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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 塔のあれこれ(その16)
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(11)シルヴィアの考察

 アスラの神域から戻った考助は、再び神威召喚を行うことを女性陣に話した。

 それを聞いたときの一同の反応は、約一名を除いてあっさりとしたものだった。

「今回は、招待客を呼ぶわけでもないのだろう? であれば、さほど騒ぎにはならないな」

 とフローリアが言えば、

「そうじゃの。神々がそれでいいといっているのであれば、問題ないじゃろう」

 とシュレインが頷いた。

 彼女たちは、悪い意味で考助のやることに慣れきってしまっているといえる。

 だからこそ、考助の話を聞いて顔色を変えているシルヴィアを見て首を傾げた。

「シルヴィア、どうしたのじゃ? 今更、神威召喚など大したことはないであろう?」

「いえ、コウスケさんの神威召喚自体は大したことでは・・・・・・いえ、それも大したことではあるのですが、そうではありません」

 考助が神威召喚を行うと気楽に言ったことは、神殿関係者からすれば、卒倒しそうな事実である。

 ただ、そこはシルヴィアも普段から考助と接しているので、今更どうこう言うつもりはない。

 シルヴィアの懸念は別のところにあった。

 

 そう言って首を振ったシルヴィアに、フローリアが首を傾げた。

「何か別の問題でもあるのか? 今回は人も呼ばないのだから大した問題にはならないだろう?」

「神威召喚に囚われて忘れているかもしれませんが、もう一度、コウスケさん・・・・・・いえ、コウスケ様が実行していることを考えてください」

 シルヴィアの言葉に目をぱちくりとさせたフローリアが、指を折りながら考助が先ほど話したことをひとつずつ上げて行く。

「第八層に作った神社に、神威召喚を行っていく。恐らく、そのあとも女神たちの召喚も行うことになる・・・・・・他にあるか?」

「・・・・・・いや、吾も思いつかないが、シルヴィアは何が言いたいのじゃ?」

 揃って首を傾げたシュレインとフローリアに、シルヴィアが念を押すように言った。

「第八層に作った神社の位置関係を忘れていませんか?」

「位置関係? ・・・・・・あっ!?」

 シルヴィアの言いたいことに最初に気付いたのは、やはりと言うべきか、フローリアだった。

 といってもシュレインもフローリアには負けたものの、そのあとすぐに気付いた。

「・・・・・・なるほどの。確かに関係者にとってはひっくり返るようなことじゃの」

「そうですよね」

 ふたりからの理解を得られて、シルヴィアもホッとしたように頷いた。

 

 唯一取り残された感じになってしまった考助が、首を傾げながら聞いた。

「ええと・・・・・・なにか問題でもあった?」

 考助がそう切り出すと、三人は互いに視線を交わしながら誰が話をするべきか譲り合い始めた。

 そして、やはりと言うべきか、最終的に考助に説明をするのは、シルヴィアの役目となった。

 この間、時間にして約2~3秒のことである。

「問題ではありません。・・・・・・女神さまたちの了承を得られているので、問題はないのですが、やはり人々にとっては問題があるというべきでしょうか」

 珍しくも回りくどいシルヴィアの言い方に、考助はますますわけがわからなくなる。

 戸惑う考助に、シルヴィアがため息をついてから説明を続けた。

 

 全部で四つの神社を抱えるあの一帯は、それだけで神域と呼べるような状態になっていた。

 勿論、いまシルヴィアが言っているのは、実際に神々が住まうアスラの神域のことではなく、アースガルドの世界にある神々が認めた神社や神殿の集まりのことを指している。

 シルヴィアが第八層の提案をしたときには、当然神域になることを意識して提案したので、それ自体は問題にはならない。

 問題になるのは、今回第八層に作った神域(神宮)が、考助の行う神威召喚によって女神たちからのお墨付きをもらうことにある。

 神威召喚を行うことによって、塔の中とはいえ実際に女神たちが降臨して、神宮全体についてのお墨付きをもらうということは、神域全体についても三大神から承認をもらうということになる。

 

 そこまで説明して言葉を区切ったシルヴィアは、まだわかりませんかと言いたげにジッと考助を見た。

 シルヴィアからの視線を受けて少しだけ考えた考助だったが、やがて首を左右に振った。

「・・・・・・ごめんなさい。わかりません」

 その言葉に一度だけため息をついたシルヴィアは、考助をまっすぐに見つめて言った。

「先ほど私が言った通り、問題なのは神社の位置関係です。第八層にある神宮は、中央にコウスケ様を祀った神社があり、その周囲を三大神を主神として祀った神社があります」

「うん、そうだよね」

 考助も脳裏に神社の位置を思い浮かべながら頷く。

 それでもまだシルヴィアが何を言いたいのかわかっていない。

 これは、考助が悪いわけではなく、持っている常識の違いで仕方のないことと言える。


 考助が元は違う世界の住人だったことを思い出したシルヴィアは、はっきりと言葉に出して説明することにした。

「コウスケ様が第八層の神宮に対して三大神の神威召喚を行うと、神宮そのものの位置関係も三大神が認めることになります。三大神の社が周囲にあって、コウスケ様の社が中央にあるという位置をです」

「まあ、そうなるよね。・・・・・・・・・・・・あれ? 中央に僕の社? ・・・・・・あれ?」

 出来れば考えたくない事実に気付いた考助は、ギギギとロボットのように顔をシルヴィアへと向けた。

「もしかしなくても神殿とか神社の位置って、とっても重要?」

「もしかしなくても、そうです」

 きっぱり、はっきりそう断言したシルヴィアに、考助はテーブルの上に顔を突っ伏すことになるのであった。

 

 要するに先ほどからシルヴィアが懸念していたのは、考助が神々の世界(神域)において中心に位置することを女神たちが認めることだったのだ。

 勿論、建物の位置関係によって、神々の力の関係を示すのは、神殿という信仰組織の作った解釈に過ぎない。

 実際の女神たちはそんなことは気にしたりはしないのだが、少なくともアースガルドの世界でそういった信仰のされ方をしていることは、重々承知のはずなのだ。

 そして、人々の信仰が神々の力の一端(すべてではない)になることは、考助も聞いている。

 どう控えめに考えても今回の神威召喚は、考助の現人神としての立場を強化する儀式にしかならないのである。

 

 ようやく現状を理解した考助は、半ばあきらめたような表情になった。

「ええと、今から断ることは・・・・・・あの女神たちの様子を見る限りでは、無理・・・・・・だよなあ」

 退路が塞がれて逃げようがないと理解できた考助は、遠い目になって呟いた。

「・・・・・・ドウシテコウナッタ」

 その考助の様子を見ていたシルヴィアたちは、それぞれ呆れたような表情で考助を見るのであった。

ドウシテコウナッタ。


いつもよりも少しだけ短いですが、今回は区切りがちょうどいいのでこの辺で。

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