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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 西~北方面
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(12)親から子へ

 初めに北の街の郊外で儀式を行ってから約五カ月。

 考助たちはついに最終目的地である北の街に帰ってきた。

「おー。やっと着いたな」

「おおきなまちー」

「きたのまちー」

 北の街を見て感慨深げな考助に、セイヤとシアがキャッキャと浮かれながら万歳していた。

 子供たちは考助がやっている儀式のことは詳しく知らないが、それでも長い間旅をしていたことは実感を伴って知っている。

 勿論それは子供たちだけではなく、ずっと一緒に旅をしてきた女性陣も同じだ。

 

 シュレインが考助に近付いてきて、

「ようやく、といったところじゃの」

 といえば、さらにシルヴィアが続けるように祝福をした。

「コウスケさん、おめでとうございます」

「まだ儀式は終わったわけではないから、少し気が早いと思うぞ?」

 フローリアは、シルヴィアに向かってそう言いながらも笑顔を見せている。

 この三人は、最初からずっと一緒に旅をしてきているので、その苦労も一緒に経験してきている。

 だからこそ、その喜びもひとしおなのだ。

 

 勿論、コレットやピーチも喜ばしいのは同じだ。

 ただ、子供たちのこともあるので、気になることもある。

「北の街は見えたわけですが、この先はどうするのですか~?」

 そのピーチの問いかけに、考助はもともと考えていた予定を話した。

「ああ。今日はこのまま北の街に入って休むよ。折角だから子供たちと観光でもしようか」

 もともとその日のうちに儀式を終えるつもりは、考助にはなかった。

 一晩くらいなら同じ場所にとどまっても問題ないうえに、せっかく最後の儀式なので、万全を期して行いたいのだ。

 さらに付け加えれば、一晩挟んで子供たちを里に帰してからいないところで儀式を行いたいということもある。

 

 そんな考助の考えを読んだコレットとピーチが頷きながら同意した。

「そうね。その方がいいと思うわ」

「同感です~」

 三人の母親が同意したことで、子供たちが今後どうするかも決まった。

「そうか。では、私たちはこれまでの旅の後始末でもしておくか」

「そうじゃの」

 これまでの旅でいろいろと買い込んだものを整理しなくてはいけない。

 シュレインたちは、その作業をすることになった。

 慣れた様子でてきぱきと話を決めていけるのは、これまでの旅の成果である。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 北の街での宿を決めた考助たちは、さっそく行動を開始した。

 といっても、考助と母親ふたりに子供たちは、まったりと街で観光だ。

「ジュンレイシャがいっぱいー」

 北の玄関口である港で、船から降りてくる巡礼者に気付いたミクが、考助の袖口を引っ張りながらそう言ってきた。

 おっとりとしていながらも、しっかりと見るべきところを見ているのは、やはり母親ピーチの血を引いているからだろうか、などと考助は考えている。

「うん。そうだね。・・・・・・あまりじろじろ見たらだめだよ?」

「はーい」

 考助の言葉に素直に頷いたミクの腕には、しっかりと子供用のストリープが抱かれていた。

 

 結局ミクは、旅の間中ストリープを片時も手放すことはなかった。

 ミアのいうことをしっかりと聞いて基礎的な練習をし続けていた。

 そのミアは、とっくに塔へと戻っている。

 自分が離れてもミクであれば寄り道をしたりしないだろうと、転移門がある街で課題を与える以外は、旅には同行していなかった。

 塔の管理で籠っているミアを表に出そうという考助とフローリアの親心は、半分だけ成功したということになる。

 ちなみに、東の街で買った風鈴は、いまでもミクに大事にされている。

 ストリープで満足しているかと思いきや、それはそれ、これはこれ、ということらしい。

 

 子供がストリープを持っていることが珍しいのか、街の観光をしている間、ミクは時折ちらちらと視線を向けられている。

 もっともその視線は、微笑ましいものを見るものだったり、応援するようなもので、比較的好意的なものが多かったりするので、考助やピーチは放置していた。

 それら以外にもよこしまな視線も混ざっていたりしているが、そうした視線も考助たちはあえて無視している。

 勿論、それらの視線に慣れさせたり、しっかりと気付かせたりするためだ。

 訓練の一種だが、さすがにこれに関しては、まだまだ要訓練だとピーチは宣っている。

 さらに、当たり前といえば当たり前だが、一緒に行動しているセイヤとシアも同じような視線を受けている。

 コレットがこれを放置しているのは、自分自身が里を出てから人の視線に苦労してきた経験と、ピーチの教育方針に賛同したためである。

 子供のうちから慣れさせておけば、自分のようにいらぬ苦労を背負い込んだりしないだろうという親心が、いまのふたりに対する周囲の視線というわけだ。

 

 そんなコレットの親心がわかっているのかいないのか、セイヤとシアは周囲からの視線を全く気にすることなく、北の街の観光を楽しんでいる。

「・・・・・・やっぱりこの辺りの図太さは、コウスケの血を引いているお陰かしらね」

「えー? それはちょっと違う気がするけれど?」

 聞き逃せないコレットの言葉に、考助は疑問を呈する。

 ただし、自分と会う前のコレットの様子をシルヴィアから聞いている考助としては、あまり強くは反論できない。

「うーん、それじゃあまあ、ピーチのお陰ということにしておこうよ」

「そうね。そうしましょうか」

「あれあれ~? なにかとばっちりのような気がするのですが~?」

 考助とコレットが勝手にそう納得し合っていると、ピーチが異議ありと言わんばかりに口を挟んできた。

 

 そんなピーチに対して、考助コレットは互いに顔を見合わせて、

「いや、だってねえ」

「明らかにこうしたことには慣れているわよね。ピーチは」

「それは否定しませんが、どちらかといえばこれは種族的な特性ですよ~? というか、むしろエルフにこうしたノウハウが無い方が問題だと思います。やっぱり、種族全体で森に籠っているからでしょうかね~」

 唐突にそんなことを言い出したピーチに、考助とコレットは、今度は違った意味で顔を見合わせた。

 そして、(スピリット)エルフであるコレットが、小首を傾げてピーチに聞いた。

「それってどういうこと?」

「ええと、ですね~。私たちサキュバスもエルフも、ヒューマンから見れば美形として知られていますよね?」

 そのピーチの前置きに、考助とコレットは頷いた。

 

 昔から「森の麗人」と言われているエルフはもとより、サキュバスもヒューマンを魅了する種族として、その美麗さは有名である。

 過去には性に関しても積極的だと考えられてきたサキュバスは、ヒューマンに限らず様々な種族と交流を行ってきている。

 そのため、必然的に身を守る術を種族全体で身に着けて行っていたのだ。

 ピーチが以前から言っている「勘の良さ」もそのうちのひとつだ。

 サキュバスは、そんな特殊能力だけではなく、しっかりとした実践能力も代々受け継いでいっている。

 そのひとつが、いまミクたちに行っている訓練なのだ。

 他方、昔から森に籠って他種族と積極的な交流を行ってこなかったエルフには、そうした類のノウハウはほとんど存在しない。

 他種族から見れば美形であっても、ひとつの種族だけでまとまっていれば、それが当たり前になってしまうので、そうなるのは当然と言えるのだ。

 

 珍しく饒舌に説明をしていたピーチに、考助とコレットは感心したように頷いている。

「なるほどねえ。そういうことが言いたかったわけか」

「ひとつの種族だけでまとまっていれば、色々な面倒は無くなるけれど、他と交流するうえでの諸々が無くなってしまうということかな」

「そういうことでしょうね~。・・・・・・こら、ミク! 勝手にこんなところで弾いてはだめですよ!」

 綺麗にまとまると考えて相槌を打ったコレットだったが、見事にミクの突拍子もない行動に阻まれてしまった。

 慌ててミクの行動を止めに入ったピーチを見て、考助とコレットは再度顔を見合わせて、お互いに小さく噴き出すのであった。

珍しく饒舌なピーチさんでしたw


これで長かった考助たちのセントラル大陸の旅は終わりになります。

後は最後の儀式を残すだけ!

・・・・・・なのですが、第4章はこれで終わりとなります。

儀式を含めた残りの話は終章として書くことになります。

序章と同じように何話か書いて終わりになる・・・・・・はずです?

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