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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 第五層の街
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(2)ご主人様

 シュミットから購入した家を紹介された翌日。

 考助は再びシュレイン、ミツキとともに家を訪れた。

 前日は整えられた家具などを見るためだけに来ていたのだが、今日からは本格的に使おうと考えていた。

 といっても、拠点を第五層に移すというわけではない。

 どちらかといえば、第五層の家は別荘的な位置づけで、生活の拠点はあくまでも管理層にある。

 今回は、一週間ほどを目安に滞在するつもりだ。

 

 印象が変わるように姿を変更しているシュレインとミツキに視線が集まっているのを感じながら、考助は街の中を家に向かって歩いていた。

 さすがにいつもの通りの姿で目立つとのちのち面倒なことになりかねないので、第五層の家に来るときには、ある程度の変装(?)をしてから来ることになっている。

 もっとも、考助自身は、ほとんど変装らしいことはしていない。

 それが適応されるのは、あくまでも目立つのがわかり切っている女性陣になる。

 それに、変装といっても受ける第一印象を変えるために、ちょっとだけ髪型を変えたり化粧を変えたりする程度で、魔法的に何かをしているわけではない。

 女性陣は、ピーチからそのための指南を受けていた。

 正直なところ、見慣れている考助にはほとんど変わっていないように思えるのだが、彼女たちにとっては凄い技術だったらしい。

 そういうところは、さすがに影として一流の技を持つピーチというところだろう。

 

 家に到着した考助は、ドアを開けて家の中に入った。

 すると、その音を聞きつけたのか、リビングに通じる扉が開いてそこからひとりの女性が姿を現した。

「お帰りなさいませ、コウスケ様」

「ただいま、サラサさん」

 若干緊張した面持ちで頭を下げたサラサに、考助が軽く頷いた。

 考助たちは、常にこの家にいるわけではないので、誰かが掃除などの手入れをする必要がある。

 そのための人員を誰にするのか、シュミットその他が今回の件で一番頭を悩ませたとことだった。

 この家を使うのは、考助を始めとして、女性たちも大っぴらには本来の立場を明かせない者たちばかりになる。

 そうした裏の事情をすべて知ったうえで、きちんとした管理をできる者となると、非常に限定されてしまう。

 最悪の場合はそうした事情を知らせずに候補者を探すことも視野に入れていたのだが、幸いなことに白羽の矢が立ったサラサが即了承したためその案は立ち消えとなった。

 サラサであれば、考助のことも知っているし、長い間クラウンで実績を積んできた信頼もある。

 何より考助の加護を持っているのだからこれ以上の適任者はいないだろうということになったのである。

 サラサは、クラウンでそれなりの地位についているため、そのサラサが仕えることになる人物ということで考助が注目されることになるかもしれないが、真実を知られるよりははるかにましなのだ。

 

 考助とサラサが直接対面するのは、加護を与えたとき以来のこととなる。

 未だに緊張した面持ちのサラサに、考助が笑顔になって言った。

「もっと楽にしていいんだよ? それから、その『コウスケ様』はやめてもらったほうがいいかな?」

「え、ですが、そういうわけにも・・・・・・」

「いや、そもそも僕がこの家に来るときは、『コウスケ』ではないからね」

 せっかく女性たちが変装をしてまでこの家に来ているのに、考助の名前でばれてしまっては、全く意味がなくなる。

 コウスケ、という名前は、この街にはまったくいないわけではないので、すぐに塔の管理者として結び付けられるわけではないのだが、考助としては念には念を入れたい。

 

 そうした考助の考えが分かったのか、サラサが困ったような表情になった。

 彼女にとってみれば、考助は奴隷である自分の人生を救ってくれた恩人であり、また加護を与えてくれた(くださった)信仰の対象でもある。

 そのサラサに助け舟を出すように、シュレインが肩をすくめながら言った。

「名前を呼ばれるのがまずいのじゃろ? だったら、ご主人様あたりでいいのではないかの?」

「いや、ちょっ、まっ・・・・・・!」

「そうですね。それでは、今後は、ご主人様とお呼びします」

 慌てて止めようとする考助の声にかぶせるように、サラサがそう言いながら納得したように頷いた。

 主人となる考助の言葉にかぶせるのは、本来不敬になりかねない行為だが、サラサがあえてそうしたのは、これ以上は譲れないと主張する意味もある。

 場合によっては(物理的にも)首を切り捨てられる行為であるが、考助がそんなことをするはずもない。

 

 それに、考助が何かを言うよりも早く、シュレインが楽しそうな顔になって言った。

「そうじゃの。それに、そうなると吾は、奥様ということになるのかの?」

「勿論です。奥様」

「ふむ。では、そういうことで、いいのではないかの?」

 サラサとシュレインで話がまとまってしまい、考助には口を挟む余地がなかった。

 さらに付け加えれば、サラサから「奥様」と呼ばれたシュレインが、とてもうれしそうな顔になった時点で、考助にはこれ以上どうすることもできなくなった。

 管理層にいるときは、女性陣をそうした呼び方で呼ぶ者がいないので、シュレインにとってはことのほか嬉しかったのである。

 考助にしても、シュレインにがっかりさせるほど、ご主人様呼ばわりが嫌というわけでもない。

 結局、サラサの考助に対する今後の呼び方は、「ご主人様」ということで落ち着いたのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助が第五層に家を求めた理由のひとつに、コウヒとミツキに休息を与えたいということがある。

 考助と一緒に来ると護衛が発生はするが、少なくとも家事をしなくてもいい分、多少は負担が少なくなるのだ。

 今頃管理層では、コウヒが羽を伸ばしていることだろう。

 もっとも、考助にもコウヒがだらけている姿は全く想像がつかないのだが。

 それはともかくとして、第五層に来ている考助は、シュレイン、ミツキと一緒に、昼食をしにサラサから聞いた食事処に来ていた。

 出来てから十年ほどが経つこの食事処は、この辺りでは知らない者はいないほどの有名店となっている。

 

「うん。なるほど。さすがにサラサが勧めるだけあって、なかなか美味しいね」

 考助が選んだメニューは、この辺りでは定番といえる定食メニューだ。

 それを口にした考助は、満足げに頷いた。

 確かに人気が出るだけの味がしている。

「・・・・・・ふむ。確かにそうじゃの」

 考助の向かいで同じ定食を口にしたシュレインも考助と同じような顔をしている。

 考助もシュレインも普段からミツキという最高の料理人の料理を口にしているが、他の者が作った料理を酷評するようなことはしない。

 そもそも、管理層にいてもミツキの料理を毎日食べているというわけではないのだ。

 そのミツキは、なにか気になることがあるようで、真剣な表情で料理を口にしていた。

 

 食事をしている間、当然のようにシュレインとミツキは周囲の視線を受けていたが、流石に人気店だけあって食事中に絡んでくるような輩はいなかった。

 あとでサラサに聞いたところによると、店ができた当初はそうした者も出てはいたようなのだが、人気が出るにつれて自然と減って行ったそうだ。

 最初の頃に店の中で騒ぎを起こした者が出入り禁止をくらってしまい、店の料理を食べられなくなる者が出たためである。

 以降、この店では、下手に騒ぎを起こさないという暗黙のルールができているとのことだった。

 もっとも、そんなルールは、普通に食事を楽しんでいる者たちにとっては、全く関係のない話になる。

 それはともかく、長い間にできたルールのお陰で、考助たちはその店の料理を何事もなく堪能できたのであった。

サラサの考助の呼び方は、「ご主人様」で決まりました。

この先、他の奴隷組もそうなる予感?(予定は未定ですw)

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