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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 塔のあれこれ(その17)
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(4)いつもの風景

 現在の第八十層は、飛龍たちの楽園になっている。

 少なくとも空に関しては、彼らに敵う存在はひとつもなく、階層に広がる空すべてを支配しているような状態だった。

 そんな空を考助は、コーの背中に乗りながら久しぶりに空の散歩としゃれこんでいた。

 当然のように考助の傍には、コウヒとミツキがそれぞれの飛龍に乗ってついてきている。

 考助がこうして空を飛ぶのは久しぶりのことで、コーも張り切っているようだった。

 管理層にいるときで時間があるときにはこうして空を飛ぶことを楽しんでいたりもしていたのだが、最近はそれもできていなかった。

 飛龍に乗りながら空を悠々と飛ぶのは、考助にとってもドライブのように楽しめる時間なのである。

 

 小一時間ほど空の散歩を楽しんだ考助たちは、適当な広場のようになっているところでお弁当を広げた。

 勿論、直に地面の上にお弁当を置いているわけではなく、シートのような物を敷いている。

 今日は、昼には管理層に誰も残らないと聞いていたので、三人でピクニックもどきの昼食をとることにしたのである。

「・・・・・・あ~。ここまでのんびりするのは久しぶりだなあ」

「あら。考助様は、普段から管理層でのんびりしている気がしますが?」

「うぐっ」

 ミツキの混ぜっ返しに、考助が言葉を詰まらせた。

 それを見てコウヒが笑顔を浮かべながら、ちゃっかりと考助のフォローをする。

「私たち三人だけで過ごすのが久しぶりということですよね」

「ああ、そうそう!」

 取って付けたような考助の返答だったが、今度はミツキも混ぜっ返すことはしなかった。

 コウヒが言った通り、この三人だけで過ごすのは、本当に久しぶりのことだった。

 管理層を拠点に活動している者たちは、なんだかんだで暇を見つけては考助のところに顔を出していく。

 そのため、食事のときは大抵誰かが一緒にいることになり、中々三人だけになるということが少ないのだ。

 勿論、それが悪いことだとは考えていないが、たまにはこうしたときがあってもいいだろうとコウヒやミツキが考えてしまうのは仕方のないことだろう。

 

 しばらくとりとめがない雑談を三人で話していたが、ふとミツキがなにかを思いついたように考助を見ていった。

「そういえば、ここしばらく旅には出ていないけれど、いかないの?」

「旅!? あ~、そういえばそうだねえ」

 唐突すぎるミツキの言葉だったが、確かに言われてみればその通りだと思い直した考助は小さく頷いた。

 塔を攻略する以前、冒険者として活動していたときには、せっかくだから世界中を見てみたいという話を考助はふたりにしていた。

 アマミヤの塔を管理することになって、それどころでは無くなってしまったが、それでもちょこちょこと世界のいろいろなところは巡っている。

 だが、ここ最近は、まとまった期間を取れなかったこともあって、長旅には出ていない。

「うーん、旅かあ・・・・・・」

 一度考えが頭の中を巡ってしまうと、それまでまったく無かった欲求がむくりともたげてきた。


 そもそも考助の場合、忙しいのは間違いないのだが、忙しさの主な理由は塔の管理と道具の作成なので、絶対に今すぐ進めなくては駄目なことでもない。

 時間を作ろうと思えば、いくらでも作れる。

 長旅をすることで問題があるとすれば、子育てをしているコレットやピーチを放り出してしまうことになることだろう。

 もっとも、シルヴィアやフローリアのときも同じようなことがあったので、問題はないかもしれないが、それでも考助としては気が引ける。

「子供たちを放り出すのはなあ・・・・・・」

「コレットもピーチもきちんと話をすれば、なにも言わないと思いますが?」

 コレット辺りは考助が長期間いなくなることに寂しがるかもしれないが、それでもそれだけだ。

 コウヒが言った通り、恐らく考助が旅に出るのを止めることはしないだろう、という確信が考助の中にもある。

 それと同時に、そのことに甘えていいのかという考えもあるのだ。

 

 そんな考助の思いを見抜いてか、ミツキが肩をすくめながら言った。

「考えすぎだと思うけれどね。まあ、気になるんだったら、直接話をしてみたら?」

 もっともらしいミツキの答えだったが、考助は渋い顔になった。

「それはそうなんだけれどね。・・・・・・なんか、僕が話をしたら強制になってしまいそうで」

 基本的に管理層にいる女性陣は、考助がいうことに反対することはほとんどない。

 勿論、間違っていたりすれば訂正をしてきたりはするが、物事を止めるように言ってきたりすることはまず無いのだ。

 考助にとっては、それが強制しているように思えるときがある。

 だが、そんな考助に対して、コウヒとミツキは一瞬呆気にとられたような顔になったあとに、笑顔を浮かべた。

「・・・・・・まさか、未だに考助様がそんなことを考えているとは思わなかったわ」

「そうですね。彼女たちが知ったら、落ち込むのではないでしょうか」

「ああ、それはありそうね」

 黙っておきましょう、と言いながらコウヒとミツキが揃って頷いた。

 

 考助を省いて何事かを決めてしまったふたりは、視線を考助へと向けた。

「それにしても・・・・・・考助様は、相変わらず変なところで鈍い・・・・・・いえ、臆病ね」

「ミツキ、言い過ぎです。ただ、それには私も同意いたします。それから大丈夫だと思っていても油断させてくれないところも相変わらずです」

「あら。私よりもコウヒのほうがきついのでは?」

 コウヒの言葉にミツキが笑いながらそう言った。

 そのふたりの会話を聞きながら、考助はわざとらしく視線を逸らしていた。

 目を合わせれば、間違いなく容赦ない突っ込みが待っていることが分かる。

 その考助を見て、ミツキは小さく笑って話題を元に戻した。

「それはともかく、考助様。気にしすぎです」

「そうですね。まずは話をして見ることをお勧めいたします」

 ミツキの言葉にコウヒも乗っかってきた。

 最後まで追求しないふたりは、なんだかんだで考助には甘いのである。

 

 そんなことはまったく気付かずに、考助は戸惑った表情でコウヒとミツキを見た。

「でも・・・・・・」

「とにかく、話をしてみないことには何も進みません。話し方には工夫がいるでしょうが、話をせずにため込んでおく方が危険です」

 考助の反論を許さずに一気にそう言ったコウヒに対して、ミツキも頷きつつ話を続ける。

「そうね。とにかく考助様は、余計なことを言わずに、旅のことだけを話すようにしたほうがいいわ」

「わ、わかった」

 そもそも旅に出ることも決めていなかったのだが、いつの間にかその方向で進んでいるが、そのことには気づかずに考助はふたりの勢いに押されて頷いた。

 考助の表に出ている言葉や態度はそうでもないが、本心では旅に行きたがっていることは、コウヒやミツキにはお見通しなのだ。

 こういったときは、考助に余計なことを考えさせるよりも、勢いに任せて進めてしまったほうがいいということが経験上、よくわかっているのだ。

 

 いつの間にか旅についての話をすることを約束させられた考助だったが、それ自体については特に不満があるわけではない。

 あくまでも、結果的に子育てを含めて、色々な仕事を押し付けることになるのではないかと不安に考えているだけなのだ。

 コウヒとミツキの手のひらの上で踊らされている感はあるが、残念ながら考助はそのことにはまったく気付いていない。

 これから先も考助が気付くことはない。

 それに、気付いたとしてもそれに対して考助が何かを言うことはないだろう。

 なにしろ考助にとっては悪いことは、なにひとつないのだから。

 そして、これが考助とコウヒとミツキの出会ってからいままでずっと変わらなかったいつも通りのやり取りなのであった。

最初期メンバーのいつもの風景でした。

久しぶりに三人だけの話を一話使って書いた気がします。


旅に関しては、まとまった話にするか、それとも行ってきたよで終わらせるかどうかまったく決めていません。

一章(十話)ぐらい使って、物見遊山の旅を書いてもいい気もしますけれどね。

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