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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 塔のあれこれ(その19)
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(3)思い付き

 とある日の夕食の席にて。

 しっかりと出された物を食べきったフローリアが、考助直伝(?)の「ごちそうさま」をしてからふと思い出したような顔になった。

「そういえば、ニホンショクの屋台をやるという話はどうなった?」

「えっ!? あれ、本気だったの?」

 何気なく出て来たフローリアの問いかけに、考助は本気で驚いた。

 確かにフローリアが言った通り、だいぶ前に屋台を出すかという話をしていた。

 ただ、考助の中では話の流れで出て来たものであり、そのうちできたらいいなあという程度の認識だったのだ。

「本気というか・・・・・・これほど美味しい食が世に出ないというのは勿体ないということじゃなかったか?」

「そうよのう。確か、城の料理人だけに伝えてもなかなか一般には伝わらないということじゃなかったかの?」

 フローリアとシュレインに立て続けに言われて、考助もようやく前に話していた内容を思い出した。

 

 たしかにふたりの言う通りで、城から宮廷料理の一部として広めるよりも、市井から広めて行ったほうがいろいろな改良がされて面白いことになるのでは、という話になっていた。

 もっとも、それは考助が最初に提案したことであって、それがそのまま反映されるとは考えていなかった。

 王宮から食を広めようとしても、それが一般に広がることはなかなかない。

 それは単純に、王宮で出される料理が、基本的には高級な食材が使用されているためで、そんな食材は一般家庭では手に入らないためだ。

 それならば、一般家庭でも手に入る食材を利用して屋台でも開けばいいというわけである。

 ちなみに、アースガルドの世界では、蒸す、焼くといった調理方法に関しては、考助が知る世界の物と同じものが知られている。

 問題があるとすれば、モンスターがいる世界なので、簡単に農地が広げることができないために、野菜類のバリエーションが少ないということくらいだろう。

 それにしても現在考助たちが普通に日本食を口にしている以上、足りない食材はあまりないというのが現状だった。

 であれば、なぜ似たような料理が出回っていないのかといえば、それこそ食の豊かさを求めるよりも先に、モンスターの襲撃に立ち向かうという力のほうに人々のリソースが向かっていたためである。

 そうしたことを考えれば、考助たちがちょっとした料理を屋台で出せば、余裕のあるものが様々なものに手を出し始めるのではないか、と考えたのだ。

 

 以前話した内容を思い出した考助は、それと同時に他のことも思い出した。

「確かにそんな話はしていたね。でも、他の諸々と同じで、ちょっとした会話のひとつだと思ってた」

「ああ、なるほど」

 考助たちは、普段からそうなのだが、政治が絡む話から今回のようなちょっとした提案まで、さも実際に行うとどうなるかという話をよくしている。

 それは、あくまでも会話の流れで出た話であって、実際に実行することはほとんどないのである。

 そのため、考助としては、むしろフローリアが本気で考えていたということのほうが驚きだったのだ。

 

 フローリアも考助の驚きは理解できたが、この話を本気にしていたのにはわけがある。

「確かにあのときは、そんな流れだったな。ただ、あのあとよく考えてみたんだが、実現可能ではないかと考えてな」

「そうなの?」

「うむ。そもそも考助は、というかあのときの話では、レシピに関しては秘密にするのではなく、むしろどんどん公開することになっていたからな。それならば、いかようにもやり方はあると思う」

 新しいことを始めるにあたって一番の障害になるのは、身分差だ。

 たとえば貴族などに目をつけられて奪われてしまえば、世界中に広めるという目的が潰えてしまう。

 だが、Aランク冒険者の名前を使って、第五層の街で屋台を開く分には大した障害は出ないのではないか、というのがフローリアの考えだ。

 そもそもラゼクアマミヤが現在正式に認めている貴族は、片手で数えるほどしかいない。

 そのすべてが考助の顔を知っているのだから、おかしな真似などしてくるはずもない。

 あとは、大商人などに目をつけられる可能性もあるが、そちらはクラウンを通せばどうとでも処理ができる。

 本来であれば秘密にするべきレシピも、聞かれたら答えるつもりでいるので、他の同業者から目をつけられる可能性も少ない。

 つまり、少なくとも第五層の街で屋台を開く分には、大した障害はないということになるのだ。

 

 理論立ててそれらのことを説明してきたフローリアに、本気度が窺えた。

「――――というわけで、屋台をやる分には問題ないと判断した。そもそも失敗しても大した痛手にはならないからな」

「それは、確かに」

 いまさら屋台を一台用意して、それを開いたとして考助たちにとっては損害といえるほどの被害は生じない。

 後押しするようなフローリアの一言に、考助の気持ちが傾きかけたところで、いままで黙って話を聞いていたシルヴィアが口を出してきた。

「金銭的な問題はないでしょうが、人材的な問題はどうするつもりですか?」

 料理の屋台を出すということは、そもそも商品を調理できる者がいなくてはならない。

 最初のうちは、それこそミツキが担当してもいいのだが、あとのことを考えれば常時屋台のために調理ができる者を用意したほうがいいのは確かだ。

 

 人材に関してはフローリアも悩みどころだったのか、すぐに答えは出てこなかった。

 その顔を見て一緒に悩んでいた考助は、ふと料理上手であとで指導役にもなれそうな存在を思い出した。

「・・・・・・エリに頼んでみる?」

「おお!」

 ポツリと呟いた考助に、フローリアが大きく反応した。

 現在、百合之神社を管理している奴隷のエリであれば、考助の意に反することはしないだろうし、なによりも第五層に用意してある家を通して屋台を開くことも容易だ。

 そもそも屋台なので、毎日営業する必要もなく、百合之神社の管理との兼ね合いを考えれば適切な存在といえるだろう。

 

 他の面々の顔を見れば、考助やフローリアと同じように納得していることがわかる。

 それを見た考助は、視線をミツキへと向けた。

「とりあえず、ミツキから調理方法を教えてもらってもいいかな?」

「勿論。でも、教えるものはなにが良いかは、指示してね」

「それは勿論。とりあえずは・・・・・・っと。ここから先はフローリアに任せるよ」

 突然話を区切って水を向けて来た考助に、フローリアはためらうような視線を向けた。

「いいのか?」

「うん。だって、なんだかんだで一番やる気になっているのは、フローリアだよね?」

「うっ!? い、いや、そんなことはないと思うが・・・・・・」

 僅かに狼狽えながら周囲に視線をさまよわせたフローリアは、他の面々のニマニマとした顔を見て反論を諦めた。

 

 フローリアは、一度だけため息をついてから開き直ることにした。

「うむ。様々な料理があふれるということは、それだけ国に余裕が生まれているという証拠だからな。これは、元女王である私が、率先してやるべきだろう!」

 フローリアのその宣言に、考助たちは一度顔を見合わせて、一瞬間をあけてから笑い声を上げた。

 これにより、考助たちによる本格的な屋台の運営がスタートするのであった。

前話がコウヒの話だったので、今回はミツキを、と思ったのですが、なぜかフローリアが暴走しました。


あるえぇ?

・・・・・・まあ、いいか。

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