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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 第五層の街
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(10)烈火の狼

 午前中で依頼を終えてその処理も終えた考助は、ミツキ、シュレイン、ナナと一緒に併設されている酒場で少し遅めの昼食を取っていた。

 ミツキとシュレインがいることで、最初のうちは当然のように注目を浴びていたのだが、しばらくするとそれも収まって行った。

 出されたものを食べきって少しの間落ち着いてから、そろそろ出ようかとなったころに、酒場の中が一瞬騒めいた。

 考助が何だろうと視線を巡らせながら、周囲の冒険者たちの声に耳を傾けた。

「おい、『烈火の狼』だぜ」

「ほんとだ。帰ってきたのか」

「今回はどれくらいだ? 半月ほどか?」

「そんなもんだろうな」

 冒険者たちは、冒険者部門の受付に姿を見せたあるパーティについて口々に噂をしている。


 そんな冒険者たちに混じりながら、考助はまた別の感想を持っていた。

「ふーん。『烈火の狼』ね。名前変えたのかな?」

「メンバーの入れ替えなんかで、パーティ名を変えることなどよくあることらしいからの。あ奴らも同じじゃろ?」

 考助の言葉にシュレインは軽くそう返していた。

 冒険者たちが『烈火の狼』と言っているパーティは、考助たちが良く知る者たちで構成されていたのだ。

 そのメンバーの一人が考助たちに気付いたのか、リーダーの肩を叩いてこちらを見るように促しているのが見えた。

 そして、考助たちのほうを見たリーダーが驚いたような表情を浮かべた。

 他のメンバーたちも考助たちを見て同じような顔をしている。

 だが、すぐにリーダーは、仲間たちを促して受付へと進みだした。

 

「先に受付で処理することを選んだか」

「そうみたいだね」

 考助と同じように『烈火の狼』の様子を見ていたシュレインの言葉に、考助は頷いた。

「どうするのじゃ?」

「ん~。まあ、ここで待っていればそのうち来るんじゃないかな?」

「待つのか?」

「さすがにこれだけ注目されたら隠す意味もないだろうしね」

 考助は苦笑しながらそう言って周囲を見回した。

 そこでは、冒険者たちが考助たちと『烈火の狼』の関係をいぶかしんでいる様子が見られた。

 先ほどまで『烈火の狼』のメンバーたちが、考助たちを気にしていたことをきちんとわかっているのだ。

 その視線は、考助たちが何者なのかを不思議がっているものもあった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 受付での手続きを終えたのか、『烈火の狼』のリーダーであるリクが、考助たちのところに近付いてきた。

「・・・・・・こんなところで、何をしているんだ?」

「こらこら。久しぶりに会っておいて、第一声がそれ?」

 いきなりのリクの言葉に、考助が苦笑しながらたしなめた。

 それを受けて、リクがグッと言葉に詰まった様子を見せる。

 そして、ふたりの会話を聞いて笑い声を上げたシュレインが、他のメンバーを見た。

「なんじゃ、リクは反抗期でも迎えておるのか?」

 そのシュレインの言葉に笑い出したのは、カーリだった。

「そういうわけではないでしょうけれど、似たようなものかもしれませんね」

「ほう? 何かあったかの?」

「受けた依頼があまりうまくいかなかったのですよ」

 カーリの説明に、シュレインが若干驚いた表情になった。

「お主らが依頼を失敗したのか?」

「失敗というか、一応成功判定になったのですが、完全に依頼達成したというわけでもない状態ですね」

 曖昧なカーリの説明に、シュレインが首を傾げる。

「成功判定になったのだから、成功なんじゃろ?」

「ところが、リーダー的にはそう考えられないようでして」

 カーリが肩をすくめながらそういうと、シュレインが面白そうなもの見つけたという顔になった。

「なるほどの。何やら事情がありそうじゃから詳しく話を聞いてもいいかの?」

「いいですね。ぜひ」

「おい! カーリ!」

 笑顔で頷いたカーリに、それまで渋い顔で話を聞いていたリクが焦ったように声を上げた。

「いいじゃない。どうせため込んでいても仕方ないんだから。誰かに話すならちょうどいいでしょう?」

 考助たちの正体がわかっているカーリにとっては、迂闊に話せない依頼の内容を話せる相手ができたという気持ちだった。

 リクもそれがわかったのか、苦い表情になって黙り込んでしまった。

 

 そのふたりのやり取りを見ていた考助とシュレインは、顔を見合わせた。

「何かあったみたいだね」

「ここでは話しづらそうじゃから、場所を変えようかの」

 今の考助たちには、秘密の話をするにはうってつけの場所がある。

 第五層に買った家であれば、わざわざ転移門を使って管理層に行かなくても済むうえに、雲隠れしたと誤解されなくても済むのだ。

 リクたちの様子を見て、そちらに移動したほうがいいと判断した考助とシュレインは、息の合った様子をみせてそう言った。

 そして、考助が第五層に家を買ったことを知らなかった『烈火の狼』の面々は、不思議そうな顔をして互いに顔を見合わせるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助たちに連れられて別荘に到着したリクは、目を丸くしてその家を見ていた。

「・・・・・・いつの間にこんなものを?」

「つい最近だけれどね。そういえば、リクにはまだ言っていなかったっけ」

 冒険者をやっているリクは、基本的に長期間街にいないことが多い。

 そのため、一度タイミングを逃すと伝えるのが遅くなるのだ。

 そのため、他の子供たちには伝えていたが、リクだけには伝わっていなかった。

 ちなみに、当然というべきか、一番最初に知ったのはミアである。

 管理層で一緒に生活しているので、当たり前といえば当たり前なのだが。

 もっともリクは、考助が管理層から外(?)に出たことに対して驚いたのであって、家を買ったこと自体は驚いていない。

 それくらいの財産を持っていることは、十分にわかっているのだ。

 

 別荘で内緒の話をしたほうがいいとシュレインが言ったのには、きちんとしたわけがある。

 勿論、酒場にいて耳目を集めた状態とは大違いというのもあるが、それ以外にこの家を買ってから考助が施した仕掛けに秘密がある。

「な、なんですか、これは!?」

 魔法使いのカーリが、考助が魔道具を起動させたことに気付いて、思わず驚きの声を上げた。

 他のパーティメンバーは、その声でカーリのほうに注目した。

 ただし、リクだけはやっぱりかという顔になっている。

「カーリ。この程度で驚いていたら、色々と持たないぞ?」

「・・・・・・そうみたいね」

 普段魔法を使うことが多いカーリは、考助が起動した魔道具がとんでもない性能を持つ結界を張ったことがわかって驚いていたが、リクの言葉で何とか立ち直った。

 カーリは、考助が現人神であることを忘れていたわけではないが、そのすごさを目の当たりにした気分だった。

 

 とはいっても、考助が当たり前のように次々と起動していく魔道具に、カーリの表情が死んだようになっていくのは抑えられなかった。

 他のパーティメンバーも、カーリほどの魔法は使えないが、それなりに使うことはできる。

 何気なく考助がやっていることが、実はありえないことだということはよくわかっている。

 そのため、全員の顔がだんだんと強張っていたが、考助はそれを無視して笑顔で言った。

「まあ、これくらいにしておけば、十分だよね?」

「十分ではなく、これはやりすぎというんです、父上!」

 思わず考助にそう突っ込んでしまったリクだったが、それを責める者はここには誰もいないのであった。

『烈火の狼』は、リクたちのパーティ名です。

ちなみに、パーティ名に狼を入れているのは、狼が縁起物(?)だと思われているので、はやりだったりします。

リクは、それ以上にナナのご利益を知っているので、敢えてつけていますw


リクたちの愚痴は次話です。

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