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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 南~西方面
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(7)いきなりの試練

 儀式を行った翌日。

 考助たちは、子供たちと合流してからナンセンの町を出た。

 久しぶりに家で寝泊まりしてきた子供たちは、元気いっぱいになっている。

 といっても、旅の最中は以前と変わらず、外の風景を楽しんだりトランプをしたりして過ごしていた。

 子供たちも旅そのものを楽しんではいるが、それよりもずっと考助と一緒にいれることを喜んでいるようだった。

 勿論、ミクのストリープの練習は続いている。

 ナンセン出発と同時に、ミアからようやく音を出すだけの練習から簡単な曲を弾く許可が出ていた。

 ようやくといいつつも、実は非常に早かったりする。

 学園でストリープを習うときは、学んでいる子供たちが飽きないようにすぐに曲練習に移っているが、本格的に奏者になる場合はそうはいかない。

 ミアはそのことを知っていたので、その基本中の基本をしっかりとミクに教え込んだのだ。

 ちなみに、ミアがなぜ知っていたのかといえば、学園入学前に付けられた教師に教えられたからだ。

 フローリアの子供たちは、学園入学前にしっかりとした教育を受けていたのだ。

 そのときの経験がいまこうして役に立っているのだから、人生何が幸いするのか分からない、などとミアが考えていることは誰も気づいていなかった。

 

 

 自走式馬車は、一応木造の車輪を使って動いているので、ゴトゴトいう音は聞こえてくる。

 もっともそれは、馬車の外側にいる者が聞けるだけで、室内では音は遮断されている。

 馬車に乗っていてその音を聞くことができるのは、御者台に座っているときだけだ。

 その御者台に、考助とシュレインが座っていた。

「・・・・・・平和だなー」

「そうじゃの。いま、このときだけは、じゃが」

 この日は朝から移動を続けていても、一度もモンスターが来ることはなかった。

 いつぞやの討伐軍がいたときとは違って、昨日までは普通に出ていた。

 そのため、今日も来るだろうとは考えていたが、いまはまだ来ていない。

 

 いつ来てもおかしくはないという忠告を含めたシュレインの言葉に、考助は相変わらずのほほんとしたまま頷いた。

「そうだねえ。だからこそ、尊い時間だともいえるかな?」

 考助としてはなんとなく言っただけの言葉だったが、それを聞いたシュレインは目を丸くした。

「なんじゃ、突然。悟りでも開いたかの?」

「いや、ただなんとなく? ・・・・・・それにしても、いまから悟りを開くってできるんだろうか?」

 すでに神という存在になっている自分が、そんな不思議体験を経験するチャンスがあるのかと考助は首を傾げた。

「それは関係ないのではないかの? 神とていろいろおるじゃろう」

「そうかあ」

 考助は、悟りを得て神になったのではない。

 それならば、悟りを開こうとするならできるのではというシュレインに、考助はどうでもよさそうに頷いた。

 そもそも本当に悟りをえたいわけではないのだ。

 単に旅の間の暇つぶしの会話なのである。

 

 

 シュレインとどうでもいい会話をしていた考助だったが、たまたまシュレインの横顔を見たときに、彼女の表情が真剣なものに変わったのを見た。

「・・・・・・来た?」

 なにが来たのかは言うまでもない。

 望んでいたわけではないが、来なかったら来なかったで心配になるモンスターの登場だった。

 シュレインの顔が変わるのとほぼ同時に、車内からナナがにゅっと顔を出してきた。

「ああ、ナナ。ちょうどいいから、ピーチに教えて」

 考助がそう言うと、ナナは出した顔をひっこめた。

 

 空間拡張してあるといっても、一部屋分くらいの広さしかない。

 すぐにピーチが顔を出してきた。

「コウスケさん、どうしました・・・・・・ああ、なるほど~。これはちょうどいいですね」

「あ、やっぱり? ピーチがそういうのだったら、任せてみようかと」

「そうですか、わかりました~。・・・・・・任せてみましょうか」

 考助は、そう言って車内に戻ろうとしたピーチを引き止めた。

「フォローは必要?」

 そう聞いた考助に考えるようなそぶりを見せたピーチだったが、すぐに頷きを返してきた。

「そうですね~。私も出るので大丈夫だとは思いますが、あると助かります」

「そう。分かったよ」

 考助が頷くのを見てから、ピーチは車内へと引っ込んだ。

 

 

 考助たちの馬車へ近付いてきていたのは、三匹のマウントドッグだった。

 姿や強さは犬そのものなのだが、きちんとモンスターとして分類されている。

 あまり強くないとはいってもそこはモンスターらしく凶暴さがあり、馬車から姿を見せたミクの姿を見て、獰猛な唸り声を上げていた。

 ミクはその姿を見ても臆することなく・・・・・・とは言い難い表情で、それでも一歩一歩近付いていた。

 その顔を見れば、自分に実力があるからというよりも、傍に母親ピーチがいるから言われるままに近付いていることがわかる。


 いまミクが行っているのは、サキュバスの子供たちが通過する儀式のようなものである。

 戦闘に勝つためではなく、格上の相手でも臆することなく近付けるようにするための訓練なのだ。

 普通の種族からすれば、子供相手になにをやっているのか、と言われるようなことだが、影の技術を叩き込まれるサキュバスは、どの一族でも行っていることである。

 考助たちもそれがわかっているので、敢えて止めたりはしていない。

 それに、もし少しでもミクが怯えたりするようなことがあれば、すぐに止めるということはピーチに言ってあり、彼女もそれを了承している。

 そもそもミクがそんな様子を見せれば、ピーチ自身がすぐに訓練を止めると言っていた。

 

 考助たちが見守るなか、ミクは近付いて行く。

「止まって」

 ある程度までマウントドックに近付いたミクに、すぐ後ろにいたピーチが声をかけた。

 珍しく満足げな表情をしていることから、ミクの行動がピーチにとって合格点だったということが、考助にもわかった。

「ミク、そのまま右の奴だけに向かいなさい。あなたなら負けることは絶対にないわよ」

 ピーチは、いつもののほほんとした口調ではなく、真剣な表情で娘に指示を出した。

 そして、それを受けたミクは、小さく「はい」とだけ返事をする。

 その声の調子からもミクが相手に恐れを抱いていないことがよくわかった。

 

「いま!」

 短いピーチの呼びかけで、距離を詰めていたミクが一番右側にいたマウントドッグに向かって、一気に駆け出していった。

 とはいっても相手は曲がりなりにも犬である。

 ミクの足ではすぐに目の前に飛び出すということにはならずに、逆にマウントドッグから詰め寄られてしまう。

 それでもミクは慌てず騒がず持っていた短剣を構えながら、直進してきた相手をぎりぎりのところで避けた。

「!? ・・・・・・おっと」

 考助の横で同じように見ていたフローリアが、称賛が混じったような呟きを漏らした。

 そして、考助にもフローリアがなぜ驚くような声を上げたのかに、きちんと気付いていた。

 ミクは、マウントドッグの攻撃をよけながら、持っていた短剣で相手の喉を突き刺そうとしていたのだ。

 残念ながらその攻撃は届かなかったが、相手の意表を突くことは成功したようだった。

 攻撃を避けられたマウントドッグは、体勢を直しながらミクをより警戒するように、観察し始めたのだ。

 

 ただ、そのにらみ合いはさほど続かなかった。

 理由は簡単で、ミクを警戒していたマウントドッグの首からいきなり血が噴き出してきたのである。

「ミク、上出来でしたよ~」

 いつもの調子でミクに向かってそう言ったのは、他の二体のマウントドッグを片付けたピーチだった。

 いうまでもなく、ミクと対峙していたマウントドッグを片付けたのもピーチの仕業だ。

「かかさま」

「はい~。里で言われた試練は、これで無事にクリアです」

 嬉しそうな顔で近付いてきたミクの頭をなでながら、ピーチがそう言った。

 今回の戦闘は、幼いながらも旅に出ることになったミクに、里から出されていたテストだったのである。

 ピーチの言葉で、無事それをやり遂げたと分かったミクは、満面の笑みを浮かべるのであった。

なにをいまさらといわれそうですが、ピーチはいままで機会をうかがっていました。

ミクは無事に試練をやり遂げたということになります。

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