(1)リトルアマミヤの塔の現状
ちょっとした魔道具の研究を終えた考助が研究室から出ると、タタタと足音が聞こえて来て、その勢いのままドンとぶつかってきた。
訂正。抱きついてきた。
「おっと・・・・・・!? ミア、どうしたんだ?」
ミアは、さすがに成人してからは肉体的な接触が少なくなってきたため、こうして派手に抱き着いてくるなど久しぶりのことだった。
その顔を見ればおかしなことが起こっているわけではなく、喜んでいるのはすぐにわかったので、考助は取り乱すことなく受け入れることができた。
「父上! ついにやりました!」
対して、ミアの返答はごく簡単なものだったが、考助には彼女がなにを言っているのかすぐに理解できた。
これまでずっとミアが悩みに悩んでいたことが解決できたのだ。
「そうか。やっとレベル五になったか」
「はい!」
考助の言葉にミアは嬉しそうに頷いた。
ミアが管理するようになってたリトルアマミヤの塔は、レベル四になってからずっとその壁を越えることができていなかった。
考助がセントラル大陸にある塔での経験から、塔レベル五になれば召喚によって中級モンスターの眷属を迎え入れることができる。
そうなれば、できることもまた多くなってくるのだ。
だからこそミアは、その壁を越えようとなんとか試行錯誤していたのである。
今回のミアの報告は、その努力が実ったといってもいいものだった。
ミアを離した考助は、天井を見上げる仕草をした。
「――ちゃんと中級モンスターが召喚できるようになっていた?」
「はい。それはきちんと確認してきました」
ミアが頷くのを見て、考助は視線を下げてから顎に手をやる。
「なるほど。その辺りのことは、大陸が変わっていても違いがないのかな」
塔レベルが5になって中級モンスターが召喚できるようになるというのは、あくまでもこれまでの経験上の推測でしかなかった。
これがリトルアマミヤの塔でも同じだとわかったことで、その推測が他大陸でも適用されたことになる。
もっとも、たまたまリトルアマミヤの塔だけがセントラル大陸にある塔と同じ法則に則っているだけだということもあり得る。
他の大陸の塔で確認できない以上、あくまでも推測としか言えないのだが、考助としてはわざわざ確証を得ても仕方ないと考えている。
重要なのは塔レベルを上げるための条件であって、上がったときの内容は結果ついてくるものでしかないのである。
考助の口調でさほど興味がないと分かったミアは、自身で一番気になっていたことを伝えることにした。
「それよりも、神力のクリスタルの容量が増えていました」
「へえ。それは良かったね。これからは多少やりやすくなるかな?」
ミアがリトルアマミヤの塔のレベルアップに苦労していたのは、貯められる神力の量が少なかったからというのがひとつの要因となっていた。
塔の運営をするには、なにはさておいても神力が必要になる。
一度に多くの神力が使えるようになれば、それだけ多くのものが設置できるようになるのだ。
当然ながら、色々なものを設置するためには神力を貯める必要があるのだが、それと同じくらい貯められる量も重要なのである。
だが、ミアは考助の言葉に、微妙な笑みを浮かべた。
「それは・・・・・・どうでしょうか。いまはまだ、神力が入るたびに使っている状態ですから」
「ああ。それはしょうがないね」
貯められる神力が多くなるのは良いが、そもそも一度に入ってくる神力が少ないために、貯めきるまでには日数がかかる。
目標値まで貯まれば、必要なものを設置するということを繰り返しているので、これまでもあまり最高値まで貯まることはなかったのだ。
だが、それでもクリスタルの限界値が変わったことには大きな意味がある。
それは、これまで設置できなかった物が設置できるようになるということもあるし、一度に大きな変更を加えたいときにも必要になる。
それだけの神力を貯めるのに時間がかかるということは、ある意味で仕方ないことでもある。
ミアがリトルアマミヤの塔の運営に苦労しているのは、そもそも入ってくる神力が少ないためだ。
セントラル大陸にある塔は、アマミヤの塔からの神力でいくらでも好きなことができた。
だからこそ初期のレベルアップにもさほど苦労していなかった。
ところが、リトルアマミヤの塔は、アマミヤの塔からの恩恵がないので自由に使える神力が少ないのである。
内情を知っている考助からすれば、むしろよくこれだけの期間でいまのレベルまで持ってこれたと思っているほどだ。
いきなりチートに近いアマミヤの塔を手に入れられた自分とは違って、考助にとっては、ミアは純粋に凄いと思える。
ただし、残念ながらその当人は間近で考助を見てきているので、少なくとも塔の運営に関しての自己評価は低かったりする。
もっとも、考助は考助で同じように微妙なところで自己評価が低いため、どっちもどっちともいえる親子なのであった。
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ミアと一緒にリトルアマミヤに来た考助は、制御室でレベルアップに伴って追加されたアイテムを確認していた。
「うーん。いままではそうでもなかったんだけれど、今回はいろいろと新しい物がたくさんあるなあ」
「そうですね」
唸るようにして言った考助に、ミアも頷き返した。
大陸が違えば塔で使えるアイテムも違うようで、これまでもセントラル大陸にある塔では見つけられなかったアイテムが幾つかあった。
ところが、今回のレベルアップで追加されたアイテムは、そのほとんどがいままで考助が見たことのない物だった。
ミアもレベルアップしたときにすぐに確認していたので、そのことには気づいている。
「今回出た分もやはりアマミヤの塔に持ち込まれるのですよね?」
いままでリトルアマミヤの塔で出せるアイテムで、アマミヤの塔にない物は、しっかりと持ち込んでいた。
中にはアマミヤの塔には登録されずに、他の塔に登録された物もある。
色々調べるには、当然今回も持ち込みをするだろうというミアの問いかけに、考助は難しい顔になった。
「うーん。そうしたいのはやまやまだけれど、コストが高い物ばかりだからねえ」
基本的に塔に設置できる物は、レベルが上がって新たに出てきた物ほどコストがかかる。
勿論例外はあるが、それはごくごく一部の物でしかない。
当然のように、今回リトルアマミヤの塔のレベルアップに伴って追加された物は、ほとんどがいままでよりもコストがかかる物になっている。
神力のやりくりに四苦八苦しているリトルアマミヤにとっては、気軽に持ち出せるようなコストではなくなっていた。
残念そうな顔になっている考助に、ミアがおずおずと申し出た。
「いくつも持っていくとなると困りますが、ひとつやふたつ程度であれば、大したことではないですよ?」
「いや。他の塔との繋がりがあるならともかく、リトルアマミヤは単独で運営しているからね。きちんと収支に余裕が出てからでいいよ」
ただでさえぎりぎりで運営しているところを、アマミヤの塔のためだけに新しい物の設置を遅らせるわけにはいかない。
折角レベルアップしたのだからいろいろとやりたいという欲求は、考助自身がよくわかっているのだ。
なによりも、リトルアマミヤの塔の収支が改善してから貰ったほうが、考助の精神的に落ち着ける。
その考えを見抜いたわけではないが、ミアも考助の顔を見てそれ以上はなにも言わなかった。
リトルアマミヤの塔のことについては、ミア自身がよくわかっているために、あまり押し付けても良くないだろうと考えたのである。
リトルアマミヤの塔は、アマミヤの塔と比べれば遅い成長に思えるかもしれませんが、普通はここまで早くレベルアップはしません。
細かい内容は違うとはいえ、大まかに塔の運営の道筋を知っているからこその早さです。




