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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 第五層の街
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(11)手負い

 家に着いた考助は、リクから話を聞いて納得の表情を浮かべた。

「なるほどね。要は必要な素材は手に入ったけれど、モンスターを手負いの状態にしてしまったというわけね」

「・・・・・・まあ、簡単にいえばそういうことだな」

 不本意という文字を顔に書いてあるような表情で、リクが頷いた。

 リクたちが受けた依頼は、とあるモンスターの爪を手に入れるというものだった。

 ただし、対象のモンスターを見つけて戦闘に入ったのはいいが、思った以上に相手に粘られたお陰で肝心のところで逃げられてしまったのだ。

 腕を一本切り落としていたので後を追おうとしたが、リクたちのパーティもあまり良い状態ではなかったということもある。

 腕を切り落としていたおかげで依頼の失敗とはならなかったのだが、リクの心情としては失敗と言っていいものだったのである。

 

 それに、口にはしていないが別の問題もリクの気分を落としている原因になっていた。

 それをしっかりと見抜いた考助が、敢えて他の仲間たちがいるところで口にすることにした。

「なるほどね。あとは、自分の判断ミスで仲間を危険にさらしたから落ち込んでいるってところかな?」

「ちょっ・・・・・・!?」

「「「「「えっ!?」」」」」

 考助のその言葉に、リクが慌てて、他の仲間たちが目を丸くした。

 この反応を見れば、リクが仲間たちから普段どう思われているのかよくわかる。

 

 話を聞いていた中で、考助の言葉に平然としていたのは、ミツキとシュレインだった。

 そのうちのシュレインが、考助の言葉の意味を察してそれに続いた。

「なるほどのう。自分の未熟さが出たので、どこに怒りをぶつけていいのか分からないというところかの。隠せていない分、まだまだ未熟じゃの」

「・・・・・・勘弁してください」

 容赦のないその一言に、リクが撃沈した。

 そのリクの姿を見て、他の仲間たちから笑い声が上がった。

 自分たちが見抜けなかったリーダーの悩みをあっさりと見抜いた考助に対して、くやしいという思いはあるが、それ以上にさすがという思いからの笑いだった。

 

 リクをからかうのはほどほどにしておいた考助は、依頼の話に戻した。

「それにしても、手負いのモンスターを作っちゃったか」

「ああ、それが気がかりでな」

「まあ、それはそうだよねえ」

 ため息をつくようにして言ったリクの言葉に、考助も深く頷いた。

 手負いのモンスターというのは、当然というべきか、一度人との戦闘を行っている。

 そのため、たとえ同じパーティでなくとも、襲う確率が高くなるのだ。

 しかも、怒りのためなのか、捨て身でかかってくるため凶暴性が増している。

 手負いのモンスターを作ってしまうことは、冒険者たちにとってはあまりいいこととはされていないのだ。

 勿論、冒険者が戦っていたモンスターに逃げられることなど日常茶飯事に起こっている。

 そのことで責められることはないだろうが、一流と呼ばれる冒険者パーティが、そういったミスが少ないというのも確かなのである。

 

 まだまだ自分には見積もりが甘い隙があると反省するリクを見ながら、考助はカーリに話しかけた。

「きちんとクラウンには報告したんだろう?」

「は、はい! 勿論です!」

 まさか考助から直接話しかけられるとは思っていなかったカーリが、びくりとしながら答えた。

 もう何度も直接会っているのにそこまで緊張しなくても、と内心で苦笑しながら考助はそれを表に出さずに続けた。

「聞いた話だと、失点になると考えて報告をしないパーティもあるみたいだからね」

「ああ、そういえば、そんなことをサラサが言っておったの」

 つい先日、この家で雑談をしていたときに、そんな話をサラサがしていたのを思い出しながらシュレインも頷いていた。

 

 だが、このシュレインの言葉を聞いた『烈火の狼』の面々が首を傾げた。

「サラサ・・・・・・って、あのサラサさんのことですか?」

 仲間を代表してカーリが聞いてきたが、今度はシュレインが疑問の表情になった。

「あのと言われても、どのサラサなのかは分からないのじゃが?」

 サラサという名前は、珍しい名前ではないので、シュレインが言っているサラサと同一人物であるのかがわからない。

 そのシュレインの疑問が分かったのか、カーリがさらに続けた。

「あの・・・・・・クラウンの関係者でサラサというのは、ひとりしかいないと思うのですが、別の方でしょうか?」

「おや、そうじゃったのか。では、恐らく同じサラサじゃろうな」

 考助もシュレインも、サラサがそこまで冒険者に認知されているとは考えていなかったのだが、リクたちの様子を見る限りでは、その認識は間違いだったようだ。

 

 

 丁度そんな会話をしていたときに、幾分慌てた様子で部屋の扉が開いた。

「す、すみません! 遅くなりました」

 そう言って部屋に入ってきたのは、クラウンでの業務を終えて帰ってきたサラサだった。

「あれ? もう終わったんだ。そんなに慌てなくても良かったのに」

「そういうわけにはいきません!」

 サラサとしては、考助が家にいることがわかっているのに、のんびりと帰ってくるわけにはいかないという思いがある。

 息を乱すような見苦しい状態にはなっていないが、急いで帰ってきたのはすぐにわかる状態だった。

「申し訳ありません。すぐに身を整えてきます!」

 勢いよく返事はしたものの自分の状態に気付いたサラサが、慌てた様子で頭を下げて、ばたりと扉を閉じて、自分の部屋に行ってしまった。

 唖然とした様子でそれを見ていたリクたちに、シュレインが苦笑しながら聞いた。

「あのサラサで間違いないじゃろう?」

 そのシュレインの問いかけに、リクたちは無言のまま首肯した。

 

 サラサは、クラウンができた当初からカウンターで受付嬢として働き続けてきた実績がある。

 ここ五年ほどは立場も変わってほとんどカウンターに顔を見せることはなくなっていたが、それでも冒険者たちの間からは絶大な信頼と人気を得ていた。

 奴隷という立場である以上、そこまでの信頼を得るまでには相応の苦労を重ねてきているのだが、それを知られているからこそでもある。

 勿論、全ての者たちから好かれているというわけではないが、それでも他の受付嬢たちからは一線を画すほどの人気を得ているのも確かなのだ。

 と、代わる代わるに『烈火の狼』の面々が説明をするのを、サラサ当人は困った表情で聞いていた。

「・・・・・・なんというか、自分の話ではないみたいですね」

 最後にサラサが漏らした言葉で、彼女自身が今まで周囲の評価を知らずにいたことがわかる。

 そして、リクたちもまたその反応を見て驚いていた。

 この程度の話は、サラサであれば当然のように知っていると考えていたためだ。

 

 両者の反応を一歩引いたところで見ていた考助は、ふと思ったことを呟いた。

「本人の思っていないところで、噂が独り歩きすることなんて、よくあることだからね」

 考助としては何気なく言ったつもりだったが、集まっていた他の者たちの視線が考助に集中した。

 言うべきだろうかという空気が広がる中、シュレインが考助に敢えて突っ込みを入れた。

「うむ。コウスケ。それは、其方が言っても全く説得力がないセリフだと思うがの?」

「うぇっ!?」

 慌てて周囲を見た考助だったが、そこにいたすべての者たちが同意するような顔になっていて、自分の味方は誰もいないと悟り内心でがっかりするのであった。

手負いのモンスターはなるべく作らないようにするのが冒険者間の暗黙のルールです。

ただし、絶対に作らないようにするのは無理なので、できる限りの努力目標です。


そして、意外に自分の評価については、全くしらなかったサラサでした。

勿論、業務として高く評価されているので評価されているのは知っていましたが、冒険者たちの評価までは知らなかった感じです。

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