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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
終章 神の領域(神域)
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(1)想定外の事態

 北の街で一泊した子供たちは、コレット、ピーチとともに里へと帰った。

 考助はここでやることがあるので一緒には戻れないときちんと言い含めてある。

 そして、子供たちを見送った考助たちは、その足で北の街の郊外へと向かった。

 場所は勿論、一番目に儀式を行ったところだ。

「・・・・・・うーん。ごく普通の平原だけれど、こうやって見ると感慨深いな」

 儀式の準備を始める前に、辺りを見回した考助がそうつぶやいた。

 その考助の呟きを聞いたシルヴィアがニッコリと笑って、

「長い旅の始まりでしたからね」

「そうだね。それに、考えてみれば、セントラル大陸を隅々まで回ったのって、今回が初めてだったし」

 考助がこの世界にきて既に二十年以上たつが、今回のようにセントラル大陸をぐるりと一周するようなことは一度もなかった。

 アマミヤの塔を攻略する以前、コウヒやミツキと一緒に冒険者をやっていたころに、いつか世界中を見て回れたらと考えていたこともあったが、ようやくその一部が達成できた感じだった。

 また、だからこそ、考助の胸にもいろいろと思い浮かぶものがあるのだ。

 

 そんな考助の元に、周囲の警戒をしていたシュレインとフローリアが近寄ってきた。

 考助とシルヴィアの会話をしっかりと聞いていたのか、ふたりとも笑みを浮かべている。

「なにか、コウスケがそんなことを言うと、年寄り臭いぞ?」

「そうじゃの。世界中を回ることなど、これからいくらでもできるのに、これが最後のように言うでない」

 フローリアの言葉に同意するようにシュレインが付け加えるのを聞いて、考助はガクリと項垂れた。

「と、年寄りって・・・・・・。いや、まあ、確かに聞きようによっては、そう聞こえるかもしれないけれどね」

 そう言いながら落ちこむ考助に、シルヴィアがフォローを入れようとした瞬間、非常に珍しい事態が起こった。

「なにをおっしゃいますか。主様はいつまでたっても素敵です」

「そうね。少なくとも外見に関しては、当分今のままでしょう?」

 こういうときはほとんど口を挟んでこないはずのコウヒとミツキが口をはさんできたのだ。

 彼女たちも五カ月にわたってセントラル大陸を回って、これからひとつの儀式の完成を見るということに、なにかしら感じるところがあるのだ。

 

 意外な伏兵に驚いたような、慌てたような、ばつの悪そうな複雑な表情を浮かべたシュレインとフローリアが、

「い、いや。私もコウスケが、実際に年寄りなどとは考えていないからな?」

「わ、吾もじゃ!」

 ワタワタとしている二人を見て、口元を抑えながらシルヴィアがふたりのフォローに回る。

「大丈夫ですわ。コウスケさんだって、本気でふたりがそんなことを考えているなんて思っていませんから」

 そうですよね、と視線を向けて来たシルヴィアに、考助も同じように口元を抑えて頷く。

「もちろんだよ。・・・・・・さて、いつまでもこんな話をしていても仕方ないから、さっさと始めようか」

 ホッとした表情を浮かべたシュレインとフローリアを見ながら考助がそう言うと、他の面々はいままでの儀式と同じように、考助の傍から離れていった。

 

 

 女性陣が十分な距離を離れたのを確認した考助は、儀式を行うための準備を始めた。

 今回は、いままでの儀式のように神獣や神具を置くこともない。

 魔法陣を用意したりすることもないので、本当に考助の身一つで始められるのだ。

 いつまでももったいぶっても仕方ないと考えた考助は、すぐに祝詞を唱え始めた。

 だが、考助は、その祝詞を二言三言唱えただけで、それまで上げていた右手を下げてしまった。

 儀式のために必要だったためではない。

 それどころか、むしろ予想外の事態が発生したために、儀式を中断したのだ。

 考助は、思ってもみなかった事態に、思わず空を見上げてしまった。

 

 さすがに考助のそんな姿を見れば、儀式が上手くいかなかったことは他の面々にもすぐにわかった。

 お互いに顔を見合わせたあとに、慌てて考助のいる場所に近付いて行く。

「どうしたのじゃ、コウスケ!?」

「なにか不測の事態でもあったか?」

「コウスケさん!」

 慌てた様子で駆け寄ってきた女性陣に、考助は苦笑をしながら首を左右に振った。

「あ~、いや、うん。儀式が失敗したわけじゃないんだけれどね。・・・・・・フローリアが一番近いかな?」

「私が・・・・・・? 不測の事態ということか?」

「そう、それ。ちょっと予想外というか、読み間違えたことがでてしまってね。ちょっと・・・・・・というか、かなり? まずいかも?」

 珍しく不穏な言葉を述べた考助に、他の面々は息を呑んだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そもそも今回の儀式は、セントラル大陸を囲むように六芒星を作ることにある。

 そのために考助は、六芒星の頂点になる六か所を結ぶようにわざわざ陸路を使って大陸を一周していた。

 ただし、各場所で行った儀式では、正確な六芒星が描けるわけではない。

 儀式のたびにそれぞれの場所に自動で調整するようにしていた。

 当然、最後の儀式もそのつもりでいたのだが、いまの結果からそれでは駄目だということがわかったのである。

 

 考助の説明を聞いて、フローリアが一度だけため息をついた。

 考助がなにを懸念して「まずい」と言ったのかが理解できたのだ。

「つまりなにか? ようするに、最後の儀式だけは現地でやらないと駄目だということなのだな?」

「あー、うん。まあ、そういうことだね」

 ここでいう現地というのは、六芒星の上に位置する頂点になる。

 もっと正確にいえば、今回の儀式では当然、北の街から離れた北の海になるということだ。

 これまでの経験からいっても、陸路(この場合は海路)を使って行かないといけないということは、船を見つけてその場所まで向かわないといけないということになる。

 さらにいえば、あまり長い時間同じ場所にとどまることもできないので、あと一晩で現地まで乗せてくれる船を見つけなければならないということだ。

 

 船が必要ということを理解した女性陣の反応は、ふたつにわれた。

 というよりも、フローリアを除いて他のメンバーは、どうやってたった一晩で乗る船を探すのかという困難さに表情を険しくしていた。

 ただひとり、フローリアだけは、考助を含めたその他の面々の表情を見て、もう一度ため息をついていた。

「やはりというか、皆も気付いていないのだな?」

「そう言い出すということは、フローリアには船を用意する当てがあるということじゃの?」

 フローリアの顔からそのことに気付いていたシュレインが、そう問いかけた。

「え? 当てがあるの!?」

 考助が驚いてそう問いかけると、フローリアは頷き、視線をシルヴィアへと向けた。

「ある。というか、コウスケはともかく、シルヴィアが思いついていないのは、意外だったな。・・・・・・いや、ある意味仕方ないのか」

「えっ!?」

 まったく思い当たりのないシルヴィアが驚いた顔をフローリアへと向けた。

「長い間、シルヴィアが私とともに現場の運営に携わっていたといっても、あくまでも宗教に限ってのことだからか」

 フローリアがそういうと、さすがに他の面々もハッとした表情になった。

 

 他の面々の顔を見て気付いたかという顔になったフローリアが、ひとつ頷いてから続けた。

「そうだ。この際だから国に頼めばいいだろう」

「それは確かに・・・・・・いや、だけど、本当にいいのかな?」

 こんなときに力を借りるといろいろと面倒なことになるのではと懸念する考助を見て、フローリアは首を左右に振った。

「心配いらん。というよりも、むしろ。トワは喜んで力を貸してくれると思うぞ? 今回の件のそもそものきっかけを忘れたのか?」

 セントラル大陸にちょっかいを出してくる他国に対して、塔の制御の一部をミアに渡して、考助はその代わりに自分の神域を作るというのがそもそも事の起こりだった。

 それを考えれば、トワの力を借りて船を用意してもらうことくらいなんでもないというのがフローリアの考えだった。

 さらにいえば、下手に民間の船を借りて考助の儀式を見られるほうが、ラゼクアマミヤにとっても後々まずいことになりかねない。

 それをするくらいなら、進んで船の一隻や二隻くらい貸し出すだろうと、フローリアはその場にいる者たちに言い放つのであった。

すんなりいくかと思いきや、最後の最後で予想外の事態に!w

このあと、トワの力を借りて、事なきをえます。

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