(7)常識外れの島
転移陣を使って一度クラウン本部に戻った考助たちは、その足で一般には使えない転移門のあるところに向かった。
そして、その転移門を使って目的地であるスライム島へと転移した。
「・・・・・・ここは?」
冒険者が足を踏み入れることができる塔の各階層は、一瞬で区別ができるほどに環境の違いがあるわけではない。
ただ、さすがに目の前に海が広がっている階層は他にないため、リクは今まで自分が見たことのない階層だとすぐに気付いた。
勿論、他のパーティメンバーたちも目を丸くして海を見ている。
「塔にある階層のひとつ。詳しくは・・・・・・むしろ説明しない方がいいんじゃない?」
秘匿するつもりもあるが、それ以上にカーリたちのためを思って、考助は余計な情報は与えないことにした。
その理由は、これから向かう先にある様々なものが関係している。
それでも考助が言いたいことを何となく察したリクが、微妙な表情で頷いた。
塔の階層に海があることに呆けている一同に、そろそろ行こうかと声をかけようとした考助だったが、そのまえに転移門に変化が起こったことに気付いた。
「・・・・・・あれ?」
首を傾げてそちらを見た考助に他の面々が気付き、身を固くした。
転移門が変化するということは、それを使って誰かがやってくることを示している。
今の自分たちは丸腰なので、転移してきた者たちが攻撃してくることを考えて、攻撃態勢になったのだ。
ただし、考助とリクとミツキはその限りではない。
そもそもこの階層に来ることができる者は、限られた者でしかないことを知っているためである。
むしろ、全く知らない人が来た場合は、塔への侵略を疑わないとならない。
当然ながらアマミヤの塔が侵略されているという事実はなく、転移門から現れたのは女性陣だった。
ちゃっかりとミアも加わっているのを見つけて、考助は思わず苦笑した。
「・・・・・・人の顔を見るなり、いきなりそれは失礼ではないでしょうか?」
わずかに頬を膨らませて抗議してきたミアに、考助は両手を上げながら誤った。
「ごめんごめん。悪かったよ。・・・・・・それにしても、コレットやピーチまで来るとは思ってなかったよ」
コレットもピーチも子育てで忙しいはずだ。
それなのに、しっかりと顔を見せたことに、考助はわずかに驚いた。
「まあ、こういう機会でもないと見ることはできないでしょうしね」
「そうですよ~」
「何だ。言ってくれればいつでも来ることはできるのに」
女性陣の全員が同じことを思っていると察した考助は、あっさりとそう言った。
だが、そんな考助に対して、シュレインが肩をすくめながら答える。
「島の見学云々は建前じゃ。こんな機会でもないと、全員が揃って行動することなどないじゃろうからの」
「ああ~、なるほど。確かにそれはあるね」
シュレインの説明に、考助が納得したように頷いた。
子育てをしているコレットやピーチは勿論、他のメンバーだっていろいろと忙しく動き回っている。
シュレインが言った通り、管理層のメンバーが全員揃って行動することなど珍しいのである。
一方で、転移門から現れたシュレインたちを見て『烈火の狼』の面々も驚いている。
一番驚いているのは、やはり管理層の事情に一番詳しいリクだった。
「母上、一体どうしたんだ?」
全員そろっての登場に若干頬を引きつらせているリクに、フローリアが目をぱちくりとさせた。
「何だ? 聞いていないのか?」
「いや、何も聞いてない。スーラの戦闘を見終わったあとに、何も言わずにここまで連れてこられた」
「ああ、なるほど。まあ、大したことではないぞ? 単に、さっきシュレインが言った通り、せっかくの機会なので全員が集まっただけだ。そこまで心配するようなことは起こらないさ」
フローリアがそういうと一応安堵の表情になったリクだったが、それでもまだ警戒(?)は完全には解いていない。
「ただ、父上が主導して動いていることが気になるんだが?」
「ああ・・・・・・なるほど。さすがだな。リクのその予想は外れていない。ついでにミアが張り切っているのを見れば何となく予想は付くのではないか?」
そう言われて、リクは改めてミアを見た。
そして、確かにミアがうきうきとした表情になっているのを確認して、あからさまに頭を抱えた。
フローリアの言った通り、これから先に何が起こるのか、想像ができてしまったのだ。
とはいえ、自分ではもはやこの流れを止めることはできない。
諦めて身を任すしかないと分かって、そうすることしかできなかったのであった。
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女性陣が加わることによって十人以上の集団となった考助たちは、そのまま島の奥に向かって歩き出した。
そこからは、リクも含めた『烈火の狼』の面々にとっては、常識はずれのオンパレードだった。
出現するモンスターはすべてスライムで、希少価値が高いと言われる種が出てくる出てくる。
しかもそれは転移門近辺であって、さらに奥に進めば今まで見たこともないようなスライムたちがわらわらと出てくるのだ。
中には、半ば伝説と化しているようなスライム種さえ出会っていた。
島の奥に進むほどに仲間たちの顔から生気が無くなっていくのに気付いたリクが、盛大にため息をつきながらフローリアに向かって言った。
「・・・・・・・・・・・・なるほど。装備を置いてくるようにいうわけだ」
こんな希少種ばかりを見せられて、素材を持ち帰らないという選択をする冒険者はいない。
「ああ。其方たちが危なすぎるからな」
だが、フローリアの答えは、リクの考えとはずれていた。
微妙にニュアンスが違っていることに気付いたリクが、首を傾げながらフローリアを見た。
「危ない? スライムが?」
「何を言っている。其方たちに決まっているだろう?」
目を丸くして驚きを示しながら、フローリアははっきりとそう言った。
考助がリクたちに装備を外すように言ったのは、希少種を見つけた『烈火の狼』の面々が暴走してスライム狩りを始めないようにするのと同時に、彼らの身の安全を守るようにするためだ。
希少な素材を得るために一体や二体のスライムを狩ったところで、そのあとには島中の上位スライムが襲い掛かってくることになる。
そうなれば、とてもではないが生きてこの島から脱出することは不可能になる。
フローリアの言葉でそのことを理解したリクは、再びため息をついた。
「・・・・・・それほどの島なのか」
「あのなあ。そなたもいい加減父親のことを理解したらどうだ? ただスライムがいるだけの場所を、わざわざ外の人間に見せるはずもないだろう?」
きっぱりとそう言い切ったフローリアに、リクは何とも言えない微妙な表情になった。
そして、一同を案内するように前を歩いていた考助が、振り返りながらフローリアに向かって言った。
「フローリア。それって、褒めているのかけなしているのか、どっち?」
「何を言っている。のろけに決まっているだろう?」
自身の想像の斜め上を行く回答を返したフローリアに、考助は一瞬だけ驚いた顔になり、すぐに笑みを浮かべるのであった。
転移門のあるところからスライム島にある山の頂上にまでたどり着いた一同は、そこでリンと対面することになった。
考助からリンのスキルやら強さを聞くことになった『烈火の狼』のメンバーたちは、最後の止めを食らったとばかりに真っ白な状態になっていた。
そして、それにはリーダーであるリクも含まれていた。
彼らは今回の件で、スライムひとつとってもまだまだ自分たちが及ばない世界があるということを思い知らされたのであった。
最後にはすっかり意気消沈してしまった『烈火の狼』のメンバーであったとさ(リーダー含む)。




