(12)スライムの主
スライム島には、各種妖精石が設置してある。
これだけの狭い範囲に四種類の妖精石を置くと、どんな効果が現れるのかを確認するためだ。
単独で置いた場合にどうなるかは、すでに階層で確認してあるので、今更見る必要はないのだ。
その結果を見る限りでは、やはりそれぞれの妖精石の属性に合わせてスライムの進化が起こっている。
それはやはり妖精石がスライムの進化に影響を与えていると考えるのが妥当で、妖精が誕生したときのように何かの働きかけをしなくても周辺に影響を与えているという結果だ。
それらの考察をもとに、スライム島での実験を行っているのである。
スライム島の存在を知ったミアが興味を持ったのか、実際に見てみたいと言い出した。
しばらく行っていなかった考助は、ちょうどいいタイミングだったのですぐに快諾した。
コウヒと喜ぶミアを連れて、考助は早速スライム島がある階層へと転移する。
スライム島に設置してある転移門は島の北と南にふたつあるが、中央にある山のせいで互いを見ることはできない。
もっとも、この島にある転移門を使うのは、ほぼ考助だけなので特にそれで問題があるわけではない。
今回も南側にある転移門に出てきたが、特に何か区別があるというわけではない。
毎回何となくで選んでいるだけである。
スライムの島においてある妖精石は、東西南北の順番に地・水・火・風を置いてある。
南側の転移門に出た考助は、早速スライムたちのお出迎えで歓迎されることとなった。
具体的には・・・・・・、
「うわっ、こらっ、ちょっと待てって!」
「あ~、相手がスライムでもやっぱりこうなるのですか」
「まあ、主様ですから」
呆れたように確認してきたミアに、コウヒがまじめな顔でそう答えた。
ふたりの視線の先では、考助が多くのスライムにまとわりつかれていた。
もし考助のことを知らない第三者がこの光景を見れば、見たこともないような数のスライムに襲われているように見えるだろう。
勿論、いまそばにいる者はミアとコウヒだけなので、そんな勘違いはしないで済んでいる。
スライムに囲まれたからといってべたべたになるわけではなく、考助は無事に解放された。
スライムたちが考助の言葉を理解しているのかどうかは、スキルから判別できないが、分かっていてあえて無視しているのではないかと考助は疑っている。
何の根拠もないので、ただの被害妄想の可能性も高いのだが、
そんな考助を余所に、ミアは興味津々な様子で妖精石を見ていた。
スライム島にある妖精石は、ちょっとした東屋のようなところに置かれている。
例によって地脈の交点になる場所にあるのだが、それだけで特に大きな変化は起きていない。
ついでにいえば、百合之神社のように人の手で手入れをしているわけでもないので、ユリのような妖精が発生することもないだろう。
ただし、自分たちが使っていいと理解しているのか、スライムたちが手入れをしているために、意外にも(?)薄汚れている印象はない。
ちなみに、スライムたちがどうやって手入れをしているのか、考助もしっかりと確認しているわけではないので、分かっていなかったりする。
火の妖精石をひとしきり確認して、その後ぐるりと東屋を見回したミアは、不思議そうに言った。
「スライムって綺麗好きなんでしょうか?」
「うーん、どうなんだろうね? そもそも建物をきちんとした住まいとして認識をしているかどうかもわからないからね」
自分たちの住居としてではなく、妖精石を雨から守っている物、という認識で掃除をしている可能性もある。
流石の考助もスライムたちがどんな認識で東屋をきれいにし続けているかは分からない。
「普通のスライムも雨をしのぐのに洞窟の中に入ったりしますから、案外認識しているのかもしれませんね」
「勿論、それはあるだろうけれどね。ただ、この東屋は、完全に雨風をしのげるかといえば、微妙だからねえ」
暴風雨が発生しているときは、間違いなく妖精石にまで影響があるはずだ。
東屋の中に妖精石を入れているのは、考助の趣味が反映している影響も大きいのである。
「ところで、やっぱりスライムの進化は近くの妖精石に影響されていますか?」
ミアが周囲にわらわらといるスライムを見ながらそう言った。
やはりというべきか、火の妖精石のそばにいるスライムは、体色が赤っぽいのが多く見える。
「うん。まあ、そうだね。それは間違っていないよ」
それに対して考助の返答が微妙になっているのには、わけがある。
赤っぽい体のスライムが多いのは確かなのだが、それ以外の色をしたスライムもいないわけではないのだ。
それらの進化したスライムが、ここで発生したのか、それとも別の場所にある妖精石周辺で発生してここまで移動してきたのかまでは、確認できていないのである。
一度名前で区別をして確認しようとしたが、あまりに数が多すぎて断念した経緯もある。
スライム島にいるスライムは、召還した数だけで四桁を越えていたりする。
名前の頭に方角を示す記号のような物をつけて区別しようかとも一度考えたが、さすがに可愛そうになって止めたこともある。
一度でもそんな名づけをしてしまうと、眷属たちを物扱いしてしまうような気がしたからだ。
もっとも、眷属たちはそんなことで文句を言ったりはしないので、あくまでも考助の気持ちの問題だ。
名付けによる出身地(?)の区別は断念した考助だが、妖精石による進化の影響まで調べるのは諦めたわけではない。
そもそもひとつの妖精石だけでその属性の進化が起こりやすくなるのは、すでに別の階層で確認しているのだ。
スライム島で確認したいのは、それらが混じったときにどういった変化が起こるのか、ということだ。
「何か違った進化がみられたということですか?」
考助の説明を聞いてピンと来たミアが、確認のためにそう聞いてきた。
「そうだね。それだけじゃなくて、上位種もより生まれやすくなっているみたい」
何の影響かは分からないが、ひとつの妖精石よりも複数おいているほうが、上位種が生まれやすくなっている。
もっとも、いまその影響が確認できているのはスライムだけなので、何か特殊な条件が発生しているのかもしれない。
残念ながらそれが何かまでは、今のところ特定はできていないのである。
スライム島の中で一番進化している眷属を見たいというミアの要望に応えるため、考助たちは島の中央にある山の頂上まで来た。
ただし、頂上といっても標高は千メートルもないくらいである。
頂上へは、召喚した飛龍たちに乗って移動した。
そこにいたのは、体長が一メートルほどにもなる巨大なスライムだった。
その形は球体に近いが、不定形生物らしく動くたびに形が変わるので、完全な球体になることはなかった。
もっとも、眷属であることには違いがないので、考助が飛龍から降りるなりその巨体に似合わないほど素早く近寄ってきてポヨンポヨンと体当たりを繰り返してきた。
勿論、体当たりといっても体重を乗せているわけではないので、考助がよろめくことはない。
「・・・・・・この子が、最強のスライムですか」
「うん、まあ、そうなんだけれどね」
考助に対する態度を見れば、とてもそんな感じは受けない。
ただし、彼(彼女?)のステータスを見れば、愛くるしいだけのスライムではないことは一目瞭然である。
何しろ、全属性の魔法に対する耐性があり、並みの物理攻撃でも傷がつかないようになっている。
もし冒険者がこのスライムと出会えば、裸足で逃げ出すレベルだろう。
まさしくマスターオブスライムといった能力を持つスライムなのだ。
考助からステータスに関しての話を聞いたミアが、一分近く絶句してしまったのは、ある意味当然のことなのであった。
マスターオブスライム!
・・・・・・なんとなく呼びたかっただけで、種族名というわけではありませんw
なんという種族名が良いでしょうかね?(まだ決めてないです)
ちなみに、某ゲームに出てくるスライムと違って、移動は非常に遅いです。
(ころころ転がればそこそこ速度は出ますが)




