(11)子供たちの成長?
二か所目の精霊の警戒色を発しているところを見つけた翌日。
早速とばかりに確認しに行ったコレットは、ちょうど考助たちが朝食の準備を終える頃に戻ってきた。
そして、開口一番、
「予想通りだったわよ」
「うーん。やっぱりそうなったか。ということは、このあとも予定通り?」
「うん。それがいいわね」
すでに精霊の反応が同じだった場合にどうするかは、昨夜のうちに話し合っている。
一か所目で確認しているように、周辺モンスターに変な影響を与えるわけではないので、この場所にはコレットとコウヒが残れば十分なので、残りのメンバーは、このまま旅を続けることになっている。
「そう。それじゃあ、あとはよろしく、ってところかな?」
「任された!」
軽い感じで言ってきた考助に、コレットもまたわざとらしく胸をポンと叩いて応じた。
コレットとコウヒがこの場所で残って確認することは、一か所目と同じ現象が起こるかどうかだけだ。
そんなに手間がかかるわけではない。
逆に、精霊たちが一か所目とまったく違った様子を見せると厄介なことになる。
もっともコレットの弁では、十中八九はそんなことは起こらないと言っているのだが。
とにかく、コレットとコウヒはこの場所に最低一晩は野営して、精霊たちの様子を観察することになる。
どういう結果になるかはまだ不明だが、少なくともコレットは同じようになると確信しているようだった。
朝食を終えて、いざ出発しようかとなったところで、ちょっとしたハプニングが起こった。
またコレットと別れて旅をするということを聞いたセイヤとシアが、愚図りだしたのだ。
子供らしいわがままだったが、それも長くは続かなかった。
なにしろ子育て中のふたりに加えて、すでに(一度目の?)子育てを終えたふたりがいるのだ。
こういったことはお手の物といわんばかりに、あっさりと宥めていた。
途中で、わがままを言ったら旅には連れて行かないという約束も持ち出したりして宥めていたが、勿論それを言ったコレットも本気で言ったわけではない。
なにしろ、子供たちが旅を途中で引き上げるとなると、コレットも戻らなくてはならなくなるのだ。
そうすると、精霊の調査ができなくなってしまう。
結局、子供たちは素直に宥められていたので、そんなことにはならずに済んだのだが。
とにかく、その珍しい事態は起こったものの、考助たちの旅は予定通り進められるのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
その日の夜。
予定通りに次の村に入った考助は、コレットからの報告を受けていた。
『・・・・・・やっぱり予想は外れず?』
『そうね。まあ、ここまできて、前と違った反応を示されたほうが困るけれど』
もし精霊たちが違った反応を示した場合は、さらに詳しい調査が必要になる。
コレットとしても、子供たちのことがあるので、できるだけ早く合流したかったのだ。
勿論、精霊の様子がおかしければ、長期間調査をすることも視野に入れていたのだが、杞憂に終わったということだ。
コレットと同じようなことで安堵した考助は、素直にそれを口にすることにした。
『そうか。それはよかったよ』
『あら。やっぱり愚図っていた?』
『うーん。いや、表には見せないようにはしていたけれど、寂しそうにはしていたかな?』
わがままを言えば里に戻されると言い含められているために、セイヤもシアも口に出して何かを言ったりはしていなかったが、やはりその態度は寂しそうにしていた。
皆、そのことには気づいてはいたが、敢えて気付かないふりを続けていた。
コレットが戻ってこられない以上、どうしようもないこともあるということを子供たちに教えるいい機会だと考えてのことだ。
子供たちの様子が目に浮かぶのか、コレットも苦笑気味に返してきた。
『まあ、寂しいのは私も同じだけれどね。仕方ないわよね』
『おや。珍しい』
弱音(?)を吐くのはらしくないと思った考助がそういうと、コレットは即座に答えを返してきた。
『あら。私だってコウスケと一緒に過ごしたいわよ』
『そこは、子供たちと、じゃないの?』
『それは勿論だけれどね。でも、子供たちはいずれ私の手を離れるもの。いつまでも一緒にいるのは、コウスケよ』
考助は、コレットからなんとも面映ゆいことをいわれて、なんとなく照れくさくなる。
『それは、まあ、そうだけれど・・・・・・末永くよろしく?』
『なんでそこで疑問形になるのよ』
笑いをこらえた感じで返してきたコレットに、考助も小さく笑った。
勿論、多分に照れ隠しが含まれていたりする。
そんな個人的なやり取りを挟みつつ、話題は精霊の様子について戻っていた。
『とにかく、明日の昼にはそっちと合流できると思うわ』
『あれ? 朝じゃなくて昼なんだ』
考助がそう言ったのは、朝に一度確認すれば十分と考えていたためだ。
『私もそのつもりだったのだけれどね。一応そこまで様子を見た方がいいと思ってね』
『なにか違いでも見つかった?』
『そういうわけじゃないわよ。本当に、あくまでも念のためよ』
『なるほどね。まあ、その辺のさじ加減は任せるよ』
コレットの口調が軽い感じだったので、実際にその通りなのだろうと判断した考助はそう返した。
精霊を見ることができない考助では、どこを見て判断すればいいのかもわからない。
これまでの経験で、コレットに任せたほうがいいと身に染みているのである。
コレットが昼まで待ったほうがいいと考えたのであれば、それに従うのが吉なのだ。
さらにいえば、昼まで残るとコレットが判断したのには、精霊のこと以外にも子供たちのことも関係していることもわかっている。
あえて、長い時間離れることで、そうしたことに慣らしていくつもりなのだ。
荒療治と言えなくもないが、必要なことだろうと考助もわかっていてあえてなにも言わなかった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
結局コレットは、考助に話した通り翌日の昼に戻ってきた。
結果としては、二か所目も一か所目と同じように、精霊たちの存在の力が増した状態で安定していたということだった。
さらに、今回は前回と違ってもう少し詳しく調べられたようで、精霊の数自体はさほど増えてはいないということがわかった。
精霊の力が増えているように感じたのは、あくまでも存在の力が増したためだ。
精霊の活性化が森にどんな変化をもたらすのかはコレットにもわからないということだが、少なくとも悪い変化にはならないことはわかっている。
そもそもエルフが森の維持に努めるのには、その森に棲む精霊を活性化させて森を元気にするためなのだ。
それから考えれば、今回の件も問題ないとコレットは判断するのは間違いではないのだ。
コレットが戻ったあとは、セイヤとシアも元気になって、旅も順調に進んでいった。
その旅の間に、もうひとつ同じように精霊が活性化するところを見つけたが、変化自体はこれまでと変わらなかったので二か所目と同じように経過観察だけで終わった。
そのときには、セイヤとシアもコレットが長時間離れることに慣れたようで、愚図るようなことはしなかった。
旅の間コレットは、三か所見つけた活性化した精霊を見るために何度か離れていたが、それはごく短時間で終わっている。
特に大きな変化が起こることもなかったので、確認しにいくだけでほとんど時間はかかっていなかったのだ。
結局それは、考助たちが旅の終着点につくまで続くこととなった。
そしてついに、考助たちは旅の終わりである北の街に入ることとなったのである。
子供たちのわがままについては、書くかどうか迷いましたが、せっかくなので書くことにしました。
こういう機会でもないと書くこともないでしょうから。




