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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第9部 第1章 塔のあれこれ(その18)
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(4)ミクの演奏(トワのために)

 シュレインたちに連れてこられたミクは、管理層にいたトワを見てびっくりしていた。

「トワおにいちゃ?」

「やあ、ミク。久しぶりですね」

 トワやリクもきちんと同父の兄弟としての付き合いはしているが、ほとんどを管理層で過ごしているミアほど面識があるわけではない。

 それでもきちんと自分の顔を覚えて名前を呼んでくれたことに、トワはニッコリと微笑んでミクの頭を撫でた。

「今日は、ミクがストリープを演奏してくれるのですよね?」

「おにいちゃ、きいて、いく?」

「ああ。今日はこっちに泊ま・・・・・・寝ていきますからね。ミクが弾いてくれたら、ちゃんと聞きますよ」

 そう言いながら右手で自分の頬を撫でてきたトワに、ミクは恥ずかしさのためか、それとも興奮のためか、頬を上気させてから笑みを見せた。

「うん! ミク、ひく!」

「ハハハ。そうですか。楽しみにしておきますよ」

「ワーイ」

 トワが笑いながら頷くと、ミクは両手を万歳させながらピーチのもとへと駆け寄って行った。

 

 その様子を見ていたトワは、視線をミクに向けたまま、横にいたフローリアに小さな声で言った。

「さすがはピーチ母上の子ということでしょうか」

「・・・・・・む? どういうことだ?」

 トワの言葉に、フローリアはわずかに眉を寄せて聞いた。

 いまのふたりのやり取りで、トワがそんな感想を持つとは思っていなかったのだ。

「気付いていないのですか? 魅了される、とまではいかないですが、かなり惹きつけられましたよ?」

「む。いや、そうか。はっきり言えば気付いていなかったな。やはり近すぎると分かりにくいこともあるということか」

 トワの国王としての感覚を信頼しているフローリアは、難しい顔になって何度かうなずいた。

 フローリアも含めて他のメンバーは、ミクと長い間一緒に旅を続けて来たので、気付きにくかったのだ。

 さらにいえば、ストリープの演奏のせいだと思い込んでいた部分もある。

 もし、トワの言う通りであれば、もともとの魅了の力がかなり上がっている可能性もある。

「あとで念入りに確認してみるが・・・・・・とにかくいまの時点で知れたのは、助かった。ありがとう」

 フローリアの礼に、トワは首を左右に振った。

「礼を言われるようなことではありませんよ。私にとってもミクは大事な妹ですからね」

「ふふ。そうか。・・・・・・ああ、そうだ。いまの礼ではないが、一応言っておくぞ」

 そう意味不明な前置きをしたフローリアに、トワは今度は首を傾げた。

「ミクの演奏を聞いて、腰を抜かすなよ?」

「・・・・・・それほどですか?」

「うむ。私たちはもう聞きなれているからな。ある程度耐性ができているからいいが、初めて聞く者がどうなるか。それを見ることも含んでいるからな」

 フフフと笑いながら言ってきたフローリアに、トワは口元をヒクリとさせた。

「・・・・・・母上がそこまで言うということは、相当なのでしょうね。わかりました。前もって覚悟しておきます」

「そう言うことではないのだが・・・・・・まあ、いい。とにかく、見れば(・・・)わかることだからな」

 ストリープの演奏なのに、聞くではなく、敢えて見ると言ったフローリアに、トワはいぶかし気な表情を向けるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ミクが子供用の小さなストリープを抱えて、演奏用に用意された椅子に座る様は、見ている者たちにとっては微笑ましいものである。

 その姿は、まさしく小さな子供が一生懸命頑張りますといった緊張感にあふれていて、初めてその姿を見るトワの気持ちをほっこりとさせていた。

 ただし、トワが余裕を持っていられたのは、ミクがストリープを弾く体勢になって、最初の一音を出すまでだった。

 ミクがストリープから出す音は、いかにも初心者といった拙いものではなく、その才能を感じさせる伸びやかな音だ。

 ただ、その程度であれば、初めてミクの演奏を聞くトワをそこまで驚かせることはなかっただろう。

 あくまでもストリープに才能のある子供のひとり、といった感じで聞けていたはずだ。

 問題なのは、ミクがストリープから出す音そのものだけではなく、その音を含めた全体の雰囲気だった。

 トワが驚きの声を出さずにいられたのは、前もってフローリアの忠告を聞いていたからだ。

 もしそれが無ければ、少なくともうめき声を出すことは避けられなかっただろう。

 それほどまでに、ミクのストリープの演奏は、見る者を惹きつけるなにかがあった。

 そのなにか(・・・)がどんなものなのかとトワは考えていたが、それが最初の挨拶のときにミクから感じた惹きつけられる力だと気付いたのは、ミクのストリープの演奏が終わってからのことだった。

 

 演奏を終えたミクは、思いっきりやり切ったという表情でトワを見て来た。

 トワの心の動揺はひどかったが、そこは一国の王として顔には出さず、にっこりと微笑んだ。

「上手にできましたね。これからもいっぱいミクの演奏を聞かせてください」

「はいー!」

 トワからの評価に、ミクは嬉しそうな笑顔になってストリープを両手で持ち上げた。

 ミクなりの嬉しいという表現なのだ。

 そのあとは、トワと同じようにミクの演奏を聞いていた他のメンバーが、代わる代わるにミクを褒めていく。

 そのたびにミクは喜びを表現していたが、その様子を見ている限りでは、大人たちに褒められて喜ぶ子供でしかなかった。

 

 

 初めてトワの前で行うストリープの演奏に、全精力を傾けたせいなのか、ミクは全員から褒められて興奮が冷める頃には、うつらうつらとし始めた。

 大人たちがストリープについての話をしていたので、「頑張って聞く!」と言い張っていたのだが、結局その場で寝入ってしまった。

 ピーチは無理にミクを起こそうとはせずに、そのまま今晩は管理層に泊まらせることに決めた。

 管理層のピーチの部屋にあるベッドに寝かせたあとは、大人たちの時間である。

 ピーチが戻ってきたのを確認したトワは、早速とばかりにミクの演奏についての話を切り出した。

「それで、あれは一体なんなのでしょうか?」

 その一言でトワがどれだけ驚いたのかは、そこにいる全員が理解できた。

 直球でそう聞いてきたトワに、考助を始めとした面々は、どこか困ったような顔でお互いを見た。


 そして、ミクの演奏のことを一番詳しいミアが、一同を代表して答えた。

「お兄様。ミクの演奏については、私たちもよくわかっていないのです」

「そうだな。勿論、ピーチの魅了の力を引き継いでいるとか、セイレーンの先祖返りではないかとか、色々な理由は考えられているが、どれも正解だとは言い難い。案外、全部が合わさってあんなことになっているのでは、というのがいまの一番の見解だな」

 フローリアの追加の説明に、その場にいたトワ以外の全員が頷いた。

「そうですか、わかっていないのですか・・・・・・。しかし、あれを表に出すと非常に危険では?」

 危険物扱いされたミクは気の毒だが、トワの言葉は真実をついている。

 ミクの能力を知られれば、ミク本人にとっても色々な意味で危ないし、演奏を聞いた者たちにとっても、一瞬で惹かれるという意味で危ない。

「そうだ。だからいまは、周囲の大人たちが許可したところ以外では弾かないように、きつく言ってある。もともと魅了の力があるサキュバスは、そうした対応は慣れているからな」

「そうですね~。一族が持つ魅了の力とは違いますが、里の人たちも慣れたものです」

 フローリアとピーチの説明に、トワはとりあえずホッとした表情を見せた。

 あれほどの未知(?)の力を持っている子供だ。

 先ほど自分で言った通り、あくどいことを考える者に知られれば、どんな扱いになるかわかったものではない。

 勿論、最悪の事態になれば、トワも兄として全力で動くつもりはある。

 もっとも、管理層にいるメンバーは、わざわざトワが動かなくとも、ミクに手を出された場合は速攻で動くだろう。

 その場合トワが心配しなければならないのは、ミクに手を出すような馬鹿な真似をしたある意味で気の毒な面々だ。

 もっとも、普段は里か管理層くらいにしか出入りをしないミクが、おかしな輩に手を出されるようなことは、ほぼないといっていいのである。

パワーアップを果たしているミクでしたw

色々と説明するのに、第三者的な立場にいるトワはちょうどいいです。

もうちょっと細かく分析するので、次の話に続きます。

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