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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 塔のあれこれ(その19)
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(9)料理を発展させるということ

 ほくほく顔で自分の居場所へと戻っていったシュミットを見送ってから、フローリアが考助に問いかけて来た。

「シュミットはなにを狙っているのだ?」

「あれ? 気付かなかった? フローリアだったらわかっていると思ってたんだけれど」

 シルヴィアも同じように疑問の表情になっていたが、そもそも商売関係は疎いのだと考えていた。

 ただ、フローリアであれば、シュミットがなにを狙っているのかは理解できていると考えていたのだ。

 考助に顔を向けられたフローリアは、素直に首を左右に振った。

「いや。残念ながらわからないな。商人は、独占して利益を得るものじゃないのか?」

「あ~。なるほど。そこからか」

 そのフローリアの問いかけに、考助は納得した表情になった。

 

 そもそもこの世界の商人、とくに大手のギルドを束ねている者たちは、自前で独占できる商品を見つける、あるいは作って売っているのが基本となる。

 勿論、多くの人間が使う共通した物は、金額を安くして広く売るということをやっているのだが、そうした物は基本的にどこでも手に入る。

 そのため、よほどの商機を掴まない限り、そうした商品で大きな利益を得ることは難しい。

 大手はしっかりと情報を得てそうした商機も掴んだうえで利益を得たりもするのだが、それはきっちりとした情報網を持っている本当に大きなところだけになる。

 それを考えれば、基本的にこの世界での商人というのは、独占した商品を持って儲けを出すのが基本ということになるのである。

 ちなみに、独占しているというのは、別に売り出す商品に限ったことではない。

 特定の貴族や王族とのパイプもまた、そうしたものに含まれる。

 

 フローリアの中にはそうした「常識」があるので、気付きにくいのかと考助は考えていた。

「今回の商売のポイントは、料理だということだよ」

 簡単に説明した考助だったが、やはりフローリアとシルヴィアは首をかしげたままだった。

「どういうことだ?」

「うーん。これでもわからないか。結構単純なんだけれどな」

 さてどうするかと少しだけ悩んだ考助は、ふたりを交互に見ながら諦めてほとんど答えになっているヒントを口にした。

「第五層の街には、同じようなメニューで多くの食堂が潰れずにあるけれど、それはなぜ?」

「なぜってそれは・・・・・・ああ、そういうことか」

 さすがのその説明で理解できたようで、答えを言おうとしたフローリアも、黙っていたシルヴィアも納得の表情になっていた。

 

 食堂や酒場では、変わったメニューや目新しい物で攻めているところもあるが、多くはその味で勝負をしているのだ。

 それに、いくら新しいメニューを出したところで、大概は数カ月も経てば真似されてしまうのがこの世界なのである。

 結局のところは、

「基本的なメニューのレシピを知ったうえで、それを超えるような新しいレシピを作るということか」

 というわけである。

 フローリアのその言葉に、考助は同意するように頷いた。

「まあそういうことだね。まだ出していないけれど、天ぷらだって基本的なつくり方さえ知ってしまえば、あとは独自で腕を磨いて行ったり新しい食材を探したりすればいいんだし」

 ちょっとばかり乱暴な言い方だが、考助も言い分も間違っていない。

 そもそも考助たちの目的は、一般家庭にまでニホン料理を広めるということなので、天ぷらを揚げるという調理方法さえ広まってしまえば目的は達成されるのだ。

 あとは、それぞれで腕を磨いて、なんでこうなったんだという魔改造をしていってもらえれば、考助たちにとっては大成功ということになる。

 

 シュミットの目的を知ったフローリアは、何度も頷いた。

「なるほどな。さすがにシュミットは、抜け目ない。まあ、私たちとしても、クラウンが率先してやってくれるのであれば万々歳、か?」

「まあ、しょうがないってところじゃない? 本当なら、独自で開発してほしいけれど」

 クラウンが新しい味を作りだすとなれば、結局のところ上から押し付けているのと変わらない、といえなくもない。

 ただ、そもそも基本的な考え方すらないこの世界では、一番ましな広がり方になるだろう。

 なにしろ、最初の目的である「屋台発祥」はすでに達成しているのだから。

「短期間で何もかもを狙うのは、無理でしょう」

「それもそうだな」

 冷静なシルヴィアの突っ込みに、フローリアも頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 レシピを公開することを決めた翌日からは、売り子たちが聞かれるたびに一週間後に教室を開くと宣伝(?)し始めた。

 一応、ただで教えるわけにはいかないので、入場料のような物を取ることも合わせて伝えていた。

 フローリアたちとしては、別に無料で開催してもいいのだが、材料費のこともあるので料金は取ったほうがいいということに決まった。

 ただし、広く受け入れることができるように料金自体は安く設定した。

 それに、料理教室のようにいちいち手取り足取り教えるわけではなく、エリが用意した部屋の中で一通り作って見せるだけだ。

 敢えて細かく教えないのは、まったく同じものを作るのではなく、独自に工夫してもらうようにするためでもある。

 たった一度の開催で、どこまで本格的にできるようになるのかは不明だが、まずはやってみようということになったのである。

 

「――――というわけだ。当日はそれぞれに負担をかけることになるが、よろしく頼む」

 そう言いながら軽く頭を下げたフローリアに、家に集まっていた屋台組は、慌てた様子になった。

 もと女王に簡単に頭を下げられると、心臓によくない。

「いえ! いいのです! もともとそのつもりでしたから!」

 なんだかんだで一番フローリアとの対応に(時間的な意味で)慣れているエリが、代表してそう答えた。

 それでもやはり声が上ずっているのは、いくら長年接していはいても慣れてはいないということを示していた。

 

 そして、敢えてそれには気付かなかったふりをしたフローリアは、当日間違いなく一番忙しくなるであろうエリに視線を向けた。

「エリはとにかく、料理をするために動いてくれればいい。準備に関係することは、すべてこちらで準備しておく」

「畏まりました」

 フローリアの言葉に、エリは明らかにホッとした表情になった。

 人数が増えたといっても、その分買いに来る人数も増えているので、忙しいのは変わりないのだ。

 その上に、教室の分の作業まで増やされるのは、さすがに無理がある。

 最近はずっと顔を見せているフローリアもそのことはよく知っているので、そんな鬼畜なことは言ったりしない。

「とはいえ、必要なものとかの確認とかは必要になるだろうから、短時間はどうしても時間が取られるだろうな」

「そのくらいは当然です」

 エリだって、いきなり当日に出てきて料理を作れば済むとは考えていない。

 フローリアの言葉は、当たり前といえば当たり前である。

 

 

 教室を開くと決めた翌日からは、それに向けて動き出した。

 といっても、実際に動くのはフローリアが手配した別の人材で、エリたちは宣言通り屋台に集中していた。

 ついでにいえば、別の人材は、トワを通して用意してもらっていたりする。

 名目としては、ラゼクアマミヤを豊かにするためということになる。

 もっとも、それは表には出さないことになってはいるのだが。

 とにかく、満を持して(?)開かれた教室は、フローリアたちの予想を超える人数を集めることとなる。

 そして、考助たちの「ニホン料理を広める」という目的に、大きく一歩を踏み出すこととなるのであった。

なにか、微妙にタイトル詐欺のような気がしなくもない・・・・・・と思いましたが、そう大きくはずれているわけではないので、そのままにしておきますw

次で、カレー話は終わり、かな?

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