(3)巡礼隊の現状
北の街でやることを終えた考助は、早速とばかりに自走式馬車を使って移動を開始・・・・・・せずに、別の馬車に乗って移動していた。
その理由は簡単で、北の街で受けた依頼をこなすために、護衛する馬車に乗り込んでいるのである。
考助たちが目指している次の目的地は、大陸の北東部にあるリュウセンの町で、ちょうど護衛の依頼が出ていたのでそれに便乗したのだ。
さっさと大陸を駆け抜けるために作った自走式馬車だが、せっかくの旅を自分たちだけで終わらせるのも勿体ないということで、めぼしい依頼があればそれをこなしていくことも元々の予定に入っていたのだ。
ちなみにこれは、考助の要望というよりも、旅を楽しみにしている女性陣からの要望だ。
考助としても、いつものメンバーだけで旅をするのは勿体ないと考えていたので、それに反対することはしなかった。
なんだかんだでいろいろな形で旅を楽しみたいと考えているのは、考助も同じなのだ。
そんな流れで、北の街で見つけた護衛依頼がタイミングも内容も良かったため、こうして考助が別の馬車に乗り込んでいるというわけだ。
考助たちが北の街で受けた依頼は、巡礼者の護衛依頼だ。
正確には、巡礼者を乗せて運ぶふたつの馬車を護衛することになる。
北の街からミクセンへの道は、特に多くの巡礼者が移動することで有名で、そうした依頼も他と比べて多く出ているのだ。
ただし、そもそもの目的が巡礼なので、護衛依頼としてはあまり実入りが多くない。
そのため冒険者たちには敬遠されがちな依頼でもある。
「・・・・・・それにしてもよくぞ依頼を受けてくださいましたな」
そうした背景をよくわかっているためか、考助の隣に座っている御者をしている男、ゼントが感慨深げに言ってきた。
「そこまでのことですか?」
首を傾げながらそう聞いた考助に、ゼントは大きく頷いた。
「以前はそれほどでもなかったのですがね。いまは他の依頼の単価が高くなっているために、巡礼隊の依頼料だと中々集まりにくくなっておりましてな」
ため息交じりにそう言ったゼントに、考助はさらに詳しく話を聞くことにした。
クラウンとラゼクアマミヤができる二十年以上前は、安定して収入を得ることができる巡礼隊の依頼はそれなりに人気が高かったそうだ。
ところが、クラウンができて、というよりも大きな町に転移門ができて、簡単にミクセンに行くことができるようになった結果、巡礼隊を使う巡礼者自体が少なくなってしまった。
そのためあまり護衛依頼の依頼料を上げることができないことになった。
さらに、クラウンという組織ができてその他の依頼料が見直されてから相対的に冒険者の実入りが良くなり、巡礼隊の護衛依頼以外を選択する冒険者が増えてしまったそうだ。
「・・・・・・以前は、信仰心のある冒険者パーティが、それなりに受けていたと思・・・・・・聞いていますが?」
ゼントの話を考助の隣で聞いていたシルヴィアが、首を傾げながら聞いてきた。
そういうシルヴィアも、コレットと冒険者をやっていたときには、よく巡礼隊の護衛の依頼を受けていた。
シルヴィアたちに限らず、聖職者がいる冒険者パーティは、巡礼隊の護衛をすることが比較的多かった。
ちなみに、シルヴィアがわざわざ言い直したのは、依頼を受けていたのが二十年以上前だと言っても信じてもらえないと考えたためである。
シルヴィアを見て以前に巡礼でもしたのかと考えたゼントは、ひとつ頷いてから答えを返す。
「ああ。それはいまでも変わらないのだがね。全部を護衛依頼で済ますわけにもいかなくなっているからね」
これもまたクラウンが改定したランクの影響だ。
ひとつのジャンル、例えば護衛依頼なら護衛依頼だけをひたすら受けていてもランクは上げることができる。
だが、以前と違って、まんべんなく依頼をこなした方が高く評価されるようになっているのだ。
これは、一時期塔の中にだけ籠って討伐だけを行うような「素材漁り」と呼ばれるパーティが出て来たことからできた規定だ。
「・・・・・・というわけで、高ランクの冒険者ほど、ひとつの依頼を受け続けるというわけにも行かなくなったというわけだ」
勿論、同じジャンルの依頼を受け続けたからといって評価が下がるわけではないが、あまり好ましくないこととされている。
こうして様々な要因が絡んだ結果、現在の巡礼隊は護衛の冒険者を集めるのに苦労しているのだ。
「それは、大変ですね」
ゼントから話を聞いた考助は、そう言いながらため息をついた。
クラウンにとっては必要な改革でも、場合によってはマイナスになるという典型的な話だ。
そんな考助に対して、ゼントは小さく笑って応じた。
「確かに大変は大変だがな。これもまた修行の一部だから、文句を言うやつは一人もおらんよ」
巡礼隊が載せている「荷物」は、巡礼中の聖職者だ。
護衛が揃うまで待たされる程度の時間を待てないようでは、そもそも修行にならないという考え方なのである。
さらにいえば、わざわざ巡礼馬車を使わずに、転移門を使って移動するという方法もある。
選択肢が増えたという意味では、巡礼者にとっても悪いことばかりだったわけではないのだ。
巡礼隊についての話に一区切りをつけたゼントは、自分たちの乗る馬車の前を走る別の馬車を見ながら、羨ましそうにため息をついた。
「それにしても、ジソウシキ馬車、ですか。あれはいいですね」
考助たちの前では、シュレインたちが乗っている自走式馬車が走っている。
馬を必要としない馬車は、普段から馬を操りながら移動をしているゼントにとっては、垂涎の品だろう。
考助たちがトラブルを呼び込みかねない自走式馬車のことを隠すのをやめたのは、これから先の旅でずっと隠し続けて行くのが面倒だったのと、もうひとつ理由がある。
それが何かといえば、製作費だ。
「ええ。特注品で造ってもらいましたから。・・・・・・おかげでかなりもっていかれましたが」
敢えて曖昧に言った考助だったが、なんのことかはすぐにゼントにもわかった。
「まあ、そうでしょうなあ。あれだけの高度な魔道具となると、普通では手が出ないということはわかります。さすがAランクといったところですか」
ゼントは、考助がAランクであることは依頼を受けた際に確認していた。
だからこそ、それなり以上の稼ぎがあることもわかっているのだ。
「塔を攻略するにも、こうして大陸を冒険するにも、馬車は必須ですからね。必要経費として奮発しましたよ」
「ハハハ。それができるだけでも羨ましいですな」
ゼントには、目の前で走る自走式馬車がべらぼうな値段で作られていることはわかっていても、それがどのくらいまで突き抜けているかはわかっていない。
単に珍しいだけではなく、普通では動かすことすらできないことも理解できていないのである。
勿論、そうしたことまで考助たちはゼントに話をするつもりはない。
ゼントに自走式馬車の存在をばらすのには、今後の旅をやりやすくする目的もある。
ゼントを含めて、巡礼隊にいる聖職者の口から噂として広まることも期待しているのだ。
いくら自走式馬車が通常の馬車よりも早く進めるからといって、転移門を使って伝わる噂の速さには追いつくことは不可能なのだ。
その分、いわゆる「おバカさん」も呼び込む可能性は高くなるが、それはどうとでもできるので気にしないことにした。
そうしたことの対処よりも、旅を楽しむことを優先したのである。
結局、自走式馬車は、表に出すことに決めた考助たちでした。
こそこそ隠れて旅をするよりも、楽しみたいというのが大きな理由です。
ついでにいえば、移動する場所がセントラル大陸なので、いざというときに変な結果にはなりにくいというのもあります。




