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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 第五層の街
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(1)家購入

 アースガルドの歴史上初めて塔の中に人が定住できる環境ができてはや二十数年。

 最初の頃はたった十軒ほどしかなかった建物も今では、数え切れないほどの数が建っている。

 当初は誰も予想していなかった規模まで発展した街は、すでに街という規模を超えて都市といっていいほどに成長していた。

 しかも、まだその勢いは衰えることを知らずに大きくなり続けている。

 その勢いは、セントラル大陸で初めてできたラゼクアマミヤ王国の王都があるからという理由だけで起こっているわけではない。

 むしろ、入植当初から住んでいる者たちに言わせれば、勢いがあったからこそ王国ができたのだと話すだろう。

 事実、塔のこの階層に村ができたときは、だれもここが王都になるなんてことは考えてもいなかった。

 それが蓋を開けてみれば、世界でも類を見ないほどの規模の都市にまで発展している。

 ここまで発展ができた最大の理由は、アマミヤの塔が初めて世に知らしめることになった転移門の存在だ。

 転移門があることによって、陸路では数カ月、海路でもひと月以上かかる大陸の端から端までの移動があっという間にできるようになり、人も物も考えられないほどの速度での移動が可能となった。

 そのことにより塔の中にあった村は、貿易の中心地となり、村から町へ、町から街へ、そして街から都市へと呼ばれるほどの規模になれたのである。

 大きな革命を起こした塔の転移門を使った物流は、他の大陸にある塔でも利用され始めている。

 とはいえ、アマミヤの塔ほどの数の転移門を抱えている塔は、未だ存在していない。

 現在攻略済みとなっている塔で、外部に向かう転移門を複数そろえているのは、アマミヤの塔をはじめとして片手で数えるほどしかない。

 それにもかかわらず、すでに他の大陸の分を合わせるとすでに二十を超える転移門を抱えるアマミヤの塔は、十分に驚異の存在といえるのであった。

 

 塔の中にある都市は、その用途に合わせてしっかりと区画されている。

 それは、空き巣や盗難といった治安維持のためにも、必要な措置なのだ。

 その区画の中流階級の者たちが住む所では、ここ最近大きな変化が起きていた。

「へー、これが魔光灯か。思ったよりも明るいね」

 考助が家の天井で光る魔道具を見て、感心したような声を上げた。

「光りの強さも調整できます。今は・・・・・・一番強くしているようですね」

 考助の隣でそう説明したのは、クラウン商人部門長のシュミットだった。

 ふたりが今見ているのが、中流階級の世帯に変化をもたらしている魔光灯だ。

 要するに夜の間も光りの中で生活ができるようになっているのだ。

 この魔光灯は、以前考助が作った魔道具とは違い、魔力供給施設から送られてきた魔力をもとに光るようにできている。

 高級住宅街で十分に実績を得た商人部門が、いよいよさらに下の階級の者たちに向けて販売を開始したのだ。

 考助がシュミットに案内されて中流階級の家にいるのは、何も魔光灯を見に来ただけではない。

 第五層に町ができて二十数年。

 ようやく(?)考助も町の中に家を持つ気になったのだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 きっかけは、フローリアの何気ない一言だった。

「そういえば、都市の中に家を持たないのか?」

「え、家? 今更? なんで?」

 考助にしてみれば、すでに二十年以上管理層だけで過ごしてきたのだ。

 何のために第五層に家を持つのか、その意味が分からずに首を傾げる。

「いや、すまない。特に深い意味はなかったんだがな。ただ、魔道具を作るうえで、実際に生活をして見て分かることもあるのではないかと思っただけだ」

 フローリアとしても特に大きな考えがあって言ったわけではない。

 ただ、なんとなく思いついたことを口にしただけだ。

 

 考助はフムと腕を組んで考え込むような表情になった。

 フローリアに言われるまで、これっぽっちも街に家を持つことなんて考えてもいなかったが、確かに一理あると思ったのだ。

 管理層で魔道具を作っていると、どうしても塔の管理に関連した物に偏ってしまう。

 それはそれで全く構わないのだが、せっかくなので人の役に立つような道具も作ってみたいと思うのは、魔道具製作者としては当然の欲求だった。

 勿論、いままでもかなり役に立つものを作ってきているのだが、それは基本的に前の世界で使っていた物を参考にしている。

 アースガルドの世界に準じた魔道具というのは、ほとんど作っていない。

 それは、考助がこの世界に来てからほとんど一般的な(?)生活をしておらず、すぐに塔の管理層で過ごすことになったことも関係している。

 そう考えると、フローリアの提案もあながち外れたことを言っているわけではないのだ。

 

 ひとしきり考えた考助は、視線をミツキへと向けた。

「というわけなんだけれど、どう思う?」

「そうね・・・・・・。もう、考助様のことを分かる人も少ないから、いいんじゃないかしら?」

 考助が「コウスケ」として人前に姿を見せたのは、かなり前のことになる。

 そのままの姿で街をうろついても考助だと分かる者はまずいない。

 いたとしても、事情を察して黙っていてくれる者たちだけだろうというのが、ミツキの考えだった。

「そうか。それだったら、本格的に考えてもいいかな?」

 考助が第五層に家を持とうと考えているのは、何もフローリアが言った通り魔道具の作成をするためだけではない。

 今までの年月をかけてできた街に、実際に住んでみるのも悪くないと思ったためでもある。

 管理層に引き籠って生活するのもいいが、それだけだと、せっかくこの世界で第二の生をもらった意味がないのではないかと考えたのだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助が一度ことを決めてしまえば、あとはとんとん拍子に話が進んだ。

 治安的には高級住宅街に住むべきだという話も出たが、それだとフローリアが言った目的が達成ができないため却下されたり、どの程度の大きさの家を買ったりするのかでいろいろともめたりはした。

 ただ、それもまた家を買う楽しみのうちのひとつと考えれば、大した問題ではない。

 当然、考助が買う家を提供したのは、クラウンだ。

 正確には、事情を聞いたシュミットが張り切って選別してきた物件を、やいのやいのと女性陣を交えて決めたのだ。

 そして、すべての準備を終えて家に入った考助が、早速確認したのが魔光灯だった。


 考助と一緒についてきたシュレイン、シルヴィア、フローリアも興味深そうに魔光灯を見ている。

 管理層には魔光灯がないので、彼女たちも見るのは初めてなのだ。

「なるほど。これは確かにはやりそうだな」

「ええ。おかげさまで、多くの方に契約をいただいている状態です」

 フローリアの言葉に、シュミットがにこにこと笑いながら答えた。

 高級住宅街で提供を続けてきて、きちんとした見積もりが出せたおかげで、かなり安価に魔力を提供できるようになっている。

 クラウンの商人部門では、中流クラスの住宅に広まり切るのも時間の問題だと考えられていた。

 

 フローリアと同じようにシュレインも感心したように魔光灯を見ている。

「確かにこれは便利じゃの。里でも導入すべきか」

「気持ちはわかるけれど、それをするなら、供給施設の小型化か、里の人口がもう少し増えないと厳しいんじゃないかな? 採算的に」

 先走りそうなシュレインに、考助が待ったをかけるように助言した。

 考助の言う通り、ヴァンパイアとイグリッドの里に今ある魔力供給施設を作っても採算が合わないのだ。

「なんだ。残念じゃのう・・・・・・。何とかならんのか?」

「分かったよ。何か考えてみるけれど、あまり期待はしないでね」

 すがるようにして自分を見てきたシュレインを見て、考助は苦笑を返すのであった。

塔に人が住み始めてから二十数年たって、ようやく主人公が家を買いました!w

まあ、神威召喚のことも人々の記憶から薄れていて丁度いいころ合いではないかと思います。


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