(4)寄生
考助たちが受けた巡礼隊護衛の依頼は、大陸の北東にあるリュウセンまでとなっている。
もちろん、巡礼自体はミクセンまで続くのだが、休息を挟まずに一気に行くのか、それとも間に休みを入れるのかは巡礼者次第だ。
隊長であるゼントは休息を挟んで何日かは休みだが、ゼント以外にも巡礼隊はある。
休みを入れない巡礼者はそちらの隊に乗り換えて、巡礼を続けることになる。
ゼントの休みが終わるころには後続の巡礼隊が来るので、それに玉突きされるように今度はゼントの隊が出発するのである。
北の街からリュウセンまでの間にもいくつかの村や町はあるが、そこは基本的に一泊して消耗品などの買い込みをしてから通り過ぎるだけの場所になる。
観光ツアーではないので、各所で止まって見る時間はほとんど取られていないのだ。
勿論、それは護衛で雇われている考助たちも同じだ。
北の街からいくつかの町と村を通り抜けて進む途中、すっかり慣れた様子でゼントが隣に座る考助に話しかけてきた。
「それにしても、よくこの依頼受けてくれたなあ」
すでにもう何度目かわからないゼントの同じ言葉に、考助は苦笑を返した。
「たまたまタイミングが合いましたからね」
考助の返事もまったく同じものだ。
ゼントも考助の違った返答を期待しているわけではない。
ゼントが何度も同じことを言ってくるのには、理由がある。
それはいま、考助たちの目の前で、絶賛活躍中だった。
ラゼクアマミヤができてから大陸を周回している街道は、昔に比べて比較的安全な道となっているが、それでも完全にモンスターの出現を防げるわけではない。
町から町へ移動する際には、必ずと言っていいほどモンスターには遭遇する。
だからこそ、商隊や巡礼隊は、金を出して護衛の冒険者を雇うのだ。
ゼントの巡礼隊も北の街を出てからすでに何度かモンスターに遭遇している。
そのときには、当然護衛として雇われている考助たちが出張ることになる・・・・・・のだが、ゼントと同じ馬車に乗っている考助は、そういうときはほとんど動かない。
そして、今現在、ゼントの巡礼隊は何度目かのモンスターとの遭遇を果たしている。
その相手をしているのは、前を走る自走式馬車に乗っていたナナを含めたシュレイン、フローリアであった。
考助はといえば、戦闘をサボっているわけではなく、妖精たちの力を使って巡礼隊の周囲に結界を張って守っている。
モンスターの対処は、基本的にナナが暴れまわって終わるのだが、シュレインやフローリアも活躍している。
そうした考助たちの活躍を見るたびに、ゼントは先ほどの台詞をこぼすのである。
そもそも今回の移動は、いつもと同じような間隔でモンスターに襲われているが、隊にはほとんど何の影響も受けていない。
それがゼントにとっては、あり得ないくらいの結果なのだ。
勿論ゼントは、考助たちがAランクであることを承知したうえで雇っているので、この結果は予想できるのだが、それでも感嘆の言葉は止められないといったところなのだろう。
ちなみに、巡礼隊の馬車の中にいる聖職者たちも、戦いが起こるたびにナナたちの活躍を目を丸くして見守っていたりする。
なんだかんだで、今回も巡礼隊には特に被害も出ることはなく、モンスターの襲撃をやり過ごすことができた。
そもそも出てきているモンスターがさほど強くないため、考助たちにとってはどうということのない相手なのだ。
ただ、ゼントが考助たちを称賛している理由は、単にモンスターに対して余裕を持って勝っていることだけではない。
「それにしても、相変わらず片付けるのがはやいな」
モンスターに遭遇している回数はいつもと変わらないが、それを処理している時間は圧倒的に早い。
それが巡礼隊にとっても何よりの安全になるのだ。
「そうですか?」
自分たちが圧倒的速さでモンスターを片付けているのは知っているが、考助は敢えて知らないふりをして首を傾げた。
「ああ、この分だと下手をすれば前の隊に追いつく・・・・・・というのは大げさだが、大分詰めていると思うぞ?」
「いいこと・・・・・・なのですよね?」
「それは勿論」
さっさと街道を通り抜けて次の町に入ることができれば、それだけモンスターと遭遇しないということになる。
いまのところその効果はあまり出ていないようだが、それはあくまでも結果論でしかない。
長年巡礼隊の隊長を続けて来たゼントには、それがよくわかっていた。
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倒したモンスターの処理を行いある程度巡礼隊が進んだところで、考助がゼントに話しかけた。
「ところで、後ろのは放置していてもいいのですか?」
考助が後ろと言ったところで、ああという顔になったゼントは、少しだけ苦い顔になって頷いた。
「まあ、この隊は巡礼隊だからな。多少の施しはあってもいいだろう」
「そうですか」
ゼントの言葉に、考助は小さく頷いた。
それを見たゼントが、不思議そうな顔で考助を見る。
「反対しないのだな」
「ええ、まあ」
考助はそう答えて一度シルヴィアを見てから続ける。
「僕らはあくまでも『巡礼隊』の護衛ですからね」
「なるほど」
その考助の意味ありげな言葉に、ゼントは苦笑を返すしかなかった。
ゼントが率いる巡礼隊は、先頭で進むシュレインたちが乗る自走式馬車と他二台の馬車で構成されている。
ところが、いまはそれ以外にも三台ほどの馬車がついてきていた。
その目的は、考えなくとも分かる。
考助たちの強さを目の当たりにした行商人たちが、その恩恵を受けようとくっついてきているのだ。
ただし、こうした行為は「寄生」と呼ばれて、あまり良いこととはされていない。
なにしろ、自分は安い護衛だけを雇って済ませて、相手に高い金を出させているのと変わらないのだから。
もし商人同士の商隊で寄生行為が認められれば、その噂はあっという間に商人同士に広まってしまうことになる。
それでも寄生行為を続ける輩はいるのだが、商売がやりにくくなることは間違いない。
ついでに商人だけではなく、冒険者からも嫌われる。
冒険者たちから見れば、正当な金額を出さずに冒険者を使っているのと変わらないためだ。
こうして各所から嫌われる寄生行為だが、唯一の例外といっていいのが、巡礼隊に寄生することだ。
勿論、行為自体は褒められることはないために、眉を顰められることに変わりはない。
ただ、考助とゼントが話していたように、巡礼隊は聖職者がミクセンに向かうための隊になる。
神の信徒である聖職者を運ぶ馬車が、弱者を守るのは当然という考え方から、寄生も目こぼしされていたりする。
とはいっても、巡礼隊の護衛をする冒険者が、それを面白く思わないのは人の感情として仕方ない面もある。
元冒険者のゼントにもその気持ちはよくわかる。
だからこそゼントは不思議がったのだが、考助の答えを聞いて納得したというわけだ。
考助からすれば、シルヴィアがいるからこそ巡礼隊としての特例に付き合っているというのもある。
それ以上に、はっきりいえば寄生行為自体に特に思うことが無いのだ。
そもそも考助は、冒険者で身を立てているわけではないので、行商人たちが寄生をしようがどうも思わない。
それを認めてしまえば、冒険者たちが立ち行かなくなるから問題にしているだけだ。
一応ゼントに確認を取ったのも、そうした諸々の事情を考えてのことだ。
そんないろいろな思惑が絡みながらも、数の増えた馬車の隊列は、次の町へ向けて進み続けるのであった。
寄生行為についてでした。
巡礼隊の護衛に着いたのは、この話を書くためです。
寄生がフラグになっているかどうかは、まあ作者にもわかりませんw




