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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第9部 第1章 塔のあれこれ(その18)
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(9)難しい訓練?

 しばらく『烈火の狼』の訓練を見ていたトワの元に、元気印のふたりが突撃してきた。

「トワにいさま~」

「にいさま~」

 訓練中にも関わらず、大声で入ってきたのは勿論、セイヤとシアだ。

「お~! セイヤとシアか。元気だったかい?」

「うん!」

「げんき~!」

 トワの問いかけに、セイヤとシアは両手を振り回しながら答えて来た。

「ハハハ。そうか、それは良かった」

 子供らしい無邪気さで笑顔を振りまくふたりに、トワも笑いながら頭を撫でた。

 

 あまり管理層に来ることができないトワは、ミクと同じように、セイヤとシアとはあまり接点がない。

 それでもトワが来ているときにはなるべく顔を合わせるようにしていたので、ふたりとも嬉しそうに撫でられていた。

 そのふたりの様子を見て、笑いながらコレットが近寄ってきた。

「間に合ったみたいね」

「今日はもう少しゆっくりしていきます」

 今はまだ時間が昼を少し過ぎたくらいだ。

 トワは、今日の夕食を食べたあとに戻るつもりでいた。

「あら。そうなの?」

「ええ。せっかくの機会ですから」

 さすがというべきか、ダニエラの読みは正しく、トワはこの二日間で大分リフレッシュできていた。

 今日は一日休みを取ったとダニエラが言っていたので、トワはぎりぎりまでのんびりするつもりになっていた。

 

 コレットとトワが会話を進めている横で、セイヤとシアは興奮気味に騒いでいた。

「シュレインかあさまとシルヴィアかあさま、すごーい」

「シュレインかあさまとシルヴィアかあさま、つよーい」

 目を輝かせながら揃ってそう言ったふたりの頭に、コレットが両手をポンと乗せた。

「それは、ふたりともいっぱい訓練しているからね」

「セイヤもくんれんしたら、つよくなれる?」

「シアは? シアは!?」

 ふたりとも興奮気味に、シュレインとシルヴィアの戦闘を見ている。


 セイヤとシアは、旅の最中にも母親たちが戦っているところを見てはいるのだが、あまりにもあっさりと片付けていたのでよくわかっていなかったのだ。

 それが、いまは五人を相手にしてふたりで攻撃をさばいている。

 最初のときの模擬戦と違って、連携の確認のための訓練でもあるのだが、それでも一流の冒険者らしい動きになっている。

 ちなみに、彼らの動きをしっかりと目で捉えているセイヤとシアは、それだけでも普通とは違っていたりする。

 勿論、そんなことは、ふたりともわかっていないのだが。

 

 セイヤとシアの問いかけにコレットはどうこたえるのだろうとトワが見る中、その当人は小さく首を傾げてからにっこりと笑った。

「そうねえ。・・・・・・少なくとも、ふたりがいまやっている訓練をもっと頑張らないと無理かな?」

 コレットがそう答えると、セイヤとシアは途端にプクリとほほを膨らませた。

「でも、おなじことばっかりで、つまんなーい」

「シアもあんなのやってみたーい!」

「それじゃあ、セイヤもシアもあそこまで強くはなれないわよ?」

「「ええー」」

 コレットの言葉に、双子は同時に嫌そうな顔になった。


 一方で、目の前で繰り広げられる親子の会話に、トワもなんとなく内情を察してきた。

 どんな分野でも基礎的な訓練というのは必ず存在している。

 そして、それは特殊な例を除いて、大抵は同じことの繰り返しで身に着けて行くものなのだ。

 セイヤとシアがコレットから教わっている精霊術もまた、そうした繰り返しの単調な訓練は存在しているのだ。

 子供であるセイヤとシアには、それがつまらなく感じられるのだろう。

 

 コレットの顔を見れば、ふたりが普段から同じようなことを言っていることはトワにも察することができた。

 さてどうしたものかと少しだけ悩んだトワは、コレットに文句を言っているふたりの頭に手をポンと乗せた。

「セイヤ、シア。コレット母上が言っていることは、間違っていないよ」

「えー」

「でもー」

「ふたりは、ミクがストリープの練習をするところは見て来たのですよね?」

 セイヤもシアも旅の間、ミクがずっとストリープを弾いているところは見ている。

 その練習を思い出させれば、基礎の繰り返しの練習が大切なことだということはわかるはずだというのがトワの考えだった。

 

 案の定、トワの問いかけに、セイヤとシアが頷いた。

「でしたら、同じことを何度も繰り返すことの大切さがわかるはずです。ずっと同じことをするのは、大変で飽きてしまうかもしれないですが、とっても大切なことなのですよ」

 優しく諭すように言ったトワだったが、それでもふたりは不満そうな顔を浮かべていた。

「えー」

「でも、せいれいもはやくせいれいじゅつ、つかえるようになってほしいっていっているもん!」

 シアの言葉に、トワはなるほどと納得した。

 同時にコレットを見るが、子供たちの見えないところでコレットは苦笑しながら頷いた。


 コレットのその顔で、セイヤとシアがコレットの言う通りに訓練をしないのは、精霊たちから妙な入れ知恵を受けているせいだということがわかった。

 ここで間違えてはいけないのは、精霊たちには悪気がないということだ。

 精霊術、というよりも精霊と会話をするなかで一番難しいのは、彼らの言葉をきちんと正確に読み取ることなのだ。

「セイヤ、シア。精霊たちはなんといっているのか、もう一度きちんと思い出してごらんなさい。精霊術は使えるようになってほしいと言っているかもしれませんが、訓練はしなくていいと言っていましたか?」

「・・・・・・う?」

「・・・・・・え?」

 トワの言葉に、セイヤとシアは虚を突かれるような顔になった。

 

 ふたりに精霊術を教えているコレットは、当然のように精霊の言葉も聞いている。

 セイヤとシアは、同じ言葉を聞いていることを前提に話をしていた。

 だが、忘れてはいけないのは、精霊の言葉を聞くということはその能力によって差があるということだ。

 さらには、その上で精霊の言葉を正確に読み取って会話をしていくということをしなくてはいけない。

 それらは、個々の能力によって違ってくるものなので、具体的にどうこうと教えられるものではないのである。

 こればかりは、それこそ数をこなして個人個人で慣れて行くしかないのだ。

 

 トワは精霊術を使えないが、そうした基礎的な知識だけはコレットから聞いて知っている。

 だからこそ、もどかしい思いをしているコレットのことにも気付いていた。

「私は精霊の声を聞くことはできないですからね。ふたりがどういう言葉を聞いているのかわからないんだよ。本当にその訓練はしなくていいと、精霊は言っていましたか?」

 敢えて厳しめにトワが聞くと、セイヤとシアは途端に目をウロウロとさせ始めた。

「え、えーと・・・・・・?」

「ど、どうだったっけ・・・・・・?」

 慌てるふたりに、トワはそれを責めることなくニッコリと笑った。

「普通、精霊の言葉は人によって聞こえることが違うと聞いています。セイヤとシアは、特別に同じ言葉が聞こえているようですが、だからこそきちんと聞けるようにしなくてはいけませんよ。もし、間違って聞いてしまったら、精霊たちは力を貸してくれなくなるかもしれませんから」

「・・・・・・ハイ」

「・・・・・・ごめんなさい」

 そう言って項垂れるセイヤとシアに、トワはもう一度笑みを浮かべた。

「私に謝る必要はありません。間違っていることに気付いたら直していけばいいのですから。――――わかったら、元気に返事!」

「「うん!」」

 トワが促すと、セイヤとシアは揃って元気に返事を返してきた。

 

 これで大丈夫かなとトワがふたりに見つからないようにコレットを見ると、そのコレットはトワにそっと頭を下げていた。

ちなみに、今話は<妖精言語>が使える前提で話を進めています。

<妖精言語>が使えないエルフの場合は、セイヤとシアとは別の方法で精霊術を習っていきます。

まあ、全く<妖精言語>が使えないエルフのほうが珍しいのですが。

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