4話 神託
いつもお読みいただきありがとうございます。
第2章の8話と9話で矛盾が生じていたため、8話のコウヒの会話を変更いたしました。詳しくは活動報告をご確認ください。
通信機能の付いたクラウンカードのお披露目の後は、そのまま同じ部屋で食事会をすることになった。
時間も丁度いい時間だった上に、せっかくなので、管理者のメンバーと交流がしたいと、ガゼランから申し出があったのである。
考助としても特に断る理由はないので、その話に乗ることにした。
メンバーからも特に反対意見は出なかったので、そのまま食事会が始まったのである。
さすがに人数が人数なので、全員分の食事が出来るまで時間がかかるので、食事がそろうまでは雑談をしてすごした。
食事が来てからも主にクラウンの話などをしていたのだが、その途中で突然シルヴィアが考助に寄ってきた。
「・・・ん? どうかした?」
首を傾げた考助に、シルヴィアは口を考助の耳に近づけて、小声で囁いた。
「ええ。神託を受けましたわ」
誰からの神託かは言うまでもない。
今のところ(?)シルヴィアが自由に受けられる神託は、エリスからのみである。
というより、自由すぎると思われるほどどうでもいい内容の神託も受けたりしているので、わざわざこんな方法を取ってくることの方が珍しい。
それが分かった考助も真剣な表情になる。
「どんな内容?」
「それが・・・これから来る方を、きちんと見定めるようにと・・・」
「・・・・・・は??」
思ってもみなかった内容に、考助は驚いた。
これまでエリスは、考助の行動に対して口出しをしてくるようなことは、一度もなかった。
シルヴィアが、周囲の人間に隠すように、小声で神託の内容を伝えてきたのもエリスの差配だろう。
それほどの者がこれから来るということなのだろうかと、考助の表情に緊張が走った。
その変化に気付いたのか、周囲にいたコウヒたちが、こちらを伺うように見て来た。
だが、その表情を見たシルヴィアは、クスリと笑った。
「そこまで緊張する必要はない、という事でしたわ」
流石はエリス、というべきか、考助の心の動きなどお見通しらしい。
とは言え、わざわざ神託してまで伝えて来たのだから、何かあるのだろうと察することくらいは出来る。
シルヴィアを通して伝わってきたエリスの言葉で、適度な緊張感を持つことが出来た。
あるいは、こうなることを見越して、エリスは神託という形で伝えてきたのかもしれない。
エリスの神託という思わぬ形で来客の存在を知った考助だったが、肝心の人物はなかなか来なかった。
食事会もほぼ終わり、という所まで時間がたったところで、ワーヒドの所に一人の職員が来た。
来客があったことを告げた職員を、後日に会うように伝えたワーヒドだったが、それに気づいた考助がストップをかけた。
「ワーヒド待って。例の件の来客?」
「え? ・・・ええ、代官候補の希望者が来たんですが・・・」
クラウンでは、現在第五層の代官を務めることが出来る者を募集していた。
流石に街という規模になってきて、ワーヒド達だけではさばききれなくなってきたのだ。
どうしても官僚組織を立ち上げるのは、急務になっていた。
「今日の希望者はその人一人だけ?」
「そうですね。他に、これから会う予定もありません」
「そう。それじゃあ、今からその人に会ってみよう」
「え? 考助様も同席されるんですか?」
「うん。・・・ちょっと理由があってね。・・・後で話すよ」
さすがにここでは、人が多すぎて大っぴらに話せる内容ではない。
エリスのことは特に秘密にしているわけではないが、公言しているわけでもない。
ミクセンの神殿の様子を見る限り、出来る限り広めないほうがいいだろうとは思ってはいる。
今のところシルヴィアが、エリスから気軽に神託を得ていることを知っているのは、管理者メンバーくらいだ。
管理者メンバーとて、わざわざ他人に知らせたりしないので、そこでとどまっている。
今の考助の言葉だけでは、そこまで分かるはずもないワーヒドだったが、何かを察したのかすぐに頷いた。
「・・・わかりました。すぐに用意いたしますので、少しお待ちください」
ワーヒドはそう言って、来客を告げに来た職員を伴って部屋を出て行った。
慌ただしい様子を見せるワーヒドに、クラウン関係者達も引き留めることはしなかった。
考助との会話を聞いていたわけではないが、今クラウンでは代官を募集をしていることは知っている。
その候補者の選定も、あまりうまくいっていないことを含めてである。
代官ともなれば、かなりの権力を預けることになるのだから、その人選には相当苦労しているのだ。
今まで立候補してきた者達の全てが、大陸にある町の有力者たちの息のかかった者だったのだからどうしようもない。
今のところ第五層だけとはいえ、内から支配しようとしているのが見え見えだったのだ。
だからこそ代官選びは慎重になるしかない。
ちなみに、今まで来た候補者の洗い出しは、表の物は冒険者達の噂という形で集めて、裏の物はデフレイヤ一族の者達が行っているのだ。
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代官候補として立候補してきたのは、四十代くらいのダンディな男性だった。
今は立派な口ひげを蓄えているが、若かりし頃はイケメンだっただろう。
いや、男としての魅力が上がっている分、今の方がいいという女性は多いだろう。
そんな感想を持った考助を横目に見ながら、ワーヒドとアレクと名乗った男性の会話は続けられている。
考助が話を聞く限りでは、能力的には特に問題がないように思えた。
問題があるとすれば、考助が左目の力でステータスを見た時に出て来た称号だ。
<フロレス王国第三王子>
これを見た時の感想は、王子様って称号になるんだ、であった。
思わず現実逃避をしてしまったが、何度見てもその称号は消えてくれなかった。
これが普通に手下とかなら塔の現状を探りに来たなどと考えられるのだが、わざわざ直接王子を送り込んで来る意味が分からない。
何よりセントラル大陸には王国が存在していない。
他の大陸に存在している王国なのだろう。
そんなことを考えている間に、ワーヒドとアレクの会話はどんどん進んでいった。
話を聞く限り能力も性格も問題が無いように思えた。
とは言え、流石にこの短時間ですべてを見抜くような力は、ただの(?)若造である考助にあるはずもない。
ただ、自己紹介では、フロレス王国の人間であることは名乗らずに、別の大陸の別の国から来たと言っていた。
ちなみに、名前はきちんと本名であるアレク・ドリアと名乗っていた。
王族なのだから家名を名乗らなくてもいいのかと思ったのだが、この世界での家名の法則はよくわかっていないので判断できなかった。
この時点で限りなく怪しいのだが、先ほどの神託のこともある。
むしろ神託が無ければ、最初から疑ってかかっていたかもしれない。
ワーヒドは既に聞くことが無くなったのか、ちらりと考助の方を見て来た。
自分が聞くことが無くなったので、質問があればどうぞ、といったところだろう。
さてどうするか、と考えた考助は、一つ波風を起こしてみることにした。
「フロレス王国の第三王子ということですが、王国からちょっかいを掛けられると困るのですがその辺はどうなるのでしょうか?」
この突然の考助の発言に、その場の空気が固まったのであった。
2014/5/11 誤字脱字修正