(7)新たな修行
いつものお勤めをするために神殿を訪ねたココロは、そこに見慣れた女性がいることに気付いた。
基本的に現人神を信仰する場合、他の神々と違って神殿にある偶像などを拝んだりすることはない。
それでも、巫女として神殿で修行の一環として、神殿で行わなければならないこともある。
修行のために神殿に来ているココロだが、同じ女性が神殿の清めを行っているのを何度も見ていた。
そのおかげで、声を掛け合う仲になっていた。
「おはようございます。今日も熱心ですね」
「あら、巫女様。おはようございます。今日もお務めですか?」
「はい、そうです」
「そうでしたか。それでは、私は邪魔にならないように、あちらを清めますね」
その女性は、すでに勝手知ったように、ココロがいつも使っている場所とは別の場所を示した。
ココロが修行を行うところに何度も遭遇しているので、どこを清めれば邪魔にならないかをわかっているのだ。
「申し訳ありません。よろしくお願いいたします」
ココロとしては、気にせず続けてもらってもそれはそれで修行の一環となるのだが、わざわざ邪魔にならないように申し出てくれているのを拒否するつもりはない。
ありがたくお礼を言って、いつものように修行の準備を始めた。
ココロが神殿で行っている修行は、神々の神力を感じ取るためのものだ。
管理層にある部屋で普段行っている修行と同じものだが、この神殿でしかできないこともある。
いつものように集中した状態に入ったココロは、神殿に漂う馴染みの神力を探り始めた。
ココロが探っている神力は、今いる神殿を主神として祀っている考助のものになる。
今ココロが行っている修行は、遠く離れた場所からちゃんと考助の神威を感じ取ることができるかどうかの確認だ。
他の神々と同じように、道具なしで交神が行えるように神威を感じ取って、そこから糸電話の糸を繋ぐように考助へと繋げるのである。
既に何度か成功はしているので、今日はもう一度できるのかの確認と、もっとスムーズに繋ぐための訓練を行う。
ここで気をつけなければならないのは、神力念話と混同しないようにすることだ。
神々の神威を感じ取って受ける神託と神力念話は、同じ神力を使っているとはいえ、厳密には違うものだ。
そもそも神力念話は相手が神でなくとも使えるものなので、難易度でいえば神力念話のほうが簡単だったりする。
ココロは、慣れた感じで神殿に漂う考助の神威を感じ取り、その上で考助に向けて言葉をかけた。
『・・・・・・お父様。繋がっていますか?』
『ん? ああ、ココロか。大丈夫だよ』
軽い調子で考助から答えをもらったココロは、安堵のため息をついた。
何度も成功しているとはいえ、上手くいくかどうかは毎回不安なのだ。
そんなココロの思いを読み取ったのか、考助がクスリと笑った。
『そんなに心配しなくても、もう大丈夫だと思うけれどね』
『・・・・・・お父様はそうおっしゃいますが、やはり不安なものは不安なのです』
若干ふくれっ面になりつつココロがそう答えると、さざ波ように考助の笑い声が聞こえてきた。
顔が見えているわけではないが、お互いにどんな顔をしているのか、想像に難くない。
親子だからこそできる気安く笑って見せた考助は、フォローするためすぐに話しかけた。
『まあ、僕が相手ならいくらでも練習すればいいから』
『は、はい。ありがとうございます』
実の父親とはいえ、今は現人神と巫女という立場だ。
今更という気もしなくはないが、一応ココロも無礼な態度にならないように気をつかっていた。
もし、変に慣れてしまうと、他の神々と同じように交神をしたときに、態度が崩れてしまう。
そのため、他の神々の交神時にはそうならないように、ある程度の意識は持つようにしている。
考助もそのことがわかっているので、敢えて何も言っていない。
ココロのやりたいようにすればいいというスタンスなのだ。
ちなみに、ココロの考助に対する呼び方が、神に類するものではなくお父様になっているのは、ココロなりの考助への感謝の証である。
『それにしても・・・・・・ん? あれ?』
随分とスムーズにできるようになったねと続けようとした考助だったが、ふととあることに気付いた。
『お父様? どうされました?』
確認できるのが声だけとはいえ、さすがに考助の戸惑いに気付いたココロが、不思議に感じて問いかける。
『んー? ちょっと確認だけれど、そこにいるのはココロだけ? リリカはいないよね?』
『え? はい。リリカさんはいらっしゃいませんが?』
『じゃあ、やっぱり気のせい・・・・・・といいたいけれど、どう考えても気のせいじゃないよな、これは』
そんな声が聞こえてきたが、ココロには考助が何を言いたいのかがわからない。
『お父様?』
『ああ、うん。じゃあ、また確認だけれど、ココロの近くに他に誰かいる?』
『え、ええ、はい。いつも神殿を清めてくださっている方がいますが?』
一応周囲を見回したココロは、自分と先ほどの女性以外にいないことを確認した。
ココロが集中している間に、他の人が入って来ている可能性もあるのだ。
『そっか。うーん。どうしようかな・・・・・・』
再び悩みだした考助に、ココロは戸惑うことしかできなかった。
少なくとも交神中にこんなことを言い出す考助は初めてだった。
時間にして十秒ほど悩んだ考助は、ココロにとあるお願いをすることにした。
『それじゃあ、お願いなんだけれど、その人の名前とか聞いてもらえるかな?』
相変わらずココロにとっては意味不明な考助の言葉に、首を傾げつつココロは答えた。
『名前ですか? それでしたら、サラサという名前の女性ですが』
何度も顔を合わせるうちにちょっとした自己紹介も済ませていたため、ココロはすぐにその名前を教えた。
ついでに、そのときに聞いた情報も合わせて伝えることにした。
『ああ、そういえば、クラウンに勤めている奴隷だとおっしゃっていましたね』
『・・・・・・んん? クラウンにいる奴隷でサラサ?』
どこかで聞いたことのある名前に、考助が戸惑いの声を上げた。
さらに続けて、ココロからは少し離れたところで何か話している声が聞こえてきた。
『あー、そっか、なるほどね』
納得したような考助の声に、向こう側の話の内容まではわからなかったココロが首を傾げた。
『サラサさんが、何かありましたか?』
『うん、まあ、あったといえばあったんだけれどね。さて、どうしようかな? うーん・・・・・・』
考助はそんなことを言いながら、再び悩むような唸り声を上げた。
傍にいるわけではないココロには、いま考助がどんな顔になっているのか、想像するしかない。
結局、また十秒ほど悩んだ考助だったが、ようやく決断したのかココロに話しかけてきた。
『ココロからサラサにひとつだけお願いしてほしいことがあるんだけれど、いいかな?』
『お願い、ですか? どういった内容ですか?』
首を傾げながらココロがそう聞くと、考助が今までさんざん煮え切らない態度を取っていた理由を話し始めた。
そして、それを聞いたココロは、考助のこれまでの態度に大いに納得した。
考助たちにとっては今更という話なのだが、ごく普通一般人であるサラサにとっては、かなり重要なことになる。
『どうやって話をするかはココロに任せるよ。・・・・・・シルヴィアからの伝言で、これも修行の一環です、だって』
そんなことを言われてしまえば、ココロには断ることができない。
もちろんシルヴィアは、それをわかったうえで言っているのだ。
『はい。わかりました』
シルヴィアからの無言の圧力に、ココロは最初から拒否することなど考えずにそう返答するのであった。
一体どんな内容なんだ~。(棒)
・・・・・・あ、はい、すいません。
これまでの話を見てきてくださった読者ならすぐに分かるかと思います。
単にページが足りなくなっただけです><
ちなみに、サラサは、以前にも出てきておりますw
答えは次話で。




