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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第1章 塔に向かおう
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(6)取引

よろしくお願いします。

 商人シュミットの馬車に乗った考助たちは、リュウセンへ向かって移動していた。

 幸いにも馬車や馬そのものには被害がないとのことで、再度の襲撃がなければ2時間ほどで着くとのことだった。

 馬車の中には考助たち三人とシュミットのほかに、護衛隊リーダーのゴゼンも同乗していた。

「では、改めまして、助けていただきありがとうございました。先ほどお伺いしたところ何か事情があるとのことでしたが、買取自体は特に問題ありません。その他は本当によろしいのですか?」

「はい。金銭はいりません・・・が、聞きたいことがあるのでお答えいただけないでしょうか? 端的に言えば情報がほしいんです」

「情報・・・ですか?」

 シュミットの目が光ったような気がした(勿論考助の気のせい)が、考助はそのまま返答する。

「ええ。その事情というのが、実は私たちは数日前までは、ガゼンランの塔にいたはずなんです」

 この話は、考助が[常春の庭]で過ごしていた時にエリスから教えてもらった知識である。

 別世界から転移したとも正直に言うわけにもいかないので、突然現れた言い訳ができないかと問われたとき用の答えだった。

 考助もわざわざ頭が疑われるような言動を取るつもりはない。

 ちなみに、ガゼンランの塔がどんなところかは教えてもらっていない。

 一度聞いたのだが、いずれ自分で行って確かめてみては、と笑顔で言われてしまったのだ。


 考助の話を聞いたゴゼンが反応した。

「・・・転移の罠か?」

「ええ・・・恐らくそうなんでしょう。気づいたらこちらに飛ばされていました。・・・それで、出てくる魔物で予想したんですが、ここはセントラルで間違いないですか?」

 考助のその問いに、シュミットとゴゼンが頷く。

「やはり・・・ですか。・・・それでまあ、何日かさまよいながら何とか街道らしきものを見つけて歩いていたら、あなたたちが襲撃されている所を見たというわけです」

「そういうことでしたか・・・」

 シュミットが大きく頷いた。

 それを見て考助は、内心でホッとした。

 街道に出るまでに、三人で話し合って決めた内容である。本当のことを話すわけにもいかないのだから嘘をつくのはしょうがない、と割り切っている。

「ということは、欲しい情報というのは、素材とかの相場ですか」

「あとは、使われてる通貨などもですね」

「そうですね。わかりました」

 それから通貨やその他、主に素材の相場に関しての話をシュミットから聞いた。

 ガゼンランにいた時のことを突っ込まれなくてよかったと考助は思ったが、あまり人の過去を詮索するようなことは少ないのかもしれない。


(シュミットはやり手っぽいし)


 ゴゼンからはこの近辺の魔物から採れる素材についての話をしてもらった。

 あとはある意味これが一番重要なことだろう。お金の稼ぎ方である。

 これは、簡単に答えが返ってきた。

 リュウセンには公的に運営されているギルドがあるのでそこに登録して仕事を請け負えばいいとのこと。

 塔からの転移したと言うことにしてあるので、身分証などはその際に紛失したことにしてある。公的ギルドの利用方法は、他の大陸と変わらないという説明があった。

 実際は考助たちはどの大陸でもギルド登録はしていないので、利用方法等は分からないのだが、その辺は濁している。

 どちらにせよギルドに行かなければ、身分証は得られないので、その時に聞けばいいと考えていた。

「ミツキ程の実力があれば、問題なく稼げるだろうさ」

 とはゴゼンの弁。それを聞いたシュミットも大きく頷いている。


 ちなみに、この世界ではギルドは、世界に一つだけ存在するような大きな組織ではない。それどころか、乱立している。

 何故、そんなことになるのか。

 この世界では、魔物の退治などを請け負う者たちを冒険者と呼んでいる。

 基本的には冒険者は一パーティー六人が基本になる。

 もちろんソロだったり、六人より少ない数でパーティを組んでいる者もいる。

 それ以上の人数になる場合は、ギルドとして活動するのだ。

 小さいギルドだと公的ギルドからそれぞれパーティー単位で仕事を請け負ったり、直接商人や職人へ素材を売ったりして運営する。

 大きいギルドになってくると直接仕事の依頼を請け負ってそれをメンバーに仕事を振ったりすることになる。

 ほとんどの冒険者が、何らかのギルドに所属する(あるいは創る)ことになるが、その前段階として公的ギルドを利用する者がほとんどなのだ。

 ある意味公的ギルドは、冒険者の卵を育てる機関ともいえる。

 魔物に相対する冒険者の数が、ある意味で町の運命を決めるともいえるので当然と言えば当然である。


「では、そろそろ提供いただけるという素材を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

 話題がそれて、セントラル大陸の料理の話にまで及んだところで、シュミットが本来の話題に戻した。

 雑談といってもこの世界に来たばかりの考助にとっては貴重な生の情報なのだが、そればかりに熱中して聞いていた考助が、そういえば、といった表情になった。

 コウヒとミツキは、話が盛大にそれていることに気づいていたが、基本的にこの二人は考助のすることに口を挟むことは、ほとんどない。かといって、言われたことしかやらないというわけではないのだが。


 シュミットに素材を見せるように言われた考助は、コウヒを見て素材を出すように促した。

 コウヒが空間に右手を伸ばして、何かの入れ物から物を取り出すようなしぐさをした後、その右手には一枚の毛皮が現れていた。

 それを見たシュミットとゴゼンが、二重の意味で驚いた。

「なんと!? アイテムボックスの魔法ですか!」

「しかもその毛皮、ブラックベアーのじゃねえか!?」

 実はコウヒが使ったのは、アイテムボックスの中でも上級の部類だったりするのだが、そんなことは近くで見ていても区別は出来ない。

 そもそもアイテムボックスの魔法に段階があることすらあまり知られていなかったりする。

「・・・ええと。そんなに珍しいんですか?」

 戸惑っている考助に、シュミットとゴゼンの二人は微妙な顔をした。

「・・・そうですね。どちらも全く見ないというわけではありませんが、珍しいのは間違いないでしょうね」

「アイテムボックスに関しては、商人たちにとっては喉から手が出るほど欲しい魔法だ。それからブラックベアー討伐は、セントラルの冒険者にとっては一流である証だからな」

 それを聞いた考助は、一瞬失敗したかと思ったが、見せてしまったものはしょうがない。それに聞く限りではそこまで珍しいほどでもなさそうだ。

 コウヒとミツキの二人と一緒に行動する限りどのみち目立ってしまうだろう。これくらいは許容範囲であろうと頭を切り替えた。

「そうでしたか。まあ、魔法に関しては非常に便利に使わせてもらってます。ブラックベアーに関しては、飛ばされた先でいきなり出会ったものですから、とりあえず毛皮だけ確保しておきました」

「・・・なるほどなぁ」

 相槌を打ったのがゴゼンで、シュミットはコウヒから手渡されたブラックベアーの毛皮を、さっそく鑑定していた。


 鑑定を待っている間考助は、気になったことをゴゼンに聞いた。

「ブラックベアーを倒すのが、冒険者にとっては一流の証になるのですか?」

「ああ。このセントラルでは、そうなるな。ブラックベアー自体はさほど強い魔物じゃないってのは知られているが、何せセントラルではブラックベアーが出る場所ってのが、大陸の内陸部だ。そこまでたどり着くってのが、まず難しいとされてるのさ」

「なるほど、そういうことですか。毛皮が高値で取引されるのを知ってたので、たまたま毛皮だけ取っておいたんですが・・・」

 それを聞いたシュミットが、鑑定を途中でやめて少し残念そうな表情をした。

「ということは、毛皮以外は処分されてしまったのでしょうか?」

「・・・残念ながら・・・」

「そうですか、残念です。ブラックベアーの内臓なども、薬剤の材料として非常に重宝するんです」

 ゴゼンも勿体ない、という顔をしている。

「なるほど。そうですか・・・といってもあの状況ですと全部の素材を持って帰れるかもわからなかったので、致し方ないです」

「まあ、お前さん方の状況だとそうだろうな」

「そういうことでしたか。・・・・・・それはともかくとして、こちらの毛皮ですが、素材としては申し分ありません。そうですね・・・大金貨二枚ほどでいかがでしょうか?」

 それを聞いた考助は、驚いた。

 大金貨一枚で100万セント(1セントが大体1円である)なので、毛皮一枚で200万セントの稼ぎである。

 さらに、そもそもの価値を知らなかった考助もそうだったが、何気にゴゼンも驚いていた。

「おいおい。シュミットさん、本気かい!?」

「ええ、本気ですとも。・・・ブラックベアーの毛皮は、冒険者たちの防具用の素材としても使えますが、貴族のご婦人たちのコート用としても人気が高いんですよ。

 そもそも毛皮は非常にかさばりますので、冒険者たちが持ち込む場合は、小さかったり傷がついてたりするのがほとんどです。ところがこの毛皮は、状態が完璧の上に大きさも申し分ありません。

 はっきり申し上げれば、それ以上の金貨を出しても欲しがる顧客は山ほどいるでしょう」

「ほー、なるほどなぁ」


 そんな説明を聞きながら考助は、内心頭を抱えていた。

 実はブラックベアーが襲ってきたのは、最初の一回だけではなかった。その数全部で十体。その毛皮はコウヒとミツキのアイテムボックスに分けて入れてある。

 その全てを売ってしまえば、全部が同じ値段だと合計で2000万セントということになる。

 もともと全部を出すつもりはなかったが、一枚だけでも十分すぎるほどの稼ぎである。

 あまり悪目立ちするつもりがなかったのだが、最初の一枚だけでも十分目立ってしまった。

「・・・おや? 考助様、どうかしましたか?」

 そんな考助の葛藤を見抜いたのか、それとも商人としての嗅覚が働いたのか、シュミットが笑顔で問いかけてきた。

 それを見た考助は、腹をくくった。

「えーと、実はですね・・・毛皮、それだけではありません」

「・・・・・・は?」

 シュミットが笑顔のまま固まった。

「あー。コウヒ、全部見せてあげて」

「かしこまりました」

 考助に指示されて、コウヒがアイテムボックスからブラックベアーの毛皮全てを取り出した。当然指示されていないミツキは、動かないし余計なことも言わない。

 さらに追加された四枚の毛皮を渡されたシュミットは、慌ててチェックを始めた。

 それを横目にゴゼンが、呆れたように考助たちを見て言った。

「あー、考助さんよ。俺は、羨ましがればいいのかい? それとも、呆れればいいのかい?」

 気分的には、どちらも、といったところであろう。

「・・・えーと・・・まあ、言わせてもらえれば、僕自身は全く戦闘はダメなんですが・・・」

「そんなことは、ある程度の腕があるやつが見れば、一目瞭然だろうさ」

「・・・ですよねー」

「まあ、ばれた場合は間違いなくコウヒとミツキに、ギルドのスカウトが殺到するだろうな」

「・・・・・・ですよねー・・・」


 考助とゴゼンは二人そろって、コウヒとミツキの方を見た。

「主様以外の指示を受けるなどありえません」

「そうよね。私達のご主人様は、考助様だけよね」

 きっぱりと言い放った二人を見たゴゼンは、考助の肩をポンポンと叩いた。

「・・・ま、せいぜい頑張れや」

「は・・・ハハハ・・・」

 励まされた考助は、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

コウヒとミツキは間違いなくチートです。

・・・・・・主人公は?


次話は翌日20時投稿予定です。


2014/5/16 ガゼンランの塔についての説明追加

2014/5/11 アイテムボックスに関して修正

2014/5/22 誤字脱字修正

2014/6/3 誤字修正

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