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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 塔のあれこれ(その19)
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(2)ちょっとした日常

 魔道具の研究で疲れ切った考助は、癒しを求めて第八十三層を訪ねていた。

 狼と狐が共存しているこの階層では、しばらくの間、両者の争いが絶えなかったが、いまではナナやワンリがいなくても大丈夫なほどになっていた。

 それは、さんざんナナやワンリが仲裁を行い、ときには考助が出ていたために、死者(?)が出るほどの本気の争いは駄目だというルールが教え込まれた結果だ。

 さらには、ナナやワンリ以外にも両者を仲立ちできる個体が出て来たことも挙げられる。

 勿論まったく争いがないというわけではないが、考助・ナナ・ワンリが出なくても、最悪の事態にはならないくらいには統制が取れるようになっていた。

 逆に、考助が姿を見せたときに、どっちが先に甘えに行くかで争い(じゃれ合い?)が起こるようになっているのだから、かなり平和になったといえるだろう。

 一度セシルとアリサが第八十三層に来たことがあったが、狼と狐が争いもせずに闊歩している姿を見て、ふたり揃って固まっていた。

 それだけで済んでいたのは、アマミヤの塔の常識外れさを知っていたためである。

 一般常識でいえばまずありえないこと、というよりも、想像することすらしないだろう。

 それほどまでに普通ではない光景なのだが、それを創りだした張本人たちは、そんなことはまったく気にしていなかった。

 それどころか、仲良く生活している姿を見て、無邪気に喜んでいるのが現状であった。

 

「・・・・・・ぐう」

 ――――普段、いびきをかくことのない考助だが、狼と狐に囲まれて寝転んでいるうちにいつの間にか寝てしまい、寝返りを打ったタイミングでそれらしい声が漏れた。

 右側で寝そべっていた狼が、ピクリと耳を動かして目を開けたが、考助がそれ以上の反応を示さないのを横目でちらりと確認して、すぐにまた目を閉じてしまった。

 左側で寝そべっている狐は、狼とは違って特に反応を示さずに寝続けている。

 ただし、狼も狐もそこは普段野生で生きているために、周囲で何かが起こればすぐに臨戦態勢になれる。

 そして何よりも、ナナやワンリを除けば第八十三層にいるそれぞれの種のトップに立っているのだ。

 容易に近づけさせないだけの実力は持っている。

 ちなみに、考助の両隣で寝続けられるという権利を得ることができているのは、それぞれの頂点に立っているからである。

 

 そんな三者の様子を見ている人影が、ふたり分あった。

 勿論、言うまでもなくコウヒとミツキだ。

「・・・・・・お疲れなのでしょうか?」

 珍しくいびきらしき音を立てた考助に、コウヒが不安げな表情を向けた。

「それらしい兆候はなかったから、たまたまじゃないかしら?」

 ミツキは、軽い調子でそう答えたが、その視線はコウヒと同じように考助へと向けられている。

 話していることは正反対の内容だが、どちらもその根幹は同じだ。

 コウヒとミツキのこの根幹は、考助と出会ったときからまったく変わっていないのである。

 

 ふたりが見守る中、ふと考助が目を覚まして上体を起こした。

「んー・・・・・・? 寝、てた? あ、駄目だ、まだ眠い」

 そんなことを呟いたあとに、一度起こした体を倒して再び目を瞑った。

 そして、そもままおもむろにコウヒとミツキに話しかけた。

「ごめん。しばらく眠っているから、交代しながらでも狩りにでも行ってきていいよ~」

 それだけを言った考助は、再び静かになってしまった。

 両隣にいた狼と狐は、考助が上体を起こしたときに揃って目を開いていたが、考助が目を閉じたのを見てから同じように目を閉じていた。

 

 その考助の言葉を聞いたコウヒとミツキは、同時に顔を見合わせた。

「・・・・・・・・・・・・どうしますか?」

「んー。ここであれば結界内だからひとりでいいのは確かよね」

 ミツキの答えに、コウヒも頷く。

 周囲にいるのが眷属である以上、まず考助の身に何かが起こるとは思えない。

 ただし、なにが起こるのかわからない以上、絶対にどちらかは考助から離れないというのは譲れないところだ。

 考助もそれはわかっているのだが、寝ぼけながらもそれに則った言い回しをしたのは、さすがというべきだろう。

 

 寝ている考助に配慮したミツキが、突然右手をグーに握った。

 それを見たコウヒが同じように右手を握って、同時にそれを振り下ろす。

 いつぞやのときとは違って、今回は一発で勝負がついた。

 コウヒがチョキで、ミツキがグー。

 勝者のミツキがコウヒに向かって右手をひらひらさせた。

 どうぞお先に行ってきてくださいという意味だ。

 一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたコウヒだったが、すぐにいつもの表情に戻り、一度ため息をついてから歩き始めた。

 考助の傍を離れたくはないというのは事実だが、体を動かしたいというのも、二番目くらいの欲求としてはあったのだ。

 そして、残されたミツキは、コウヒが離れて行くのを確認したあとで、静かに考助のところまで近寄っていき、その場に腰を下ろすのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 コウヒが拠点の外側に向かって歩き出すと、狼が二匹ほどついてきた。

「・・・・・・一緒に行きたいのですか?」

 コウヒがそう呼びかけると、その二匹の狼は、尻尾をぶんぶんと左右に振った。

 それを見たコウヒは、口の両端を持ち上げた。

「そうですか。では、一緒に行きましょう」

 その言葉がわかっているのか、二匹の狼は尻尾を振ったままコウヒのより近くまで寄ってきた。

「たまには狼と一緒の狩りもいいでしょう」

 すぐ傍まで来た狼の頭を撫でてからコウヒはそんなことを呟いてから拠点から出て行った。

 

 

 連れて来た二匹の狼は、コウヒの予想以上の活躍を見せていた。

 狩り慣れている場所のせいなのか、コウヒよりも先に獲物を見つけていたのだ。

「さすが、主様の眷属・・・・・・いえ。あくまでもこの子たちの努力の成果ですね」

 考助は、なんでもかんでも自分のお陰だというと嫌な顔をする。

 いまコウヒが言い直したように、本人(この場合は狼?)が持つ力や努力を認めないで、全て神のお陰だとなにもしなくなってしまうと。

 そして、最後にはなにも得ることが無くなり、結局それもまた神のせいだと押し付けてしまうのだ。

 以前考助から聞いたその考え方は、コウヒやミツキにしっかりと伝わっており、コウヒもそれを基準に考えるようになっている。

 とっさに考助のお陰だと呟きかけたのは、ご愛敬のレベルである。

 

 二匹の狼が見つけた獲物は、すぐにコウヒの手によって倒された。

 沈みゆく獲物を見て、狼は物足りなそうな顔をしていたが、コウヒが解体を終えた獲物のいらないところを与えると、すぐに嬉しそうにかぶりついていた。

 第八十三層に出てくるモンスターは、全身の使える部位が余すところなくあるのだが、その程度の肉であればむしろ与えた方がいい。

 既にコウヒやミツキのアイテムボックスは、処理できない肉類が多くある。

 あまり与えすぎは、先ほどの観点からよくないだろうが、狩りのご褒美として(コウヒにとっては)少量の肉を与えるのは、むしろ考助であれば勧めるであろう。

 コウヒにとっては、あくまでも行動の基準は考助にあるのだ。

 

 コウヒが獲物の解体を済ませている間に二匹の狼も与えられた食事を終えて、次の獲物へと向かった。

 それを三度ほど繰り返したあとに、コウヒたちは拠点へと戻った。

 そのときにはすでに考助も昼寝(?)を終えており、戻ったコウヒが慌てて謝ったのは余談である。

タイトルのままですw

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