(1)フローリアの舞
考助がアスラの神域から戻った翌日のこと。
くつろぎスペースで休んでいたフローリアが、ふとなにかを思いついたかのような顔になってミアを見た。
「ミア。少し付き合ってもらえるか?」
「えっ! なにかありました?」
ビクリと警戒もあらわにするミアに、フローリアは苦笑を返す。
「いや、なにを警戒している。ただ単に、舞の伴奏がほしいだけだ」
舞と聞いてミアはあからさまにホッとした表情を浮かべた。
そのふたりのやり取りを見ていた考助が、クツクツと笑い声をあげた。
「フローリアの普段の行いのせいもあるだろうけれど、ミアも警戒しすぎだよ。そこまで頻繁におかしなことはしていないよね?」
考助が見ている限りでは、ミアをからかったりおちょくったりする頻度はそこまで多いというわけではない。
むしろ、考助への頻度が高いと思われる。
それでも考助がフローリアに対して悪感情を持っていないのは、いじめと違ってあくまでもコミュニケーションのひとつしてやっていることがわかっているためだ。
本気で考助がやめろといえば、フローリアもすぐに止めるだろう。
それはミアの場合も同じで、なんだかんだで彼女もまたフローリアのちょっとしたいたずらを受け入れているのだ。
考助の言葉に、ミアはばつの悪そうな顔を浮かべた。
「そ、そうですが・・・・・・いえ、もういいです。それよりも、ストリープでいいのですか?」
この件に関しては話を続けても勝ち目がないとわかっているミアは、早々に反論を諦めて本来の話題に話を戻した。
フローリアも特にそれ以上突っ込む気はなかったので、ミアのあからさまな話題転換に乗っかって頷いた。
「うむ。音さえあればなんでもいいぞ」
「わかりました。それじゃあ、少し準備をするから待っていてください。場所は練習場ですよね?」
「ああ、それでいい。私も準備があるからな」
フローリアの返事で、いまの格好のまま踊るのではなく、しっかりとした正装(?)で踊ると理解したミアは、目を丸くして驚いた。
神具の劔を得て以来、フローリアは舞の練習をすることは増えていたが、それは普段着のままで舞のための衣装を纏って踊ることはほとんどなかった。
それが、今回はきちんとした衣装で踊ると言ったのだから、ミアが驚くのも当然だった。
それはミアだけではなく、隣で話を聞いていた考助が同じように驚いていることでもわかる。
ふたりの反応を見て、フローリアは少しだけ笑みをこぼして続けた。
「なに。旅の間に、少しばかり触発されたからな。たまには本気で舞うのもいいのかと思っただけだ」
「なるほどね」
フローリアの返答に、考助は納得したように頷いた。
誰に触発されたのかは、言うまでもないだろう。
考助としてもフローリアの本気の舞はいつでも見たいので、それ以上は何も言わなかった。
そして、フローリアとミアが準備をするために各自の部屋に向かってから、視線をコウヒに向けて言った。
「コウヒ。済まないけれど、ピーチに話をしてきてもらえるかな?」
いままでの話を考助の傍で聞いていたコウヒは、すぐに頷いたうえで、さらに確認をしてきた。
「ピーチだけでよろしいですか?」
「勿論、コレットもだよ」
言外にコレットはどうするのかと問いかけてきたコウヒに、考助はすぐにそう付け足すのであった。
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着替えを終えて訓練室へと入ったフローリアは、部屋の中に揃っていた者たちを見て、驚きで目を見開いた。
食事のとき以外は滅多に揃わないメンバーが勢ぞろいしていたのだからその反応も当たり前といえた。
ついでにいえば、管理層にはいないはずの母子はもとより、なぜかセシルとアリサまで揃っていた。
セシルとアリサは、これからなにが始まるのかとわくわくした顔になっている。
「・・・・・・コウスケ」
誰のせいでこうなったのかは、考えるまでもない。
思わず非難の眼差しを向けたフローリアから、考助はついと視線を逸らした。
「いや、ほら。僕はコレットとピーチに知らせただけなんだけれどね。いつの間にかこれだけの人に伝わっていたんだよ」
「だったらなぜ、セシルやアリサまでいるのだ?」
相変わらず白い眼を向けたままのフローリアに、考助ではなく意外にも(?)コレットが右手を上げた。
「あ、ごめん。そのふたりには、私が伝えたわ」
たまたまコレットが百合之神社を訪ねていたところにコウヒが話をしに来て、そこからふたりに伝わったというのが真相だった。
来たら駄目だったのかという顔になっているふたりを見て、フローリアはため息をついた。
「まあ、そういうことなら仕方ないか」
諦め顔でそう言ったフローリアを見て、慣れている他の面々は、内心でニンマリと笑みを浮かべた。
折角のフローリアの舞を見ることができるのだから、できるだけ大勢に見てもらいたいと思っているのは、考助だけではないのである。
フローリアが部屋の中央に向かって準備を整えている間に、ストリープを持ったミアがミクのところに近寄っていった。
「ミク、今回は私の演奏じゃなく、母上――フローリア母上の舞をしっかりと見ていなさい」
「え!? あ、はいー」
ミアの言葉に一瞬だけ不満げな表情を浮かべたミクだったが、そのすぐあとには素直に頷いた。
ミアの言う通りに練習していれば、自分の腕がどんどん上達していくのがわかっているためだ。
「いい? どんな動きでも少しも見逃さないようにするのですよ?」
「はい」
ミアがこんなことを言い出したのには、きちんとわけがある。
曲に合わせて踊る舞を見れば、演奏者だけではなく相手がいる状態での演奏をする参考にもなるし、なによりも、このままミクの腕が上がって行けば、フローリアの舞の演奏に合わせることができる演奏家として期待しているのだ。
少なくとも、いまの自分の演奏が、フローリアの舞とつり合いが取れているとは、ミアはまったく考えていない。
優れたフローリアの舞に合わせた演奏をミクが弾けるようになるのを、ミアが誰よりも楽しみにしているのだ。
そんなやり取りを経てから、準備を終えたフローリアがミアの伴奏に合わせて舞を踊り始めた。
今回の舞は、普段フローリアが踊っている劔を持って踊る演武ではなく、音に合わせて踊る舞だった。
しかもしっかりとしたドレスを着込んで踊る舞は、普段と違って優美そのものといっていい。
いつもの演武は力強さを前面に出した舞になっているのだが、今回の舞は柔らかさが主体になっている。
普段のフローリアの舞を見ている考助たちだからこそ、その違いは大きく感じ取ることができた。
そして、初めてフローリアの舞を見ることになった子供たちは、真剣な表情でフローリアを見ていた。
特に、ミアから指導を受けたミクは、じっとその舞を観察していた。
表情からはなにを考えているのかはわからなかったが、なにか感じるものがあったことだけは見て取ることができた。
一方、子供たちも含めてフローリアの舞を見ていた考助は、踊りの終盤になってとある変化に気が付いた。
「あー。そうなるのか」
思わず小声で呟いてしまったその言葉は、隣に立っていたシュレインとシルヴィアにだけ届いた。
疑問の表情を浮かべたふたりに、考助はごめんという仕草を見せてから、
「舞が終わったらわかるから、最後まで見よう」
それだけを小声で言った。
考助の様子を見れば、なにか問題が発生するわけでもなさそうだと判断したシュレインとシルヴィアは、それぞれ小さく頷いててもう一度視線をフローリアへと向けた。
そして、考助が気付いた変化が起こるのは、フローリアが舞いを終えた直後のことなのであった。
お久しぶりにフローリアの舞でした。
旅の最中にミクの練習を聞くことで触発されています。
そして、最後に起こった変化は?(次話ですw)




