(10)日常
朝。
目を覚ました考助は、一通りの身支度を終えて朝食を取るために食堂へと向かう。
そこで同じように食事をしている女性陣と情報交換をしながら、ミツキが作った朝食に舌鼓を打つ。
朝食を終えた考助が次に向かったのは、アマミヤの塔の制御室だ。
制御室にあるモニターで、前日と違っていることはないか、何か異常が起きていないかなどをチェックする。
大きな改変をしていないときは基本的に何も起きないのだが、ナナやワンリが変化したときのように劇的に変わることもあるから気の抜けない作業になる。
もっとも、ここ最近は塔の各階層に手を加えることもほとんどしていないので、そうそうそのような変化は起きない。
それでも毎日チェックをしているのは、すでに習慣になっているためだ。
「今日は何か設置したりはしないのですか?」
隣で考助の作業を見ていたミアが、何かしてほしそうな表情になって聞いてきた。
毎日いるわけではないが、大体こうして朝一緒にアマミヤの塔の状態をチェックするのが常だった。
そして、これと同じ質問をしてくるのもいつものことのため、返す答えも同じだった。
「いまは長期的な調査をしているのがほとんどだからね。変に手を加えないほうがいいんだよ」
「そうですか」
ミアも考助が同じ答えを返してくるのはわかっているので、特に不満そうな表情になるわけでもなくただ頷いた。
塔のチェックを終えた考助は、ミアと別れてくつろぎスペースへと向かう。
そこでしばらくだらだらしながら同じようにくつろいでいる誰かと話したりするのだが、今日いたのはシュレインだった。
「あれ? 珍しいね」
シュレインには、北の塔にあるヴァンパイアとイグリッドをまとめる仕事があるため、朝ここにいることは珍しいのだ。
「何。今日は完全休暇をもらったのじゃ」
「ああ、なるほど。それはゆっくりできていいね」
「うむ。せっかくなので、寛がせてもらおうと思っての」
「そうだね」
シュレインと何気ない会話をしたあとは、研究室に行って魔道具や神具についての研究を行う。
といっても、毎回毎回、新しい物を作っていたりするわけではない。
塔の機能で出した本を読んだりするのもこの時間帯だったりする。
結局この日の午前は、目に付いた本を手に取って読み込むことで終わった。
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昼。
読書をひと段落させた考助は、食堂に向かい食事を取る。
昼食は大体バラバラになることが多いので、各自でありあわせの物を見繕って食べるのがほとんどだ。
管理層で昼食を取らない場合も多いため、自然とそういうことになっていた。
ただし、考助に限っていえば、コウヒかミツキが作るので、出てきたものを食べることになる。
箸を手に取っておかずを口にした考助は、何かに気付いたかのようにコウヒを見た。
「ん? 今日の昼はコウヒが作った?」
「は、はい。・・・・・・お口に合いませんでしたか?」
探るように見てきたコウヒに向かって、考助は慌てて首を左右に振った。
「いやいや、そうじゃないよ。また、腕を上げたなあって思ってね」
出会ったばかりの頃は、並みの腕といった程度だったコウヒの料理の腕も、今ではかなり上達している。
ミツキにはまだまだ及ばないが、それでも二十年という歳月は伊達ではない。
考助の言葉に一瞬だけホッとした表情を見せたコウヒは、すぐに笑顔になった。
「ありがとうございます。また褒めてもらえるように頑張ります」
「え? あれ? なんか、その言い方だと僕がほとんど褒めてないみたいだけれど?」
「い、いえ! そんなつもりでは!」
からかうように言った考助に、コウヒは慌てて両手をパタパタとさせた。
そして、それを横目で見ていたミツキは、そっと右手を口元へと持っていった。
この二十年、何度となく繰り返されている光景だった。
昼食を取り終えた考助は、塔の各階層を見回り始めた。
これはいつもではないが、週に二、三度は行っている定期行事といってもいいだろう。
特別な何かをするわけではないのだが、眷属たちを見ながら各拠点で大きな変化が起こっていないかをチェックするのだ。
といったことを普段は説明している考助だが、それを聞いたコレットからの返答は、
「眷属たちに囲まれて、ふわふわモフモフしに行っているだけでしょう?」
ということになる。
現に今も考助は、多くの狼に囲まれながら草原に寝そべって近くにいる狼の背を撫でていた。
コレットの言葉に反論するための説得力などあるはずもない。
ちなみに、各階層を見回らないときは、道具作成の研究にあてられたり単にくつろぎスペースで休んでいることもある。
基本的にこの時間帯は、考助がやりたいことをやるための時間なのであった。
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夜。
日が沈んでしまえば、塔の中でできることはほとんどなくなる。
当たり前だが人工の光などは全くないので、暗くなって何も見えなくなるためだ。
そのため、夕食の席はメンバーのほとんどが揃うことになる。
勿論、シュレインは里にお呼ばれすることもあるし、子育て真っ最中のコレットやピーチはいないときのほうが多い。
この日は、たまたま都合があったため全員が揃っていた。
そして、事前に全員が揃うことがわかっていたミツキがその腕を振るい、テーブルの上には豪華な食事が並べられていた。
それらの食事を見て、考助が感嘆の声を上げた。
「これはまた豪華だね」
流石にいつもいつもこんな食事をしているわけではないが、ミツキや料理をする女性陣の気が乗ったりしたときには、こうした豪勢な食事になることがある。
「こうした高級な食材を使った食事を見ると、管理層に来てよかったと思えるな」
顔をほころばせながらフローリアがそう言うと、作った当人であるミツキがからかうような視線を向けた。
「あら。普段の食事は大したことがないというかしら?」
「それこそまさかだ」
ミツキの切り返しに、フローリアはまじめな表情になって答えた。
いくら食材の質が落ちているとはいえ、普段のミツキが作る料理も絶品といえる物ばかりなのだ。
ミツキが作った料理に舌鼓を打ちながら、それぞれのメンバーが思い思いの話をしている。
折角の機会だということで、今日はアルコールも出ている。
「・・・・・・ん? これはもしかしなくても、ヴァンパイアの新作?」
「ああ、そうじゃ。生産者は自信作と言っておったが、どうじゃ?」
「なるほどね。いや、確かにこれは凄いと思うよ」
酒の味が分かるほど詳しい考助ではないが、それでも今まで飲んできたものよりも数段上だということはわかる。
ちなみに、シュミットの持ち込み分も含めてかなり高級な物を飲み続けている考助の舌は、本人も気付かないうちにかなり肥えている。
「ほう。それは、あ奴も喜ぶじゃろうな。塔に移ってからの年月で、カミルの根もしっかりと根付いたと言っておったからの」
カミルはこの世界におけるブドウのことだ。
「なるほどね。今までもそうだったけれど、これからはもっと期待できるということかな?」
「ああ、そうじゃの」
考助と同じようにそのワインを口にしたシュレインは、満足そうに大きく頷くのであった。
結局この日の食事は、かなり長時間続くこととなった。
珍しく女性陣のほとんどが酒を口にしたのもその原因のひとつとなっていた。
最後には自然な流れでお開きとなったのだが、酔いつぶれた者がいなかったのは流石というべきだろう。
いろんな意味で、酒につぶされないように訓練されている者たちばかりなのだ。
ある程度の片付けまで終えた一同は、各自の部屋に戻って就寝となる。
これが、考助のここ最近の一日の流れなのであった。
何となく書いてみたくなったので書きました。
今まであったようでなかった一日の流れです。
部分部分の話は書いていたんですけれどね。(特に夜の宴会はw)
最後の豪勢な食事は、普段通りの風景にしようかとも考えたのですが、なんとなくコウヒとの対比も含めて豪勢にしてみました。




