3話 通信機能
考助はただひたすらに、机に向かって作業をしていた。
その隣では、イスナーニが同じように作業をしている。
時にはぶつぶつと呟いていたりするので、何も知らない者が見れば、若干引くような光景が繰り広げられていた。
だが、その状態が突如イスナーニによって破られた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・できたーーーー!!!!」
「ウォッ・・・!? びっくりした・・・!」
唐突なイスナーニの叫び声に、隣で作業していた考助は、危うく椅子から飛び上がりそうになった。
作業で両手に持っていた道具は、机に落としてしまっている。
「あ・・・す、すみません」
「いや、大丈夫だよ。持ってたのが液体とかじゃなくてよかった」
もし液体が入っている瓶などをひっくり返したら机の上が、大惨事になるところだった。
「それで? 何が出来たの?」
考助の問いかけに、イスナーニはニンマリと笑顔を見せた。
「通信機能です!」
イスナーニのその返答に、考助は一瞬呆然としてしまった。
「・・・・・・」
「・・・あれ?」
「・・・・・・まじでっ!?」
「遅っ!」
一瞬どころか、十秒ほど経ってから反応した考助に、イスナーニが思わず突っ込んでしまった。
しかし、考助はそれを気にすることなく、イスナーニに詰め寄った。
「まじで? ほんとに出来たの!? どんな感じ? どれくらい使える?」
「わっ・・・ちょ、ちょっと落ち着いてください。きちんと説明しますから。・・・どうどうどう」
詰め寄ってきた考助に、イスナーニは両手のひらを考助の方に向けてきた。
「あ、ああ。・・・ごめんごめん」
若干引いた様子を見せたイスナーニに、考助もようやく落ち着いた。
といっても落ち着いたのは外に表れる態度だけで、心の中は踊っていた。
どうしても欲しかった機能だけに、期待に胸が膨らんでいる。
イスナーニとてその気持ちはよくわかるだけに、少し逸るように説明を始めた。
その話合いで、何点かの問題点を見つけ出しお互いに改良方法を探りあい、ようやくある程度満足のいく結果が出せたのは、それから一週間後のことだった。
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「・・・これは、また・・・とんでもない物を作ったもんだな」
リラアマミヤ本部の神殿の会議室には、主だったもの全てが集まっていた。
珍しいのは、塔の管理者メンバーがそろっていたことである。
ついでとばかりに、リラアマミヤのトップメンバー全てが集まっていた。
会議室に揃っているメンバーを見たお茶を持ってきた職員は、危うくお茶をこぼしそうになっていたのはご愛嬌である。
塔の管理者メンバーのことは知らなかったが、クラウンのトップメンバーのことは知っている。
だが、そのメンバーすべてが一堂に集まることなど今まで無かったことなのだ。
せいぜいがそれぞれの部門の単位で集まる程度だった。
ちなみに、塔に関しての主要メンバー全てが集まったのは、単に偶然だった。
たまたま管理者メンバーが全員空いていたので、全員を連れてきたところ、クラウン側も全員がそろったのだ。
勿論、神殿に来た考助が、新しい神具が出来たと言ったのも、集まった理由として、大きいのだろうが。
そして、イスナーニが現物を使って簡単に説明したところ、先のガゼランの台詞に繋がった。
言葉で反応できたガゼランは、まだいい方である。
シュミットとダレスは、言葉を失っていた。
管理者メンバーの女性陣も受けた衝撃は、似たり寄ったりだった。
全員の視線は、イスナーニが持ってきた二つのカード状の物に集まっている。
そのカードには、先日イスナーニが完成させ、その後に問題点を修正した改良版の通信機能が備わっていた。
遠距離への通信技術が乏しいこの世界では、画期的な物なのだ。
といっても残念ながら、遥か遠く離れた場所まで、使えるわけではない。
同時に使える人数も限定的で、一パーティ分(六人)までという説明だった。
とはいえ、時には六人全員で仕留めにかかる戦闘などで重宝することは間違いない。
六人限定であることを逆に利用して、そのパーティ内のみに限って通話できるようにした。
もともとパーティメンバーは六人と限られているので、同じパーティ名のみで通信が使えるということだ。
戦争のような大規模に展開している戦闘では、使える場が限定しているが、小規模戦闘が基本の冒険者たちにとっては、欲しがるものが殺到するほどの道具である。
ちなみに、以前考助がコレットに渡した通信具は、神力ではなく魔力で動くものだ。
そして一番の違いは、通信具は使い捨てアイテムであることだ。一度起動すると最後まで使い切ることになり、一回のみ使用可能なのだ。
今回のイスナーニが開発した通信機能は、使い捨てではなく何度でも使える物なのだ。それが皆を驚かせる要因の一つになっている。
「・・・遠距離で通話することは、できないんですか?」
一通りの説明をイスナーニから聞いたシュミットが、そう問いかけて来た。
ちなみにシュミットの隣に座っていた工芸部門長のダレスは、いまだに放心していた。
担当分野だけあって、受けた衝撃も大きかったようだ。
「理論上は、できないわけではありませんね」
「・・・・・・は?」
予想外の回答に、シュミットは思わず素で聞き返してしまった。
先程の説明では、通話が通じるのは、大した距離ではないと言っていたはずだ。
「どういうこったい?」
ガゼランも同じように、疑問に思ったのかイスナーニの方を見た。
二人だけではなく、イスナーニと考助以外のメンバーも同じように疑問に思っているらしい。
「簡単なことだよ。カード状の大きさにした場合には、届く距離が短いってだけ。逆に言えば、大きさにこだわらなければ、距離を延ばすことも可能なんだ」
「付け加えますと、途中に固定した中継点を作れば、距離はいくらでも伸ばせます」
「そんなことしても採算が合わないから、実行する意味がないだろうけどね」
考助は苦笑してそう言った。
それに対して意見を言ったのは、やはりというかシュミットであった。
「いえ。距離さえ稼げるのであれば、街と街の間でつなぐことが出来ます。そうすれば、使う人数も増えますから・・・」
設置する意味はある、と続けようとしたシュミットを、考助が失礼だなと思いながらも遮った。
「ごめん。今のところ作れる中継点は、六人分限定だから」
考助のその言葉に、シュミットは見るからに肩を落とした。
たった六人が使うために、街の間に中継点を設けていくなど、採算が合う合わない以前の問題である。
それこそ問題外であった。
「まあ、その辺は今後の改良待ちってところかな?」
「だが、それでも構わないから作ってくれという輩はいそうだがの? 主に支配層にだが」
シュレインのその言葉に、考助もイスナーニも大真面目に頷いた。
「ああ、その場合は作ってもいいと思うよ? まあ、そのせいで破産してもいいというなら」
考助のその言葉に、ピンときたイスナーニは、呆れたように首を振った。
「・・・ちなみに聞くが、街の間に中継点を設置していったら、どれくらいの金額がかかる?」
「希少金属やら希少素材が湯水のように使われていくので、大陸中の金貨を集めてもまだ足りないかと」
ため息を吐くように答えたイスナーニだった。
さすがにその回答には、その場に集まった全員が苦笑した。
採算が合わないどころではない。あくまで理論上と言った意味が、よくわかった一同であった。
「それで? お前さんのことだから、クラウンカードにこの機能を乗せるつもりなんだろう?」
「そのつもりです」
時期を決めて、新規でメンバー登録をした者には、最初から通信機能が搭載されたクラウンカードを渡すようにする。
それより前にカードを渡されたものは、希望者から順に新しいクラウンカードに交換していくつもりである。
クラウンカードの発行数は把握しているので、ある程度まとめて新カードを作っておけば、混乱も最小限に抑えられると考えている。
「そうか。まあその辺は何とかやってみるさ」
ガゼランの言葉に、シュミットとダレスも頷いた。
冒険者たちほどには恩恵を受けることは無いだろうが、商人部門も工芸部門も使い道はいくらでもあるのだ。
ついでに言えば、これでまたクラウンメンバーが増える要因にもなるだろう。
最近ようやく落ち着きを見せていたのだが、これでまた受付達が悲鳴を上げることになると考えた三人であった。
2014/4/30 訂正。通信具と通信機能の違いについての説明追加。
2014/6/19 誤字訂正




