(7)考助の子供とは
風呂から上がったリクは、しっかりと着替えを済ませてから考助たちのいるくつろぎスペースへとやってきた。
ちなみに、なぜ着替えがあるかといえば、訓練を終わって汗を流すために風呂を使うことがあるためだ。
メンバーの分もそのためのスペースは確保してある。
「あ~。やっぱりここの風呂は気持ちがいいな」
すっかりおっさん臭くなった台詞を吐きながらリクがやってきた。
それを見ながらトワがうらやましそうな視線を向けながら言った。
「ずいぶんと入り浸っているようですね」
「んおっ!? なんだよ、兄上のその目は。別に入り浸っているってほどじゃないとおもうぞ?」
「その割にはずいぶんと来ているようですが?」
「ああ。それはどちらかといえば、あいつ等のせいだな。どうやらここでの訓練に味を占めたようでな」
リクはそう言いながら遠い目をした。
『烈火の狼』のメンバーが最初に訓練をつけてもらっていたのはシュレインだが、最近では他の女性陣も加わっている。
さすがにAランクに上がっただけあって、ひとりで簡単にあしらうということができなくなっているのだ。
そのため、シュレインを含めた他の面々にとってもいい刺激になっているのである。
「ほう。『烈火の狼』が急激に実力をつけてきたのは、そういった事情がありましたか」
トワのところにも『烈火の狼』に関する情報は入ってきている。
率いているのが国王の実弟であるリクだからということもあるのだが、現状あるトップクラスの冒険者パーティの中で一歩抜きんでて来そうな話がトワの耳にも届いていた。
一国の王の耳にその実力のほどが入るということは、それだけ注目されているということだ。
「ああ。それは間違いなくあるな。ここでのことも含めて、訓練の時間のほうが増えているくらいだからな」
Aランクに上がって収入が増えたこともあるため、最近の『烈火の狼』は訓練時間が増えていた。
考助たちが旅をしているときに、すぐに依頼を受けられたのは、そうした事情もあったりする。
「そうなのですか?」
「実践が大事なのはわかっているが、皆訓練で伸びるのがわかっているからな。なるべく両立させるようにしている」
「なるほど・・・・・・」
リクの答えに、トワが考え込むように顎に右手を持って行った。
そのトワの仕草に嫌な予感を覚えたリクは、警戒するような視線を向けた。
「・・・・・・兄上、なにを考えているんだ?」
「いえ。ちょっとばかり指名依頼でも出そうかと思いまして」
「やっぱり!」
ニッコリと笑って応えたトワに、リクは頭を抱えてそう言った。
国からの直接の依頼など良い予感などするはずがない。
「正式な依頼なので、金払いは良いですよ?」
「いや。金よりも命のほうが大事だろ・・・・・・」
ぼそりと呟かれたリクの言葉に、トワは再びニコリと笑った。
そのふたりのやり取りを見ていたフローリアは、苦笑しながらトワを見た。
「まあ、ほどほどにしておけよ?」
「勿論です。使いつぶすつもりはありませんよ。勿体ない」
「いや、そこは止めてほしかった」
釘を刺しつつ止めはしなかったフローリアの言葉に、トワとリクはそれぞれの立場でそう答えを返すのであった。
しばらくげんなりしていたリクは、話題を変えるついでに考助を見た。
「ところで、セイヤとシアのふたりは元気にしているか?」
「勿論。元気に里で走り回っているよ」
「ハハ。それはよかった」
考助とリクの会話に違和感を覚えたトワは、首を傾げながら呟いた。
「・・・・・・ん? ミクではなく、セイヤとシアですか?」
トワにとっては、先ほどの演奏が頭にこびりついているので、気にするとすればミクだと考えているのだ。
勿論、リクもミクの演奏は聞いたことがあるので、トワが言いたいことはわかっている。
と同時に、トワと両親の顔を見て、あることに気付いて説明することにした。
「兄上。ミクはミクで確かに凄いが、コレット母上の双子もとんでもないぞ?」
「というと?」
「これはコレット母上から直接聞いたことだが、才能だけでいえばあの双子のほうが上だそうだ」
誰と比べて上になるのかは言うまでもない。
リクの言葉に、トワは驚きで両目を見開いた。
ここまで感情を表に出すトワは珍しいので、リクは笑いながらさらに続ける。
「コレット母上は、世界樹の加護があるから実力で越えられることはないとも言っていたがな」
リクから得た信じられないような情報に、トワは驚きを示したまま考助とフローリアを交互に見た。
トワの視線に、考助は苦笑しながら頷いた。
「まあ、おおむね間違っていないかな」
「あくまでも才能だけの話だからな。この先どうなるかは、あくまでもあの子たち次第といったところだ。その辺は、ミクも同じだろう?」
考助の言葉に付け足すように、フローリアがそう言った。
三人から得た情報に、トワは大きくため息をついた。
「なんというか・・・・・・父上の子供たちの中で、なんだかんだで私かミアが一番平凡になりそうですね」
トワのその台詞に、何と答えたものかと三人が顔を見合わせる中、答えは意外なところから来た。
「なにを言っておる。お主も普通からみれば、十分才能の塊じゃろう?」
シュレインはそう言いながら、くつろぎスペースの入り口から考助たちのいるテーブルに向かってきた。
「あっ、シュレイン。来たんだ」
「うむ。せっかくだから混ぜてもらおうと思ってな。リクまでいるとは思わなかったが」
笑顔を見せて自分を見て来た考助に、シュレインは小さく頷いてからリクを見てそう言った。
「俺としては、兄上がいたことのほうが驚きだったんだが・・・・・・?」
「すねるな。ふたり揃ってここにいること自体珍しいのだから、混ざりたくなっても不思議ではないだろう?」
シュレインの言葉に、リクが「そういうことじゃないんだが」と小声で呟いていた。
リクは、最初の頃から特訓をしているシュレインに、頭が上がらなくなっていたりするのである。
自分が知っているよりも気安くなっているシュレインとリクを見ながら、トワがシュレインに視線を向けて聞いた。
「起こしてしまいましたか?」
「いや。リクが風呂に向かうのを見てな。そろそろいいかと思ってきただけだ」
元から起きていたと続けたシュレインに、トワが納得して頷く。
「そうでしたか」
「うむ。それよりも、そろそろそなたの自己評価の低さも改善しないといけないのでは?」
ラゼクアマミヤという国で立派に国王を務めているトワに言うような台詞ではないのだが、シュレインはジッとトワを見ながらそう言った。
トワは、逆に思ってもみなかったことを言われたような顔になって、シュレインを見た。
「自己評価が低い、ですか? そのようなことを言われたのは初めてですが?」
「ふむ。無自覚か。コウスケもフローリアもうかつには言えなかったから仕方ないのだろうが、な」
シュレインが考助とフローリアに視線を向けると、ふたりは揃って苦笑しながら頷いた。
長い付き合いで、シュレインがなにを言いたいのかを察して同意したのだ。
「そもそも、其方もミアも、生まれる前からミクたちと同じようなことを言われていたのじゃぞ? トワの場合は、人の上に立つために平均的になっているだけで、なにかに特化しようと思えばまだまだ伸ばせるじゃろ。退位するまでは、そんな能力は必要ないかもしれんがの」
「そ、そうなのですか」
初めて聞く事実に、トワもリクも目を見開いている。
別に考助もフローリアも隠していたわけではないが、結果的にそうなってしまっていた。
それこそいまシュレインが言った通りに、トワが王位を退位してからでも十分だと考えていたということもある。
少なくとも考助プラス嫁さんズのなかで、トワやミアの能力が他の子と比べて劣っているということを考えている者は、ひとりもいないのである。
なんとも意味深なタイトルですが、話の中身はいたっていままでどおりですw
トワの自己評価が低いというのは、今回が初出、でしょうか?




