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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 塔のあれこれ(その16)
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(16)セントラル大陸の冒険者

 アマミヤの塔は全部で百層存在しているが、考助はすべての階層に手を入れているわけではない。

 例えば、第八十五層以上の高階層は、眷属たちが危険になる可能性が高いためほとんど手つかずになっている。

 他にも元から特殊な地形だった場所なども敢えて残しているところがある。

 その理由は、単純に手が回らないということもあるが、環境生物の保護という意味もある。

 勿論、最初からそのつもりで塔の開発をしていたわけではない。

 長い間様々な階層で実験を行っていくうちに、全てに目を行き届かせるのは無理だと分かってきたので、それならば放置しておく階層があってもいいのではないかと考えたのだ。


「・・・・・・ということを建前に、開発をサボっているという言い方もできるな」

 考助から話を聞いていたフローリアがそう言うと、考助も真顔で頷いた。

「うん。そうともいう」

 まったくもってフローリアの言う通りなので、考助も否定するつもりはない。

 やろうと思えば、ゴーレムたちを増やして眷属を増やすこともできるのだ。

 敢えてそれをしていないのは、単に考助のやる気が起きていないだけなのだ。

「まあ、現状冒険者たちの活動で困っているようなこともないから、それは別に構わないと思うが」

 冒険者の数が多くなりすぎて、街の発展に影響が出るようなことになれば、あるいは今の転移門の導線を変更して未開発エリアを通るようにしてもいいだろう。

 それであれば、無駄になっている階層を活用することができる。


 そう考えてのフローリアの言葉だったが、考助は考え込むような顔になった。

「うーん。それはどうかな?」

「というと?」

「アマミヤの塔だけで冒険者を受け入れる必要はないからね」

 アマミヤの塔の残っている階層に冒険者を受け入れたくないというわけではないが、敢えてアマミヤの塔だけに限る必要はない。

 それならば、他の四属性の塔や聖魔の塔に行けるように転移門を設置してもかまわない。

 階層が少ない四属性の塔はともかく、聖魔の塔はアマミヤの塔と同じように未活用の階層もまだそれなりに残っている状態なのである。

 そうした階層に冒険者がいけるように誘導してもいいだろう、というのが考助の考えだった。

 

 小さく小首を傾げたフローリアは、ジッと考助を見つめて聞いてきた。

「折角なんだから開いている階層を無駄にする必要はないと思うんだがな?」

「まあね。でも、同じ塔の階層ばかり攻略させても、同じような素材しか取れないだろうしね」

 これもまた考助の本音だ。

 だが、それ以外にも何か理由がありそうだとフローリアは察していたが、敢えてそれ以上は聞かなかった。

 こういうときの考助にしつこく理由を聞いても、まともに返事が返ってこないということを知っているためだ。

 それに、フローリア自身も特に何かこだわりがあって聞いているわけではない。

 こんな会話でつまらない喧嘩にまで発展させるつもりは、毛頭ないのである。

 

 一方で、考助がはっきりとした理由を言っていないのにもわけがある。

 この世界においては、いわゆるノアの箱舟的な神話はひとつもないのだ。

 基本的に生物といえば魔物が大半を占めるこの世界において、種の保存という意識が低いということもその理由のひとつなのだろう。

 考助が環境生物の保護のためと説明しても、フローリアでさえあまりピンと来ている様子はなかった。

 まさしく認識の違いということになるのだろう。

 こういうときは、無理に説明をしても互いの意識のすれ違いから喧嘩に発展することもありえる。

 それならば、最初から話をしない方がいいと考えているのだ。

 結局のところ、考助もフローリアもどっちもどっちということになるのだろう。

 

 考助は、話題を変えるついでに、話の途中で気になっていたことを聞くことにした。

「そういえば、冒険者の攻略って進んでないんだよね?」

「ああ。前にリクに確認したときは、変わっていなかったな」

 今のところ冒険者が攻略している最高の階層は、第六十一層のダンジョン階層になる。

 第五十一層から始まるダンジョン階層には、ほかの階層と違って、セーフティエリアも設置していない。

 そのため、攻略も中々進んでいないのが現状だった。

 冒険者からは、ダンジョン階層にもセーフティエリアを作ってほしいという要望が出ているようだが、考助としてはまったく作る予定はない。

 塔は攻略するものであって、されるものではないという考え方は、いまも昔も変わっていないのだ。

 冒険者たちが活動できるようにしている区域にセーフティエリアを置いているのは、あくまでも塔を運営していくためのものでしかない。

 冒険者が各階層を攻略しやすくするために作っているのもあるのだが、結局それも運営上の都合なのだ。

 

 少しだけ考えこむような表情になった考助は、小さくため息をついた。

「・・・・・・何か何回も同じようなことを言ったり聞いたりしている気がするけれど」

「まあな。だが、それも仕方あるまい。ここ十年近くは、ほとんど攻略状況は変わっていないのだから」

「それは、そうなんだけれどね」

「ただ、ガゼランからも聞いているのだろう? 突出して強くなっているパーティは出てきていないが、平均レベルは上がってきていると」

「確かに。それは一応予定通りといえるのかな?」

 考助がアマミヤの塔を攻略用に開放したばかりの頃から比べれば、塔の中で活動している冒険者の実力は確実に上がってきている。

 ひとりの英雄のような存在が出現することは無いが、多くの者たちの実力が伸びてきているのだ。

 それは、ある意味で考助の目論見通りともいえる。

 

 ただし、何事にも一長一短はある。

「それはいいんだけれど、初心者が減っているということはないよね?」

「それも大丈夫だろうな。何しろ、街の周辺の階層は初心者にとっても狩り易い場所だからな。ただ、増えてもいないようだが」

 セントラル大陸の中では、アマミヤの塔の第五層とその周辺の階層以上に、初心者にとって狩り易い場所はない。

 冒険者を目指す初心者の狩場としても重宝しているのだ。

 勿論、大陸内の全ての初心者が塔に集まってしまっては、他の町が立ち行かなくなってしまう。

 いまの第五層での新規冒険者(仮カードからの交換は除く)の受付は、第五層で誕生した子供たちが成長して登録しているのがほとんどだ。

 そういう意味では、今のところ冒険者の散らばり方はちょうどいい具合になっているのだ。

 

 そうして冒険者の実力が上がって行けば、セントラル大陸を支配するラゼクアマミヤにとっては、別の目的も達成することができる。

 それが何かといえば、セントラル大陸の歴史上、悲願ともいえる大陸内陸部への進出だ。

「このまま実力者が増えれば、何とかなるかな?」

「うむ。ただ、それをするにはやはりまだ大陸内の人口が少なすぎる気がするな」

 今のところ大きな危険を冒してまで新しい町を作る必要性がない。

 それよりも、内政で体力を増やしてからのほうがいいというのが、フローリアの意見だった。

「まあ、それを考えるのは私たちではなく、国の役目だがな」

「それもそうだね。僕らは塔のことを考えようか」

「うむ。全面的に賛成だ」

 当然塔の今後のことを考えていくうえで、セントラル大陸の状況はとても重要な要素のひとつである。

 そのため完全に無視することはできないが、敢えて手出しをする必要性もない。

 それが今の考助とフローリアの認識なのだ。

 さらに考助にとっては、セントラル大陸の未来は自分ではなく、そこで生活する人々に決めてほしいと思っている。

 今更なところも無きにしも非ずだが、そこはそれ、と考えている考助なのであった。

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