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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 東~南方面
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(8)変化したものしなかったもの

 ミクセンでは、儀式を行った次の日には街を出発した。

 子供たちと半日街を回ったからということもあるが、もともと聖職者のためにあるような街であるミクセンは、考助たちにとっては特に見るべきものが無かったのだ。

 勿論、シルヴィアにとっては見る物が多くあるのだが、さすがに自分ひとりのために一日をつぶすようには言ってこなかった。

 それに、ミクセンに用事があるのであれば、転移門を使っていつでも来ることができる。

 わざわざ旅の真っ最中に街を巡って、さらに荷物を増やすことはない。

 というわけで、考助たちはすぐに街を出発したというわけである。

 

 南に向かって進み始めた考助たちは、ミクセンに向かっていたときとは逆の光景を目にするようになった。

 当たり前といえば当たり前だが、ミクセンに向かう巡礼隊は、北から向かうものだけではなく南から向かうものもある。

 その南からミクセンに向かってくる巡礼隊とすれ違うようになったのである。

 ただし、すれ違うといっても、一日に何度も会うわけではない。

 せいぜい多くて三度、大抵は二度ほどすれ違うようになっている。

 勿論、巡礼隊以外にも行商などともすれ違うことがあるのは当然のことである。

 

 ふたつ目の村を通り過ぎてすぐに、行商の馬車とすれ違った。

 馬もなしに走る馬車を見て驚かれるのにもすでに全員が慣れている。

「ふむ。やはりこの区域は、行商のやり取りは盛んなようだな」

「南と東の間だからかな?」

「であろうな」

 首を傾げている考助に、フローリアも頷きながらそう答えた。

 

 セントラル大陸、というよりも、ラゼクアマミヤとの往来が多いのは東大陸と南大陸になる。

 となれば、直接それぞれの大陸とやり取りをしている東の街と南の街の往来が増えるのは、ある意味当然と言えた。

 東と南、そしてミクセンの町には転移門があるために、大陸からのすべての品物が行商によって運ばれるわけではない。

 だが、転移門のない町や村には行商といった手段で運ばれるわけだ。

 クラウンが大規模商隊を作って、途中の町や村に品物を落とすこともあるが、毎日のようにそうした大規模商隊が動いているわけではない。

 やはり身軽に動けるといった意味では、個人の行商の存在は大きいのだ。

 

「この辺りだと、南からの物で行商が多くなるのはわかるけれど・・・・・・」

「うむ」

「ミクセンからのほうが近いのに、追い越しじゃなくて、すれ違いが多いのはなぜだろうね?」

 転移門を使って物が移動してきているのであれば、ミクセンからそれぞれの町や村に向かう行商が多くなるはずだ。

 いま考助たちがいる場所は、まだ南の街よりもミクセンの街の方が近い。

 そのため、ミクセンに向かう行商よりも離れて行く行商のほうが多くなるのではないか、という考助の疑問に、フローリアが首を左右に振った。

「コウスケが言っているのは、恐らく転移門の使用料のことを考えていないだろう?」

「あっ・・・・・・」

 大手の商人ギルドであれば、他の荷物と合わせて転移門を使って荷物の移動をさせた方がいいことが多い。

 ただし、小規模なギルドや個人の行商は、その使用料が負担になることもある。

「日持ちがする物であれば、転移門を使って移動させるよりも、個人の行商に任せた方が安く済む場合もある。まあ、行商の商人たちもそういった隙間を狙って商売をしているのであろうな」

「なるほどねえ」

 大規模商隊ができたばかりの頃は、個人の行商は淘汰されていくと見込まれていた。

 ところが、どんなものにも隙間というものができるもので、残った行商たちはそうした隙間の商売を行って生き残っていた。

 とはいえ、やはり転移門が大陸各地にできる前と比べれば、その数が減っていることは間違いない。

 勿論、減った分の行商は、悲しいことになっているわけではなく、クラウンやそのほかの商人ギルドに取り込まれたりしているのだが。

 

 ラゼクアマミヤができる前に比べれば、大陸全体の人口も増えている。

 そうなれば、当然大陸内を移動する荷物の数もその分増えることになる。

 となれば、隙間的な商品もまた取り扱う量が以前と比べれば増えるのだ。

 それを考えれば、行商自体が一気に激減することが無いのである。

「他大陸との取引が増えていることもあるけれど、結局のところ、人口増加が一番の理由ってことかな?」

「だろうな。そもそもの扱う荷物の量が増えてなければ、いまの行商の数は維持できていなかっただろう」

 首を傾げた考助に、フローリアは頷きながらそう答えた。

 

 そこまで黙ってふたりの会話を聞いていたシュレインが、なにかを疑問に思ったのか、首を傾げながら聞いてきた。

「人口が増えているということじゃが、町や村は増えておるのか? いままで通ってきたところは、あまり変わっていないように思えるがの?」

 シュレインは、ミツキが召喚したときから今まで、大陸を旅したことはほとんどない。

 それでもヴァンパイアの用事で、旅に出ることはあった。

 それを考えれば、少なくともいままで通ってきた町や村が、大きな変化を起こしているようには見えない。

 そう疑問を漏らしたシュレインに、フローリアが苦々しい表情になりながら頷いた。

「それが今後の課題といったところだろうな。確かに全体の人口は増えているが、それはあくまでも大都市に限った変化だ。中途にある町や村は、まだまだこれからだろうな」

「・・・・・・なるほどの。そういうことか」

 フローリアの回答に、シュレインが納得の表情を浮かべた。

 

 他大陸との輸出が増えることによって商業取引が増え、その分の仕事も増加したことにより、都市部の人口は増えている。

 ところが、そうではない町や村は、緩やかにしか変わっていない。

 特殊な加工技術がある町や村では、劇的な変化を起こしたところもあるが、それはごく一握りでしかない。

 ラゼクアマミヤがもっと国力を付けるという意味では、そうした町や村も変わっていかなければいけないのである。

 

 話が町や村の人口増加まで及んだところで、フローリアがハッとした表情になった。

「・・・・・・いかんな。折角の旅なのに、ついこんな話になってしまう」

 今はもうすでに女王から引退した身である自分がするような話題ではないと首を振るフローリアに、考助が不思議そうな顔になった。

「別にいいと思うけれど?」

「コウスケ?」

「国のトップに立つ者であったり、重鎮じゃなかったら、こんな話題出したら駄目というわけじゃないだろうし」

 軽くそう言った考助に呼応するように、シュレインも何度か首を上下に振る。

「そうじゃの。むしろ、旅の無聊を慰めるのには、ちょうどいい話題じゃろ?」

 旅をしていれば、行く先々でそれぞれの町や村の発展度合いなどの話題が出てくる。

 少なくとも、なんの話題もなくただただひたすら前に進めていくよりは、はるかにましなのだ。

 ついでにいえば、考助の周囲にいる女性陣は、そうした政治的な話題にもきちんとついていける者たちばかりだ。

 そうした話題を出しても、嫌がる者はひとりとしていないのである。

 

 子供たちがいればまた違った意味で騒がしくなるのは間違いないのだが、大人たちだけの旅は、それはそれでまた違った味がある。

 なにより重要なのは退屈しないことで、色々な話題があるというだけで、旅を楽しむ要素のひとつとなる。

 ただただ退屈な車内を過ごすよりも、遥かにましな旅になっているのだと、考助はフローリアを安心(?)させるのであった。

何となく政治的な話題でしたw

折角大陸中を旅しているので、ちょこちょこと挟んでいこうかと思います。

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