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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 塔のあれこれ(その21)
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(8)お披露目

 見学者付きで作ることになった家だが、それによって作業が滞ることはなかった。

 というのも、そもそも女性陣が見張ることになったのは、考助がどんなものを作ろうとしているのかを知りたいと考えているだけであって、作るのを止めるためではないからだ。

 止めるつもりがあるなら、そもそも最初から家づくりを止めていただろう。

 考助が常識を壊すほどの物を作ったとしても、それは「神与物だから」の一言で終わってしまう。

 問題なのは、考助が作った技術が半端に流れて、人の生活に大きな影響を与えることである。

 それが正しく伝わっていい方面で利用されればいいのだが、残念ながらそうなることのほうが少ないだろう。

 大抵、人が自身よりも上回る技術を知った場合は、戦争などの負の側面で利用されることがほとんどだ。

 今回作る家は、考助自身が余計な侵入者(?)を排除すると宣言しているが、前もってどんな技術が使われているのか知っておくと対処のしようがある。

 ちなみに、こういうときはコウヒやミツキが口出しをしてくることはない。

 端的に言えば、コウヒとミツキはあくまでも考助だけが大事で、勝手に手に入れた技術を使って人がどうなろうと知ったことではないのである。

 

 そんなこんなで再開した考助の家づくりだが、土台が完成したというのに、考助はレンガを積み上げる作業をせずに固まっておかれたレンガの前でなにかをやっていた。

 その様子をシュレインが首を傾げながら見守っていたが、作業中の考助の邪魔をするような非常識さは持ち合わせていない。

 そのため考助の集中が切れたころを見計らって話しかけた。

「考助、これはなにをしているのじゃ?」

「ん? ああ。簡単にいえば、作った壁に魔法陣を仕込むための準備作業をしているんだよ」

 普通の魔道具を作る際にも、手に入れた素材をそのまま使うことは少なく、魔法的に様々な加工を行っている。

 いま考助がレンガに行っていた作業もそのためのものだった。


 シュレインも魔道具作りの加工作業のことは知っている。

 それなのに考助にこんな質問をしたのには、きちんと理由がある。

「じゃが、そのレンガは精霊に作ってもらった物じゃろう? すでに加工済みではないのかの?」

「いいや。精霊たちにやってもらったのは、あくまでも神力とか魔力を使えるような状態にしてもらっただけだからね。魔法陣として使えるようにするにはもうひと手間必要なんだよ」

「なるほどの。そういうことか」

 考助の説明に、シュレインは納得の表情になった。

 結局のところ、先ほどまでのレンガは、魔物などから手に入れただけの素材と変わらない状態だったというわけだ。

 考助が魔道具の加工素材として使うためには、どうしても本人の処理が必要になるのである。

「・・・・・・だからといって、あれほどの数をあっという間に処理できるのは、常識外れじゃがの」

 レンガの山を見てぽつりと呟いたシュレインのその言葉は、考助にはきちんと届かなかった。

「ん? 何か言った?」

「いいや。なんでもない」

 首を傾げて聞き返してきた考助に、シュレインは首を左右に振るのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そのあとの作業については、同じようなことの繰り返しだった。

 レンガの加工をしては壁を作り、それ以外の材料を使うときも同じように考助が処理をしては床を張ったり、屋根を作ったりということをしていた。

 なんだかんだで初めての家づくりを終えたのは、考助が予想したぎりぎりの二週間が経ってからだった。

「私たちがいろいろと質問をしたりして、作業の手を止めたせいでもあるのでしょうね」

 できた家を見上げてそう言ったシルヴィアに、隣に立っていたシュレインが頷いた。

「そうじゃの」

「いやいや。それはあまり関係ないよ。やっぱり初めての作業だったから、思ったよりも手間がかかったせいだね」

 申し訳なさそうな表情を見せたシュレインとシルヴィアに、考助が慌てて右手を振った。

 確かに、何かあるたびにふたりが口を挟んできてはいたが、考助が思っていたよりもその回数は少なかった。

 なによりも、考助の作業の邪魔をしないようにされていたのだから、考助としては大した問題ではない。

 むしろ、作業中の気を紛らわせる存在として、役に立ってくれていたのだ。

 

 そんな会話をしている三人の前には、完成した家が建っていた。

 レンガを使って作っている以上、当然のように外観のほとんどはそのレンガで作られているのだが、まずそのレンガが普通ではなかった。

 陽光に反射して見えるその色は、淡い藍色で普通のレンガでは見られない色だった。

 なによりも普通ではないのが、夜の間にそのレンガが淡く光を発することである。

 これは考助が魔法陣を仕込むために行った前処理が関係しているのだが、さすがの当人にも予想外の結果だった。

 初めてレンガの処理を行った日に、日が暮れてきてからシュレインが気付いたのだが、それを見た考助は「また目立つ」と頭を抱えて、シュレインは笑っていた。

「まあ、これだけの物を作ったのだから、いまさらじゃろ」

 とシュレインが宣ったのを聞いて、考助がさらに頭を悩ませることになったのは言うまでもないだろう。

 とはいえ、今更仕様を変更することなどできるはずもなく、そのまま作業を続けることになった。

 ちなみに、この家が冒険者に発見されて、光るレンガのことが知れ渡ると同時に、この色が「アマミヤブルー」と呼ばれるようになるのだが、そんなことはいまの考助たちには想像もしていなかったことである。

 

 

 外見的には他でも見られるつくりになっているこの家だが、その中身はまったく普通とは言えない物になっている。

 反省の色を見せているシュレインとシルヴィアを余所に、コレットが感心したような表情になって言った。

「少なくとも外見は、ごく当たり前の範囲内で収まったわね」

 コレットとピーチは子育てがあるために、建築中の間はまったく現場に来てなかった。

 完成のお披露目となって、わざわざこの場に呼ばれたのだ。

「そうですね~。でも、できれば夜に来て、見たかったです」

 既にレンガが夜に光ることはふたりとも知っている。

 ただ、残念ながらいまは昼間なので、光る様子は見ることができない。

 

 残念そうな表情を見せるコレットに、シルヴィアが小さく笑った。

「今日は一日時間があるのですよね? また夜に来ればいいではありませんか」

「それもそうですね~」

 この家は、周辺に人を選ぶ結界を張られているが、管理層のメンバーであれば自由に来ることができるようになっている。

 夜のちょうどいい時間に来ればいいだけなので、ピーチもすぐに表情を明るくした。

「夜に見るとそれはそれは素晴らしい景色になるからの。一見の価値はあるぞ?」

「冒険者たちの間で、ちょっとした観光スポットになりそうだからな」

 既に光っている家を見ているシュレインとフローリアが、まじめな表情で頷いた。

 

 光るレンガが話の中心になっているが、考助がこの家に施した仕掛けはそれだけではない。

 もっといえば、普通ではありえない、常識はずれの仕掛けも用意されているが、それに関しては女性陣が突っ込むことはなかった。

 彼女たちが一番懸念しているのは、考助が作り上げた魔法陣が変に流出しないかどうかであり、作った家自体は「コウスケ(さん)のことだから」と受け入れられているのである。

 魔法陣の秘匿に関しては、これ以上ないものが使われており、流出の心配はないと結論付けられた。

 勿論、なにかの拍子に魔法陣が表に出る可能性はないわけではが、それは確率のかなり低い事故のようなもので、どんなに対策を練っても防げるようなものでない。

 そんなことを気にしていては、考助は造る魔道具をひとつも出せないことになってしまう。

 結果として、家は完成まで作られることになり、こうしてお披露目されることとなるのであった。

サクッと完成させました。

どんな家なのかは、次話の閑話で他者視点から見てみたいと思います。


ちなみに、「アマミヤブルー」は、アマミヤの塔にある家に使われている特殊な素材の色という意味でつけられています。

「コウスケ」の名前でないのは、しばらくの間作ったのが考助だと公表されていなかったためです。

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