた。

「・・・そもそも、前提の認識から違っていたわけか・・・」

「まあ、普通は失敗前提でこんなことやらかすとは考えないわよね」

 疲れたような表情になったアレクに、ミツキは楽しそうな表情をした。

 今のアレクの心境を言葉にするなら、最初から違う土俵で相撲を取っていたのだから勝負にすらならない、と言ったところであった。

 いろんな意味で悟ってしまったアレクの様子を見て、ミツキはようやくその翼を収めた。

 

「あ・・・そうそう。これは必要な情報かどうか分からないけれど、一応伝えておくわ」

 唐突に話題を変えたミツキに、アレクは若干戸惑った表情になる。

「・・・何だ?」

「ミクセンの神殿は、コウヒのことは知っているわ」

「何? そうなのか・・・?」

「ええ。以前に神殿側とちょっと揉めたことがあって、今みたいに翼を出したって。シルヴィアもそのときいたらしいわ」

 ミツキに水を向けられたシルヴィアが頷いた。

「なるほど、な」

 そう言って頷くアレクに、ミツキは様子を窺うような表情になる。

「何かに使うつもり?」

「まさか。直接出向いてくれるのならともかく、私の言葉だけで出来るとすれば、せいぜい牽制に使えるくらいだな」

「あら。直接出向けとは言わないんだ」

 ミツキのからかうような様子に、アレクは何か悟ったように言った。

「私は、それほど厚顔無恥ではないつもりだよ。・・・それに、まだ死ぬつもりはない」

 アレクのその答えに、ミツキはクスクスと笑った。

「よくわかってるじゃない。まあ、出来るとすれば、考助様を経由して頼むことくらいかしら?」

「ふむ・・・・・・まあ、いざというときの手段として、覚えておこう」

「そうね。それが一番無難よね」

 アレクの言葉に同意したミツキは、この場にいる全員を促すように言った。

「さて。私の用事はこれで終わりよ。もうそろそろいい時間だから、解散しましょうか」

 ずっと地下にいたために、外の様子を確認できないでいたが、かなりの時間が経っている。

 そもそもこの場は、ミツキがセッティングしたので、結局このミツキの言葉で解散することになった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 その日の分の作業を終わらせて、屋敷へと戻ったアレクは、自室で酒を飲んでいた。

 アレクはそもそも毎日酒を飲むタイプではなかったが、時々はこうして一人で嗜む程度に飲むことはあった。

 そんなアレクを見に来たのか、フローリアが部屋にやってきた。

「父上・・・・・・」

 どことなくためらうような表情を見せる娘に、アレクは近くに来るように促した。

「こんな時間に、どうしたんだ?」

 父の問いに、娘であるフローリアは、しばらくの間迷うそぶりを見せた後、思い切ったように言った。

「父上は、後悔しているか?」

「・・・・・・どうしたんだ、いきなり」

「だが・・・私が、いなければ・・・私が、加護を持っていなければ、ここの代官なんて立場にはならなくても済んだはずだ」

 娘のその言葉に、アレクは一瞬虚を突かれたような表情になった。

 そして、すぐに苦笑を浮かべた。

「やれやれ。私はそんな顔をしていたのかい?」

「・・・・・・父上?」

 疑問の表情を浮かべた娘に、アレクはどこかさっぱりした様な表情になった。

「後悔など、したことはないよ」

「けれど・・・!」

「そりゃあ、悔しくないと言えば、嘘になるよ。・・・だがね、それ以上に楽しみにしている自分もいるんだよ」

 父のその唐突な言葉に、フローリアは首を傾げた。

「楽しみ?」

「ああ。あのごく普通に見える青年が、使徒なんて存在を二人も抱えて、どうなっていくのかとね。・・・いや、既に普通ではないのかもしれないな。単に私に見抜けていないだけで」

 この塔に来ることは、娘のこともあったので、アレクにとっては最初から確定事項だった。

 あるいは他の手段があればそちらの手段を取ったのかもしれないが、現段階でもこの塔に来る以外の選択肢は存在していない。

 そのことについて、後悔などするはずもない。

 だが、先ほどフローリアが言った通り、ただの代官で終わるつもりはなかった。

 あわよくば、塔の管理者の立場に取って代わる、とまではいかなくともある程度の手綱を握るくらいは出来るだろうと思っていた。

 そんな思いが、ミツキの登場で吹き飛んでしまった。

 そして、その後の会話で、完全に考助に対する認識が変わった。あるいは、変えられてしまった、と言うべきだろうか。

 ずいぶんと虫のいい話だな、と思って思わず自嘲してしまった。

「・・・・・・お父様?」

「ああ。済まない。とにかく、あまり心配する必要はないよ。今は、どうやってこの町を治めていくか、それを考えるだけで十分だ」

「・・・・・・そうですか」

 頷く娘に、アレクは悪戯っぽい表情を浮かべた。

「あるいは、国を興してしまっても面白いかな?」

「それは・・・!?」

「ああ、いや。流石に冗談だよ。今のところは、だけど」

 絶句した娘に、アレクは釘を刺した。

 流石に年月はかかるだろうが、条件さえ整えば、決してそれが夢物語ではないだろうとは考えている。

 現在の大陸における塔の立ち位置を考えれば、あり得ない話ではない。

 少なくとも、他のどの大陸で新たに国家を樹立しようとするよりも確実に興すことが出来るだろう。

 国を興すまでには、当然ながら様々な問題がある。

 だが、何よりも一番の問題は、塔の管理者である考助が許可を出してくれるかどうかだろうな、と考えるアレクであった。

最後の方の話は、あくまでもアレクの考えです。

今のところ考助は、国を興すなんて(めんどくさい)ことは欠片も考えていません。


2014/5/24 誤字修正

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