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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第9部 第1章 塔のあれこれ(その18)
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(5)封印について

 ミクの身の安全については、一応いまのところ大丈夫ということで安心したトワだが、そもそも根本的な解決になっていないことに気付いた。

「それで、あの無差別な魅了の力は抑えられるのですか?」

 つまるところ問題なのは、ミクが演奏している最中に起こす魅了の力なのだ。

 それが抑えられないと、ミクはいつまでたっても人前で演奏できないことになる。

 あれだけ楽しそうにトワの前で演奏していたミクのことを思えば、いつまでも管理層と里の限られた場所だけでしか弾けないというのは、かわいそうに思えてくる。

 それだけではなく、単純に「勿体ない」ということもある。

 ミクの演奏は、魅了の力を差し引いても、年齢の割には技量が高い。

 

 トワの問いにフローリアが難しい顔になって腕を組んだ。

「それが、なかなか難しいところでな」

「というと? ピーチ母上のように、魅了の力を封じればいいのでは?」

 トワもピーチの魅了については話を聞いている。

 それどころか、一度興味本位で封印の力を解いてもらったことさえあった。

 その経験があったからこそ、今回のミクの力についてもすぐに思い当たることができたのだ。

 

 トワからの視線を受けて、ピーチは首を左右に振った。

「あれは、中々調整が難しいのですよ~。私のように全体的に力を抑える封印は、すでにいまのミクにも使っています。ミクの場合、問題なのは、音楽という部分に特化して力が伸びていることなのです」

 ピーチが魅了の力を封印できずに苦労していたのは、吸血鬼の血の影響があってその力が発現していたことによるものだった。

 ミクの場合に問題になっているのは、ミクの演奏の技量によって、魅了の力も伸びているということだ。

 日に日にストリープの演奏の技量が伸びているミクは、そのたびに封印をかけ直さないといけないような状態になっていて、それが幼い体にかなりの負担となるのだ。

「本来であれば、魅了の封印というのはそうそう頻繁に掛けるものではないですからね~。せいぜいが成長期に合わせてかけ直すくらいです。私の場合はさらに特殊でしたが」

「そういうことでしたか・・・・・・」

 魅了の力の封印などという特殊な事柄について、トワは詳しいというわけではない。

 それこそ専門家であるピーチの言葉に、納得したように頷いた。

 

 そして、さらに珍しいことに、ピーチの魅了を封印したミツキが付け加えて来た。

「何度もかけ直すのは体に負担になるということもあるけれど、それ以上に、そもそも封印というのは、その人が持つ本来の力を抑え込むことになるので、あまりいいことでないのよね」

「そうだったのですか~」

 その説明に、ピーチが驚いたように目を見開いてミツキを見ていた。

「そうなのよ。ピーチの場合は、むしろ力が強すぎるので、封印があったほうがいいのだけれどね」

「知りませんでした~」

 感心したように頷くピーチを見て苦笑していた考助が、ふと気づいたようにミツキを見た。

「あれ? だったら同じようにずっと封印をつけているサキュバスたちは?」

「彼らの場合は、だからこそ成長期に合わせて封印をかけ直しているのだと思うわ」

 体が成長に合わせて急激に変化するときに封印を施せば、それが当たり前のものとして体が受け入れる。

 ついでに成長期に合わせて拡大する魅了の力と同等の封印にすることができるので、一石二鳥なのだ。

「そういえば、大人になって魅了の力が増えても封印をもう一度かけ直すというのは聞いたことが無いですね~。そういった理由からだったのですか」

 本来はサキュバスに伝わってきたのだろうが、長い間に失伝してしまったのだ。

 里の長には伝えておこうと内心で決めながら、ピーチは何度か頷いた。

 

 ミツキは視線をピーチからトワに変えてからさらに続けた。

「話がそれてしまったわね。とにかく、そういうわけだからミクの封印はかけ直さない方がいいと思うわ。魅了の力が漏れるときはあくまでもストリープを弾いているときだけだから。それに、いまの状態で封印をかけ直すと、普通の成長まで阻害しかねないわよ」

「それはまた、難儀な話ですね。封印に関しては納得しました」

 ミツキの説明にトワも深く納得した。

 その残念そうな顔を見て、フローリアが笑いながらトワを見た。

「トワの場合は、ミクの演奏が頻繁に聴けなくて残念がっているのだろう?」

「勿論、それもあります」

 あっさりと自分の欲を白状したトワに、他の面々も笑みを浮かべた。

 

 トワがミクの魅了の力を抑えることにこだわったのは、自分がミクを頻繁に招いて、その演奏を聞きたかったからというのがあった。

 それをあっさりとフローリアに見抜かれてしまったわけだが、別に隠すつもりもなかったので素直に認めたのだ。

「仕方ありませんので、たまに管理層に来て楽しむことにします」

「それがいいだろうな。それよりも、私もトワに頼みたいことがあってな」

「なんでしょう?」

 話の流れからミクのことに関してだとわかったトワだが、どんなお願いかはわからずに首を傾げた。

「確か城には、セイレーンの奴隷がいただろう? いまも健在か?」

「それは勿論・・・・・・」

 いますよ、と続けようとしたトワは、フローリアがなにを言いたいのか察して頷いた。

「なるほど。一応帰ってから契約がどうなっているかは確認いたしますが、恐らく譲り渡すのは問題ないかと思います」

「そうか。それは助かる。ちょうどミアも忙しくなっていて、人手がほしかったところだからな」

 決まった仕事をする分にはメイドゴーレムで十分なのだが、やはり細かいところは人の手が必要になる。

 ミクの音楽の教師としても、ミアの生活のサポートをする面でも、そうした人材はほしいと思っていたのだ。

 このことに関しては、前もってフローリアが他の面々とも話していたことだ。

 

 管理層の中ではすでに話し合いが行われていたとわかったトワは、契約上問題なければセイレーンの譲渡の手続きを進めることを認めた。

「それで、だれが雇用主になるのですか?」

「それは当然コウスケだろう」

 あっさりとそう答えたフローリアに、考助が驚いた顔になった。

「えっ!? そうなの?」

 まえに話をしたときは、そこまで話をしていなかった。

 考助としては、フローリア辺りがなってもいいと考えていたのだ。

 そんな考助に、フローリアが苦笑しながら首を左右に振った。

「コウスケが主になる以外、コウヒとミツキが認めるわけがないだろう?」

「あ~。そういえば、そうでした」

 呆れ半分の視線でフローリアから見られた考助は、一瞬だけふたりに視線を向けて頷いた。

 

 ミアの護衛役であるミカゲを筆頭に、何人かは管理者以外が出入りするようになっている管理層だが、基本的には考助が認めた者しか出入りできないようになっている。

 最近では線引きが曖昧になってきているが、それでも一応「考助が認めている」という建前はある。

 勿論、フローリアを主としても考助が認めれば出入りはできるようになるのだが、コウヒとミツキは良い顔はしないだろう。

 フローリアとしては余計な波風を立ててまで奴隷を持ちたいとは思わない。

 それは、ほかの女性陣も同じだ。

 それであれば、セシルたちのように最初から考助を主にして契約したほうがいいとフローリアが考えてるのは当然だろう。

 もちろんこれは、フローリアだけではなく、他の面々も同じように考えていることである。

 ミアに塔の権限を譲渡したりしている考助だが、結局のところ管理層を仕切っているという点では、いまも昔も変わらないのであった。

ミクに絡めて丸々もう一話書いてしまいました。

できればセイヤとシアについても書きたかったのですが。

仕方ないので、次話に回します。


「トワを通して子供たちの成長について知ろう」コーナーです。

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