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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 塔のあれこれ(その16)
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(9)アスラの考察

 いつものようにアスラの神域を訪ねた考助は、意味深な笑みを浮かべたアスラと対面することとなった。

「・・・・・・えーと、何かな?」

 その笑みを見て腰が引けた状態で首を傾げた考助に、アスラは首を左右に振った。

「いいえー。なんでもないのよ。随分と面白い物を作ったなと思っていただけで」

 誰がどう見てもなんでもないというような顔ではないアスラに、考助は早々に白旗を上げることにした。

「えーど、ごめんなさい。どれのことでしょうか?」

 考助が自分自身で思いつくだけで、百合之神宮と神域のふたつがある。

 アスラが言った面白い物というのがどちらを指しているのか分からずに、素直に聞くことにした。

 困った顔になっている考助に、アスラが小さく笑った。

「あら? 別に責めているつもりはないのよ?」

「それはわかっているから大丈夫」

「そう? それならいいけれど。あなたの質問に対する答えは、両方よ」

 百合之神宮も考助が作った神域も、アスラにとっては非常に興味深いものだった。

 

 百合之神宮は、ミクセンのような複数の神殿を抱える地域と似ているような場所ともいえるが、決定的に違っているところがひとつある。

 それが何かといえば、現人神である考助とアスラの力が混ざってできた存在であるユリの存在だ。

 単純に神殿だけが複数ある場所は、シルヴィアがもともと考えていたように、ないわけではない。

 ただし、ユリのような妖精の力をもとにした複数の神殿(今回は神社)を置いた場所は、数が限られている。

 それだけでも神域と呼んでいいような場所になるのだが、ユリ自体がアースガルドにとっては特殊な存在になる。

 何しろ、アスラと考助の力が混ざりあってできているのだ。

 その特殊性は、他の妖精たちと比べても非常に高い。

 力の強さでいえば、長い年月をかけてその力を蓄えてきた世界樹の妖精のような存在がいるためトップ10にも入れないだろうが、希少性でいえば軽くトップに躍り出るだろう。

 そのユリが作った百合之神宮は、神々にとっても注目の的なのである。

 

 アスラから説明を聞いた考助は、若干顔を引きつらせた。

「・・・・・・さすがに神域は言い過ぎじゃない?」

「そうね。私や考助が作ったものとは全く別物だからね。でも、人が信仰を高める意味で地上に作っている神域という意味では、間違いなく当てはまっているわよ?」

 神々が実際に住んでいる場所としての神域とは別に、神々のゆかりのある場所や神々の力が宿った場所など、他の意味で神域と呼ばれているところもあるのだ。

 そういう意味では、百合之神宮は間違いなく神域といって差し支えないだろう。

「あ~、言われてみれば、確かに。というか、シルヴィアはそういう意味で作ったんだろうし」

「間違いなくね。それで? ユリの力の定着が終わったら、エリスたちは召喚するの?」

 第五層の神殿のときと同じように神威召還を行うのかと聞いてきたアスラに、考助は首を傾げた。

「必要かな?」

「どうかしら? あなたが必要ないと思えば、必要ないのでしょうけれど、その場合はこのあとで色々と要求されると思うわよ?」

 その言葉で、アスラが何を言いたいのか分かった考助は、ため息をついた。

「・・・・・・分かったよ。エリスたちに頼んで召喚するよ」

 定期訪問でアスラの神域に来ている考助は、このあとで女神たちとの会食が待っている。

 そのときに、間違いなく自分たちが関わるようにいろいろと言われるのは間違いないので、今回の断り文句としてエリスたちを使えとアスラは助言したのだ。

 最初から多数の女神たちがかかわることがわかっているのであれば、最初からエリスたちをかませた方がいい。

 そう判断した考助は、アスラの助言通りにエリスたちの神威召還を行うことを決めたのであった。

 勿論、第五層のときのように多くの人目がある場所でやるつもりはなく、サラサたちがいるだけの必要最小限の人数でやるつもりだ。

 

 諦めたような表情になった考助を見て笑みを浮かべたアスラは、小さく頷く。

「そのほうがいいでしょうね。しばらくはそれであの子たちも抑えられるでしょうし」

「・・・・・・しばらくは?」

 不吉なアスラの言葉に、考助の表情が固まった。

 アスラは、考助のその顔を見て少しだけ目を瞠った。

「まさか、エリスたちを召喚しただけで終わると思っていたの? それで持つのはせいぜい数年といったところよ?」

 考助の眷属に加護を与えるのを許可したときのように、自分たちもおねがいしますと言われるのは目に見えているとアスラは続けた。

 そしてさらに、アスラは考助に向かって意味深な表情を向けた。

「考助が、彼女たちを抑えられるなら抑えてもいいけれど・・・・・・少なくとも私には無理ね」

 アスラが無理なものを自分が抑えられるはずもない。

 早々にそう結論付けた考助は、全てを諦めたような顔になった。

「・・・・・・わかったよ。そのつもりで準備しておく」

「そのほうがいいわね」

 考助の決断に、アスラも真顔で頷いた。

 

 一度決断してしまえば、あとは早い。

 すぐにでもエリスたちを呼んでもらおうと考えた考助だったが、それをアスラが止めた。

「その前に、あなたが作った神域について話しておいた方がいいと思うけれど?」

「そうなの?」

 百合之神宮に比べれば大したことではないと考えていた考助は、意味が分からずに首を傾げた。

「考助が考えていることはよくわかるわ。確かに、いまは大したことではないかもしれないけれど・・・・・・この先がどうなるかは分からないわよ?」

「・・・・・・というと?」

「だって、考助のことだから、間違いなくあの神域を広げていくことになると思うわよ?」

「ぐっ・・・・・・!? そ、そんなことは・・・・・・?」

 ない、と言おうとして目を泳がせた考助を見て、アスラがくすりと笑った。

「そう? それならいいわね」

「・・・・・・わけでもないので、何かあれば教えてください」

 突き放されそうになって不安になった考助は、そう言いながら頭を下げた。

 

 そんな考助に対して、アスラはもう一度クスリと笑う。

「いまは本当に大したことではないのよ。でもこの先多くの眷属とかを入れることになれば、間違いなくあの神域はひとつの世界といっていい場所になるわ」

「それは、まあ・・・・・・そうだね」

「気付いていないみたいだけれど、それって考助があの神域の神になるのと同じ意味よ?」

 アスラのそのセリフを聞いて、考助はウッという表情になった。

 あの神域を見たシルヴィアからも同じようなことを言われたが、改めてまさしく神であるアスラからではその重みが全然違っている。

「あの世界を広げれば広げるほど作った考助の存在の重みも増してくるし、ついでにここでいうところの天女たちみたいな存在も生まれてくるかもしれないわね」

「そ、そこまでのこと?」

「あら、だって世界を運営するにはどうしたって調整する存在は必要になるわよ? 広くなればなるほど」

 最後に付け加えられたアスラのセリフに、考助は決意を新たにした。

 あの神域は、あくまでもクロたちのための場所で、これ以上は広げることはしないでおこうと。

 

 そんな考助の姿を見たアスラは、その決意を見抜いたように言った。

「そうね。このまま何事も起きなければ、今のままで済むものね」

「そんなフラグになるようなことを言わないで!」

 思わずそう声を張り上げた考助に、アスラは「あら、ごめんなさいね」とまったくすまなく思ってなさそうな顔で返すのであった。

百合之神宮と神域についてでした。

考助は今のところ神域を広げるつもりはありません。

無いと言ったらないのです。

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