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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 塔のあれこれ(その20)
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(1)緊張

 フローリアが着々とニホン料理計画を進めている間、考助はとある女性と対面をしていた。

「彼女がセイレーンのフェリシアです。どうですか?」

 その女性をフェリシアと呼んで紹介したのが、彼女の隣に座っていたトワだ。

 何故トワが彼女を考助のところに連れて来たのかといえば、以前から話に出ていたことを進めるためである。

 フェリシアの種族がセイレーンという時点で、なんの目的でトワが管理層に連れて来たのかは、すぐに考助にも理解できていた。

「ミクのために連れて来たというのはわかるけれど、こんな調子で大丈夫?」

 考助が少しばかりあきれたような顔でそう聞いたのは、目の前に座っているフェリシアが、ガチガチに固まっているからだ。

 考助のその言葉に、トワも苦笑しながらちらりと横目でフェリシアを見る。

「そのうち慣れます。私と初めて対面したときも、こんな感じでしたから。それに、ここにいれば、こんな緊張などすぐに吹き飛んでしまうと思いますよ?」

 笑ってそう言ったトワに、考助はジト目を返した。

「それって、なにやら含みがあるように感じるんだけれど?」

「ハハ。いや、そんなことはありません。父上もそうですが、母上たちがなじませるようにそれぞれ動きますからね」

 トワから見た管理層のすばらしさは、妙な緊張感が出ないように、女性たちが立ちまわっているところだ。

 

 人なので、管理層のメンバーも喧嘩を全くしないわけではない。

 だが、全員が対立するわけではないので、誰かかれかがフォローに入ったり、様子を見ながら対応をしているので、喧嘩状態が長く続かないのだ。

 勿論人の喧嘩なので、他人が入り込めない場合もあるが、大体は誰かが仲裁するか、自然消滅(?)するのを待って解決している。

 もっとも、喧嘩自体が少ないので、たまたまいままでがそうだったともいえるかもしれないのだが。

 

 そんなことを考えていたトワは、緊張しっぱなしのフェリシアを見て仕方ないとも考えていた。

 なにしろ、目の前にいるのは、神の一柱である現人神なのだ。

 むしろ、緊張するなと言う方が無理だろう。

「まあ、とりあえず、ミクの『音楽』を聞けば、いまの緊張なんて吹き飛んでしまうと思いますよ」

「ああ。なるほど」

 大いに納得できるトワの言葉に、申し訳なさそうな顔をしていた考助は、大きく頷いた。

 フェリシアは、それこそミクの教師としてトワが選んでくるような人材だ。

 目の前で緊張している姿を見ていれば信じられないが、トワの選択が間違っているとはかけらも考えていない。

 仮にも一国の主であるトワが、裏取りも含めて人を見抜けなければ、それはそれで問題があるだろう。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 結局フェリシアの緊張は少しも解けなかったため、まずはミクの演奏をきかせようということになった。

 考助自身が足を延ばしてサキュバスのいる階層にまで行き、直接ピーチとミクを呼びに行った。

 わざわざ考助が向かったのは、せっかくなので里にいるピーチとミクの様子を見たかったのもあるが、フェリシアから自分が離れて管理層にいることに慣らすためである。

 その程度のことで劇的に改善するとは思えないが、多少でも変わればいいなと考助は考えていた。

 その気遣い(?)が報われることになるかどうかは、考助が管理層に戻ってからでないとわからないが、とにかくいまはピーチとミクのいるところに急ごうと屋敷に向かって歩き始めた。

 

 考助が屋敷に着いたときには、幸いにしてふたりとも揃っていた。

 ピーチはともかく最近のミクは、サキュバスとしての修行も進めているので、なかなかに忙しい日々を送っているのである。

 そんな中でもストリープを弾く時間はしっかりと確保しているのだから、大したものだと珍しくピーチが苦笑していた。

 ちなみに、その話を聞いた考助もまた、同じような顔になっていた。

 ミクの自分が夢中になれるものを見つけたときに我を忘れてのめり込むという性質は、二親からしっかりと引き継いだらしい。

 それがいいことなのか悪いことなのかは、成長してからでないとわからないのだが。

 

 考助は、屋敷に入ってからすぐにふたりに話をしたが、ミクは大喜びだった。

 前々から新しい教師が来ることは伝えていたが、いつになるかは言っていなかったので、楽しみにしていたのだ。

 考助が話をした瞬間に、ミクは考助とピーチの腕を取って、すぐに管理層に向かおうと言い出し始めた。

 それを見て苦笑をした考助は、視線をピーチへと向けたが、彼女もまた同じような表情になっていたのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助がピーチとミクを連れて訓練所へと顔を見せると、フェリシアは先ほどよりも落ち着いた顔になっていた。

 トワがいろいろと言い含めていたようで、ある程度近付いても極端な緊張は見せていない。

 そんな微妙な空気(?)を感じてミクが不思議そうな顔をしていたが、ピーチに促されてストリープを持って用意された椅子へと腰かける。

 そして、慣れたようにストリープを構えて、以前よりも技術的にも上手くなっている演奏を披露し始めた。

 

 一方、フェリシアの反応はというと、ミクが曲を弾き始めるまではチラチラと考助の様子を見ていた。

 だが、ミクが音を鳴らした瞬間に表情を変えて、すぐにそちらの方を注目し始めた。

 それを確認した考助は、内心でホッとしていた。

 自分に対する態度も思うことはあるが、そもそもフェリシアはミクの教師として連れてこられたのだ。

 もしこの場面でもミクの音楽に注目しなければ、拒否せざるを得ない状態になっていただろう。

 それを回避できただけでも十分である。

 予定では、フェリシアは管理層ではなく、ミクたちが住んでいる里で一緒に住むことになっているので、最悪(?)考助に慣れなくても問題ない。

「せっかくの美人なので、お近づきになりたいでしょうけれどね~」

 などと宣っていたピーチの言葉は、聞こえなかったふりをすることに決めた考助なのである。

 

 

 幸いにして、ミクの演奏がきっかけになったのか、フェリシアの緊張は演奏が終えたあとは無くなっていた。

 そんなものを吹き飛ばすほどの衝撃を受けたようだった。

「どれほどのものかと考えていたのですが、予想以上でした」

 ミクの演奏を聞き終えて、フェリシアの開口一番の言葉がこれだった。

「んー。というと?」

 首を傾げる考助に、フェリシアは一瞬だけ口元をヒクリとさせたが、そのまま話し続けた。

 先ほどの様子からすれば、大進歩である。

「ミク様のことは、国王から話を聞いていたのである程度の予想は立てていました。ですが、その予想を遥かに超えておりました」

 

 フェリシア曰く、セイレーンが音楽に携わる場合、特に歌を歌うときには水の精霊たちが周囲に影響を与えるように集まることがあるらしい。

 それがセイレーンとしての特性ともいえる。

「ですが、ミク様の場合は、水の精霊だけではなく、他の精霊たちも集めているように見えます。恐らくその影響で、これほどまでに周囲を惹きつける演奏を奏でられているのかと思われます」

「なるほど~。それで、ミクの訓練を続けることは可能なのですね?」

 いまのままでは、無差別に周囲を巻き込んでしまうため、不用意に練習をすることができない。

 ピーチの屋敷で練習をする分には考助が作った魔道具で、音を外に響かせないようにしているため問題がないが、せっかく練習しても披露することができないのはミクにとっては不幸になってしまう。

 もっとも、そう考えているのは考助を含めた周囲だけで、ミクにとってはストリープを弾けているだけでうれしそうなのだが。

「勿論です! このままミク様の音が、外に出ずに終わってしまうのは、勿体なさすぎます!」

 力強くそう答えたフェリシアに、考助とピーチはお互いに安堵の笑みを浮かべた。

 

 こうしてミクの音楽教師としてフェリシアを迎え入れることになった。

 ・・・・・・のだが、彼女が考助に完全に慣れるのには、今しばらくの時間が必要となるのであった。


ミクに音楽教師が付きました。

本文中にも書いていますが、フェリシアが住むのはサキュバスの里になります。

本人は、管理層に住むことにならなくてよかったと、心の底から考えていましたw

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