(4)演奏と練習
学園でストリープを習っていたミアは、腕が極端に落ちないようにある程度の間隔で弾いていた。
ただ、あくまでも趣味レベルの腕前でしかないと本人は考えているので、あまり大っぴらに人前では弾いたりはしていなかった。
そのため、ミアは管理層に来ていたミクを前にストリープを弾いたことが一度もない。
ミクが店で楽器を選ぶときに、ストリープが初見だったのもそれが理由だ。
そもそも考助もミアがストリープを弾いているところを聞く機会がほとんどないので、ミクが見たことが無いのは当然といえた。
そんな状態のため、まずはミアがストリープを弾くところを見ようかとなったのだが、その場所が問題になった。
泊まっている宿は、当然ながら防音なんていう素敵仕様にはなっていない。
音漏れを防ぐ魔道具はあるにはあるが、いますぐ準備しろと言われても無理がある。
結果として、周囲に音漏れを防ぐことができる自走式馬車の中で、ミアが弾くストリープの曲を聞くことになった。
ちなみに、自走式馬車は今後のことも考えて空間拡張を施してある。
いままでも、考助、コウヒ、ミツキの三人に加えて、嫁さん五人、子供三人が乗っていた。
今後は、それに加えてミアまで乗ることになる。
いくらなんでも、そのままの広さでは駄目だろうという話をして、急遽改装したのだ。
ミアの演奏は、全員で聞くことになった。
さすがのその状況に、ミアも戸惑いを隠せない顔になっている。
「いくらなんでも、緊張しますね」
「何をいっているのだ。学園では、もっと多くの生徒の前で弾いていたのだろう?」
学園の授業では、当然ながら合格を勝ち取るまで、回数を重ねながら教師や他の生徒の前で弾くことになる。
それから比べれば人数は少ないだろうと、フローリアが若干呆れたような顔になっている。
「それはそうですけれど・・・・・・やはり、家族の前で弾くのは、まったく違っています。母上にだって、覚えがありますよね?」
考助たちの前で踊りを披露するときは、同じような感じではないのかと問うミアに、フローリアは首を傾げた。
「さて、どうであろうな? 昔は感じていたかもしれないが、あるときから感じなくなったような気もするが?」
「・・・・・・はあ。これだから才のある人は・・・・・・」
ミアの返答は小声だったためフローリアを含めて多くの人には聞こえていなかったが、隣に座っている考助にはばっちり聞こえていた。
ただし、ミアの気持ちには完全同意だったので、敢えて聞かなかったことにして、笑いながらポンとミアの肩を叩いた。
「まあまあ。とりあえず、この中ではミアが一番うまいんだから、自信を持って弾けばいいよ」
「そうですね。そうします」
考助の慰め(?)に頷いたミアは、覚悟を決めたような顔になって、ストリープを構え直した。
今回のミアの演奏は、あくまでもミクに聴かせることが目的だ。
そのため、一番の特等席である真ん前には、ミクが座っている。
その両隣にはセイヤとシアが、さらにその両隣にはコレットとピーチがいる。
「それでは、弾きますよ?」
ミアは、そう言ってからストリープを弾き出した。
ストリープの弦は、いわゆるピアノ線のように金属で出来ているが、その音色は非常に優しい。
ミアがミクのために選んだ曲は、それこそ子供でも弾けるような簡単なものだ。
それでも、初めてストリープの演奏を聞くミクにとっては広場で聞いた辻芸人以上だったようで、目を輝かせて聞いていた。
それはミクだけではなく、両隣に座っている双子も同じであった。
ミクほど楽器には興味がないふたりであっても、しっかりと曲として音を聞けば興味を引けることがわかる。
ついでに、考助は、ミアの演奏も素晴らしいので、ふたりの耳を引きつけているのだろうと考えている。
ちなみに、女性陣も同じようにミアの演奏に聞き入っていたが、フローリアは目を閉じながら満足げな表情になっていた。
ミアが演奏を終えると、満場一致の拍手が沸き起こった。
それを聞いたミアは、一瞬だけ驚いた顔になり、ついで照れたように顔を赤くした。
「ミアねえさま、じょうずー」
ミクが一生懸命に拍手をしながら、そんな言葉をミアに送る。
それを聞いたミアは、笑顔になりながら「ありがとう」と言いながらミクの頭を撫でた。
そのあとにセイヤとシアも同じように感想を言って、ミアがそれぞれの頭を撫でていた。
ある意味で、この場にいる誰よりも音楽を聞き慣れている考助にとっても素晴らしいと感じられる演奏だったのだから、初めて聞く子供たちにとってはなおさらだっただろう。
とにかく、このときのミアの演奏は、ミクの心の中に大きな印象を残して終えたのであった。
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一曲だけの演奏会を終えて宿に戻った考助たちは、その日は特になにかするでもなく翌日からの移動に備えて眠った。
道中の予定にミクのストリープ練習が加わっただけで、他は予定通りだ。
最初は弦の位置を覚えるところから始まるので、一音一音指でつま弾いていくだけなのだが、それでもミクは楽しそうに、満足そうに笑みを浮かべながら弾いていた。
子供だと特に同じことの繰り返しだと飽きがきてしまうのだが、練習をしている本人は勿論、セイヤとシアもその単調な音の繰り返しに飽きたりはしていないようだった。
それが不思議だと考えていた考助だったが、ミクが練習を始めてから二日目の午後になって、とあることに気が付いた。
それを確認するために、母親であるピーチと神力念話で会話をすることにした。
内容が内容なので、子供たちには聞かせない方がいいと判断してのことである。
『もしかしてもしかするんだけれど、ミクの魅了の力が漏れている?』
サキュバスのというよりは、ピーチの血を色濃く引いているミクは、当然のように生まれたときから魅了の力を持っていた。
独り歩きができるようになって以来、その力を封じ込めているのだが、考助にはストリープを弾くミクの姿からあるいは魅了の力が働いているのではと感じたのである。
そして、考助から神力念話を受け取ったピーチは、表情を変えるようなことはしなかったが、ジッとわが子の姿を見た。
ちなみに、この時点で子供たちを除いた他の面々は、ふたりが神力念話で会話を行っていることに気付いている。
『・・・・・・いいえ~。少なくともサキュバスの持つ魅了の力では無いようです』
『サキュバスの・・・・・・?』
考助は、ピーチが返してきた返事の微妙な言い回しに気付いた。
『はい~。これはまだ断言できないのですが、もしかしたらセイレーンの血の影響かもしれません』
『セイレーンって・・・・・・ああ、そういうことか』
考助は、ピーチの言葉でようやく彼女がセイレーンの血が混じっていることを思い出した。
そして同時に、セイレーンの音楽(といっても基本的には歌)に対する評判についても考えが及んだ。
『ミクはセイレーンの血の影響が色濃く出ていると?』
ピーチが先祖返りのように吸血鬼の血の影響が出たように、ミクにはセイレーンの影響が出たのではないか、というのがピーチの言葉から推測できるというわけだ。
『はい~。でもまだ確定ではありませんが』
『なるほどね。でも確かにそれはあり得そうだ』
『里に戻ったときにでも、確認します~』
ピーチがセイレーンの血を引いているように、それ以上にセイレーンの血が濃い者も里にはいる。
そうした者にきちんと確認をとるべきだというのが、ピーチの考えだった。
『そうだね。そのほうがいいか』
そして、それに考助も同意した。
セイレーンの影響に関しては、あくまでもピーチの推測でしかない。
コウヒやミツキに確認を取っても、ピーチのときのように無差別の影響はなさそうなので、とりあえずは様子を見ることにしたのである。
最近ミクにばかり焦点が当たって、セイヤとシアがなおざりになっている気が・・・・・・。
き、キノセイデスヨ。
それはともかく、ピーチのセイレーン設定、覚えている人はどれくらいいるでしょうか?w
一応言っておきますが、作者(私)はしっかりと覚えていましたよ。




