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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 南~西方面
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(8)セイヤの疑問

 マウントドッグと対峙したミクは、さすがに疲れたのか、ストリープの練習はあまりせずに横になった。

 戻ってきてすぐのときは、ミクは練習するつもりでストリープを持っていたのだが、うとうとし始めたところで周囲が止めたのである。

 普段なら反発するミクもこのときばかりは、すぐにストリープを手放したというわけだ。

 自走式馬車のなかからミクの様子を見ていたセイヤとシアは、ミクの昼寝を邪魔しないように、御者台に座っていた。

 もっともミクの寝ている様子を見る限りでは、多少騒いでも起きたりはしないだろうなと周囲の大人たちは考えている。

 勿論、わざわざそんなことは口にしたりはせずに、ゆったりと会話をしていた。

 

 御者台に座っているセイヤとシアは、考助、コレットと一緒に話をしていた。

「風が気持ちいいー」

 自走式馬車の室内は、窓を開けない限りは、一切風は入ってこないが、御者台は直接風が当たるようになっている。

 いまは中でミクが寝ているために、多少スピードを落として走っているために、子供にとってもちょうどいい風になっているのである。

 ちなみに、スピードを出しているときは風が強く当たるのだが、大人たちは自前で魔法を使ってくる風を弱めていたりする。

「危ないから、あまり身を乗り出したら駄目だよ」

「わかってるー」

 何度目かの考助からの同じ注意に、シアが律儀に返事をしてきた。

 セイヤとシアにしてみれば、すでに飽きるくらいに聞いているのだが、子供を相手にするときはそれくらいしないと突発的な行動をしたりする。

 言い過ぎるくらいがいいのだと、考助もわかっていてやっているのである。

 

 そんな考助の期待に応えて(?)、セイヤとシアは身を乗り出したりすることなく、流れて行く風景に目を輝かせている。

「きらきらー」

「そうだねー、きらきらだねー」

 セイヤとシアは、そう言いながら両手をいろいろなところに伸ばして、何かを捕まえようとしていた。

 考助にはなにも見えていないが、ふたりがなにをしようとしているのかはわかった。

「・・・・・・精霊って捕まえても大丈夫なの?」

 自分で捕まえようなんて考えたこともない考助は、目を丸くしながらコレットに聞いた。

「そもそも人に寄って来る精霊は、好んできているからね。大丈夫だと思うわよ? それに、そもそも精霊は人の手で潰れたりはしないでしょうし」

 コレットは考助の問いかけに、苦笑しながら答える。

 一瞬手を握られて潰れる精霊を想像しようとした考助は、途中でプッと噴き出した。

「言われてみれば確かにそうだね」

 小さな虫のように人の手で握りつぶされるような精霊など想像できない。

 

 考助の言葉にビクッとした顔で見ていたセイヤとシアは、ホッとした顔になっていた。

「せいれいさん、だいじょうぶー?」

「つぶれないー?」

 考助は、握っていた手をぱっと開いて、そう聞いてきたふたりの頭を同時に撫でた。

「大丈夫だって」

「そうそう。心配する必要はないわよ」

 考助と同じようにセイヤとシアの頭を撫でたコレットは、さらに続けた。

「精霊はちゃんとした体があるわけじゃないからね。潰れることはないわよ。むしろ、そうやって遊んであげた方がいいんじゃないかな?」

 妖精のようにきちんとした体があるのであれば、物理的に握りつぶされるということもあるのだが、精霊にはそうした肉体はない。

 そのため、実は考助の心配は、まったくの杞憂というものだ。

 

 セイヤとシアは、コレットの言葉に目をぱちくりとさせた。

「せいれいとあそぶのー?」

「どうやってー?」

 興味津々な様子で聞いてきたふたりに、コレットは笑いながら教えてあげる。

「別に決まった遊び方があるわけじゃないわよ。精霊たちは、好きな人に近付くだけで十分楽しんでいるのだから、気付いてあげることが重要なのよ」

 要するにコレットは、光として精霊の姿が見えているセイヤとシアは、その彼ら(?)に構うだけで十分だと言っているのである。

「かまうー?」

「いっぱいよけるよー?」

 手をひらひらと動かしながらそう言ったシアに、コレットがさらに笑った。

「でも、そのあとにまた近寄ってくるでしょう? それでいいのよ」

 振り回している腕から逃げてもまた近寄ってきていることは、好かれている証拠なのだ。

 ただ、そこまでいまの子供たちに説明しても理解できるかはわからないので、コレットはできるだけ簡単に説明する。

 

 それでもまだ首を傾げるふたりに、今度は考助が笑いながら頭を撫でた。

「別に難しく考えることはないよ。ふたりが楽しいと思えることは、精霊だって楽しんでくれるはずだから」

 考助の言葉は、聞く人が聞けば暴論と言えるが、勿論ふたりが精霊に嫌われるようなことはしないと考えているからこその言葉だ。

 コレットも頷きながらそれに追随した。

「そうね。セイヤもシアも、好きにしていればいいのよ」

「わかったー」

「はーい」

 考助とコレットから楽しみながら好きにすればいいと言われたセイヤとシアは、両手を上げながら大きく頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 しばらくの間、考助たちが御者台でいろいろな話をしていると、車内からストリープの音が聞こえて来た。

「お。起きたかな?」

 誰が弾いているのかは言うまでもない。

 聞こえてくるのは、音のつながりはなく曲を弾いているわけではない。

 ただ、鳴る音を確認するように一音ずつ鳴らしているだけだった。

 朝、起きてきてすぐのミクは、目を覚ますためなのか、よくこうして弾いているのである。

 

 少しの間、中から聞こえてくる音に聞き入っていたセイヤがポツリと聞いてきた。

「ととさま。ボクもひけるようになったほうがいいー?」

 考助にとっては突然すぎるセイヤの言葉に、聞かれた考助は目をぱちくりとさせた。

 ただ、なぜセイヤがこんなことを言い出してきたのかは、予想することができる。

 ミクがストリープを引き出してから、周囲の大人たちが色々な意味で応援するようになっているのを見てきているのだ。

 自分もそうするべきなのかと考えるのは、まっとうな思考と言えた。

「うーん。どうだろうね。セイヤが自分で弾きたいと思うのであれば、応援するよ? でも、絶対に弾かなきゃダメというわけじゃないよ」

 考助がセイヤの頭をなでながらそう言うと、当の本人は目を大きく見開いて考助を見て来た。

「そうなのー?」

「そうなんだよ。ミクはストリープが好きだから、いっぱい弾いているんだ。セイヤはどうかな?」

 考助は、シアも耳を傾けているのを感じながら、セイヤに向かってそう言った。

 

 考助の言葉に、しばらく考える様子を見せていたセイヤは、やがて顔を上げて答えた。

「・・・・・・ミクがひいているからきになるだけ、かなー?」

「そっか。だったら無理にセイヤが弾けるようになる必要はないんじゃないかな?」

 考助がそう言うと、セイヤは少しだけ間をあけて「・・・・・・うん」と言った。

 そのセイヤに考助は笑みを浮かべて、

「でもね。セイヤがストリープを弾けるようになりたいというんだったら、ちゃんと応援するよ?」

「え?」

「大事なのは、セイヤがどうしたいのか、だからね。無理に習う必要はないよ。でも、セイヤがやりたいことはやるべきだからね」

 考助はそう言ってもう一度セイヤの頭を撫でた。

 さらに、シアにも同じようにしてあげる。

 そして、考助に頭を撫でられたセイヤはコレットを見た。

 そのコレットが小さく頷くのを確認したセイヤは、セイヤらしくニパッと笑顔を浮かべるのであった。

セイヤもシアもストリープを弾くことになるかはまだわかりません。

ただし、ミクが弾くことによって精霊たちが周囲に集まっていることに対しても、色々と思うところはあるようです。

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