(10)エリスの考察
アスラとの話を終えて執務室から出た考助は、すぐにエリスを探し出して百合之神宮についての話をした。
「・・・・・・というわけで、また神威召喚したいんだけれど、いいかな?」
「それは構いませんが、いいのですか?」
エリスとすれば、神威召喚という正当な方法で自分たちが呼び出される分には、何の問題もない。
神威召喚は、アースガルドの世界に正式に認められた手続きで、他の女神たちとの約束事とも反しないのだ。
あるとすれば、考助がまた目立ってしまうことになるのではないか、ということくらいだ。
「ああ。エリスたちには悪いけれど、ほとんど人がいない状態で召喚するつもりだから・・・・・・」
考助の言葉に納得の色を示したエリスは、一度頷いてから微笑んだ。
「私たちも召喚時に目立ちたいわけではありませんから。人がいようといまいと、特に問題はありません」
誤解されがちだが、ジャルも無駄に自身を目立だせるような性格をしているわけではない。
単に、結果がそうなっているだけである。
「そうか。拒否されなくて、良かったよ」
「拒否などしませんよ。・・・・・・ただ、それ以外にも問題があるのですが、よろしいのでしょうか?」
「問題? 何かあった?」
首を傾げた考助に、エリスはやはり気づいていなかったのかという顔になった。
「考助様がもう一度神威召喚を行うとなると、他の女神たちも立候補してくると思うのですが・・・・・・?」
「あっ・・・・・・」
すっかりと頭の中から抜け落ちていた事実に、考助はやばいと思った。
考助とのつながりを求めて、こうして定期的に訪問したときに顔を見せに来るくらいだ。
塔の階層とはいえ、アースガルドの世界に直接姿を見せられる機会は逃さないはずだ。
今までは考助がもう一度神威召喚ができるかどうかわからない状態だったが、さすがに今回召喚を行えばできませんとはいえなくなる。
別に考助は、神威召喚が複数回出来ることを隠していたわけではないが、結果的にそうなっていた。
二度目のエリスたちの召喚を行えば、次は私もと殺到してくるのは目に見えている。
駄目だと拒否することもできなくはないのだが、そもそもきっぱりと拒否できるのであれば、いまの神域での珍獣状態も拒否している。
女神側の事情を知っているだけに、拒否しづらいというのが現状だった。
さてどうするかと腕を組んで考えこんだ考助に、エリスが確認をしてきた。
「拒否されるつもりはないのですよね?」
「それは、まあねえ。彼女たちの事情も知っているから」
考助の返答に笑顔を浮かべたエリスは、一度頷いてからある提案をすることにした。
「それでは、加護のときと同じように条件を加えてはいかがですか?」
アースガルドの住人に加護を与えるかどうかは、様々な条件で縛られている。
それは、世界に混乱を与えないようにと設けられているのだが、その理屈を考助の神威召喚にも適応しようというのがエリスの考えだった。
「それは、できるのであれば助かるけれど・・・・・・本当にいいの?」
考助としては、お願いされれば断りたくはないが、さすがにすべての女神の召喚は遠慮したいというのが本音だ。
もし、エリスが言うように条件が設定できるのであれば、それに越したことはない。
というよりも、非常に嬉しい。
考助の疑問に、エリスも頷いた。
「ええ。世界を管理する視点から見ても、必要なことですから」
エリスにしても、別に考助に対する善意だけで申し出たわけではない。
そもそも加護を乱発していないように制限をかけているのは、世界に大きな影響を与えないようにするためだ。
その観点からみれば一か所に多くの女神の祝福が与えられるのは、あまりいいことにはならない。
そう考えれば、考助が行う神威召喚に条件を設けるのも的外れなことではない。
「うん、そうか。・・・・・・ありがとう」
世界運営のためというのが建前であることに気付いている考助は、エリスに素直に感謝の意を示した。
そんな考助を見て、エリスはそっと視線を逸らす。
「・・・・・・別に考助様のためだけではありませんから」
その態度からも若干赤く染まっている頬からも照れているだけだと分かった考助は、小さく微笑むだけでそれに対して何かを言うことはなかった。
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エリスと大まかな話をしたあとに、スピカとジャルを交えて神威召喚についての細かい内容を決めた。
ただ、細かい内容といっても召喚する時期や召喚した際の与える祝福について話をするくらいで、あとはたいした内容ではない。
多くの人前で召喚を行うわけではないので、その辺りは大雑把に決めてしまっていた。
問題になったのは、そのあとに話した他の女神たちの神威召喚を行うときの条件付けである。
出来るだけ多くの女神を召喚したいのは、考助を含めた全員が同じことを思っていたのだが、そういうわけにはいかない。
どの程度の条件で召喚の許可を認めるのか、いろいろな角度から話し合いが行われた。
そして、何とかうまく調整できたものをアスラのところに持って行って、承認を得たあとで皆の前で報告することになった。
女神たちとの触れ合いは、最初のときのように握手会などは開かれていない。
晩餐会のような立ち話をする場所が設けられて、その時々で決まった女神たちが参加している。
それもこれも考助が定期的にアスラの神域に来ることがわかっているからであり、すでに考助との対面を希望する女神たちが一巡しているからこそいまは落ち着いているのだ。
考助の一通りの挨拶が終わって、あとは話を続けたい者同士で話を続けるという状態になったところで、考助はエリスに呼ばれた。
皆の注目が集められる場所に移動したことで、集まった女神たちの訝し気な視線が考助に向けられた。
考助に皆の視線が集まった確認したエリスが、更に注目を集めるべく口を開いた。
「皆様、お楽しみのところ申し訳ありません。このたび考助様に関わる発表がありますので、この場を借りて報告いたします」
そのエリスの言葉で、視線を向けつつも会話を楽しんでいた女神たちが口を閉ざした。
「皆様もすでにご存じかと思いますが、考助様はアマミヤの塔の中に神宮と呼ぶべき場所を作っています」
そう前置きをしたエリスは、神威召喚についての話を付け加えた。
すると、前もって予想していた通り、静まっていた女神たちが騒めいた。
それを右手を上げるだけで静めたエリスは、先ほど話し合った条件に付いて付け加える。
勿論、その説明だけで女神たちのすべての疑問に答えられるわけではない。
そこかしこから女神たちが疑問を口にし出した。
再びそれを抑えたエリスは、最後に付け加えるように言った。
「今の話だけでは分からないこともあるかと思います。そうした疑問については、まとめられるものはまとめて発表いたします。個別に対応するべきものは、あとで対応いたします」
「今回この場所に来ていない人たちにも出来る限りみんなに伝わるように、ここに来ている人たちで広めてね~」
エリスのあとにジャルが付け加えて、とりあえず今回の発表は終わりとなる。
質問に関しては全員から受け付けたあとで答えを返すと聞いたので、この場で質問をしようとする者もいなかった。
女神たちからどういう質問があってどういう答えを返したのか考助に知らせるのは、あとで行うことになっている。
話を聞いた者たちから神威召喚についての話が神域中にいる女神たちに広まり大騒ぎになるのだが、考助がそのことを知るのは神域を去った後のことであった。
百合之神宮の今後についてです。
とりあえずの条件は詰めました。
後がどうなるかは、考助にもエリスたちにもわかっていません。
(考助が女神たちと関わると、ただでは終わらないのがデフォ?)




