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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 第五層の街
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(7)認識の違い

 考助が依頼を終えて抱いた懸念を伝えると、フローリアは顔をしかめた。

「むっ。それは確かに問題だな」

 さすがに一国の王だったこともあって、フローリアは考助が何を言いたいのかすぐに理解していた。

「ああ、やっぱりフローリアもそう思う?」

「それは当然だろう? 何もしないというのは論外だが、慣れてしまうのも大概だぞ?」

「そうだよね」

 街があって、その周囲は常時討伐の依頼が出ているとはいえ、全体的にモンスターに慣れてしまうとそれが大きな油断に繋がってしまう。

 塔の中であっても氾濫が発生することが確認されている以上、どこの階層にいても油断することはできない。

「さっそく話した方がいい・・・・・・とは思うのだが、コウスケは表に出る気はないんだろう?」

「それは、まあね」

 冒険者として気付いた点としてサラサに話すくらいはするが、それ以上はでしゃばる気は全くない。

 これはもう今までずっと一貫していることなので、変えようとも思わない。

 

 フローリアも最初からその返事を予想していたようで、ひとつ頷いて言った。

「では、私からはトワにでも言っておこうか。・・・・・・これだけの情報で気づいてくれればいいがな」

「これはまた。厳しいお母さんだ」

 わざとらしく目を丸くした考助を見て、フローリアはいたずらっぽく笑った。

「それは仕方ないだろう。何せ、お父さんが甘々だからな」

「あら。これは藪蛇」

 考助がそう言って肩をすくめると、フローリアはクククと手を当てて笑い出した。

 それを見て考助も微笑を浮かべる。

 それは、いつものように行われているふたりの気楽な会話のひとつなのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助とフローリアの気楽な関係はともかくとして、話の内容自体は無視できるようなものではない。

 考助から話を聞いたフローリアは、早速転移門を使って城へと向かった。

 転移門を使ったのは、それだけ間に余人を挟まなくて済むからだ。

 何より、城の中にある転移門は、王の部屋に直接通じている。

 余計な手続きをしなくても会える可能性が高いのだ。

 いくらフローリアが前女王とはいっても、引退した身で現国王に会うのにはそれなりに手続きが必要になる。

 そうした煩わしい手続きを回避するためでもあった。

 

 転移門にある部屋でフローリアを見送った考助は、そのままクラウンの冒険者部門へと向かった。

 依頼を終えてから直接家に来たために、完了の報告すらしていない。

 サラサは今日もギルドの仕事で出向いているので、報告がてら完了報告してしまうのが良い。

 流石に前のことがあってすぐのため、考助を呼び止めるような者もおらず、考助たちはすぐに別室へと通された。

 それから数分も経たずして、サラサが姿を現して考助たちに頭を下げてくる。

「申し訳ありません。すぐに手が離せなかったものですから・・・・・・」

「ああ、気にしない気にしない。こっちもサラサが忙しいことはわかっているんだから、待たされることは織り込み済みだよ。というか、早かったよね?」

 手が離せなかったと言っているが、考助たちが待っていたのはほんの数分だ。

 移動の時間を考えれば、ほとんど話を聞くと同時に駆け付けたとしか思えない。

「ええ。私がコウさま付きになっていることは、皆が知っていますから。最優先にしてもらっています」

 それはそれでどうなのかと考助は考えたが、クラウンの運営方法について口を出すのはどうかと考えて、それについては何も話さなかった。

 それよりもいまは、重要な話がある。

 

 とりあえずは依頼票の処理を済ませてから、考助は先ほどフローリアに話した内容とおなじことをサラサに話した。

 そして、考助から話を聞いたサラサは、難しい表情になっている。

「それは・・・・・・私では判断できるようなことではないですね」

「ああ。それはそうかもしれないね。商人部門だって絡んでくるだろうし」

 サラサに話をした考助としても、彼女がすぐに何かできるとは考えていない。

 敢えて一冒険者として話をして、こういった懸念が現場から上がったときに、クラウンがどういった対応をするのかというのを見る目的もある。

 もっとも、その考助の目論見は大きく外れてしまっているのだが。

 

 それは、次のサラサの言葉で判明することとなる。

「そうですね。のちほど部門長に話をしてみます」

「あれ? サラサって直接ガゼランと話ができるような立場だったの?」

 首を傾げた考助を見て、サラサは小さく笑みを浮かべて頷いた。

「はい、そうですよ。もっとも、ご主人様付になったお陰でもあるのですが」

「なんというか、それって、せっかく正体を隠している意味がない気がするのだけれど?」

 考助としてはごく普通の冒険者として活動したいのだが、サラサが付いていることによって、というよりも周囲の環境がすでに普通とはかけ離れている気がする。

 そう考えた考助を見て、サラサは困ったような表情を浮かべたのち、ミツキを見た。


 この場には、考助とサラサとミツキしかいない。

 となれば、考助の思い違い(?)を正せるのは、ミツキしかいないのだ。

 視線を受けたミツキは、サラサを安心させるように頷いてから考助に言った。

「あのね。一応言っておくけれど、ランクがAという時点で、特別な対応をするのは当然なのよ?」

 考助が現人神どうこうを抜きにしても、世を忍ぶ仮の姿である「コウ」の冒険者ランクでもAランクなのだ。

 Aランクともなれば、普通のギルドであれば特別扱いになるのは、当然のことなのである。

 塔の第五層にあるクラウン本部では、さすがにAランク冒険者がそこそこいるためそこまで大げさな対応はしていないが、それでも他の冒険者たちと違っていろいろと優遇されているのは間違いない。

 さらにその上のSランクともなればギルドマスター、クラウンでいえば部門長あたりが直接対応してもおかしくはない。

 それを考えれば、考助に対してサラサをつけてそこからギルドマスターに話が行くのは、クラウンとしては当たり前の対応なのだ。

 そういうシステムになっているのは、どのギルド(クラウン)にとっても、高位ランクの冒険者はそれだけ重要な存在だという証だ。

 

 サラサにしてみれば、今更過ぎる事実なのだが、考助にとってはそうではない。

 そもそもの立場が立場なので、どこまでが高位ランク者としての対応なのかがわかっていないのだ。

 そのことを理解したサラサは、改めて考助に説明をした。

「今の私の対応は、あくまでもAランク冒険者としての対応になります。この部屋が防音設備になっているのも、高位ランク冒険者には必要な場合があるからです」

 Aランク冒険者ともなると、受ける依頼も周りには漏らせないことがある。

 そのためにも、こうした部屋を使って話をするのは、ごく当たり前というよりも、義務に近いことなのだ。

 

 サラサとミツキから説明を受けた考助は、自分が偏った知識しか持っていないことを改めて実感することになった。

 考えてみれば当たり前のことなのだが、あまりにも「普通」からかけ離れた生活をしていたために、一般的な常識がかけていることがわかった。

 よくこれだけの齟齬があって、今まで普通に過ごせたと思うが、これまで考助と近しかった者たちがしっかりとフォローしてくれていたおかげだと反省する。

 そもそもさほど一般的な生活をしていなかったので、それでも不便はなかったのだが、これからはそうもいかないだろう。

 家を買った以上、ご近所さんとの付き合いも発生する可能性があるのだ。

 もっとも、冒険者ランクがAというだけで、一般人といえるかどうかは微妙なところなのだが。

 そういう意味では、考助の認識はいまだ一般的という言葉からは、まだまだかけ離れているのであった。

考助は微妙なところで一般的な常識を知りません。

一応クラウンの立ち上げにも関わっているので、ある程度基本的なは知っているのですが、大きくなるにつれて変わってきた内容や、暗黙の了解のようなものはほとんど知らないと言っていいかもしれません。

それでも大きな問題にならなかったのは、コウヒやミツキのお陰ですw

まあ、管理層に籠っていたので、ふたりの手を煩わせるようなこともほとんどなかったのですが。

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